2020年11月10日火曜日

10- 「安倍政権下での改憲には応じない」の意味するところ(小林節氏)

  安倍前首相1日、山口県長門市で父の墓参りをした際に、「野党は安倍政権の間は改憲論議に応じないと言っていたが、その言い訳はもう通用しない」と記者団に語りました。

 小林節教授はそれは意味を取り違えていると述べました。そしてそれ以前の問題として現行の自民党の改憲4項目案は余りにも非常識なものなので、対応のしようがないからであることを具体的に明らかにしました。まさに「ここがおかしい」のオンパレードです。
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ここがおかしい 小林節が斬る
「安倍政権下での改憲には応じない」の意味
                          日刊ゲンダイ 2020/11/08
 政治活動を再開した安倍前首相が、「安倍政権下での改憲論議には応じない」としていた野党に対して、「今は菅政権なので、もうその言い訳は通用しない」と挑発した。
 しかし、話が全く噛み合っていない。
 安倍政権の時代に野党が主張していたことは、何よりも、「現行憲法を無視する安倍政権が提案する改憲案など論外だ」ということである。つまり、「閣議決定(違憲な解釈変更)と違憲立法と人事権を乱用した違憲な記録の破棄・改ざんにより現行憲法を無視してきた安倍政権が、その憲法破壊状態を固定化しようとして提案する改憲案など、相手にする価値がない」ということである。
 試しに、安倍政権下で新たに提案された改憲4項目を見てみても、あまりにも非常識な内容である。
 憲法典の中に「自衛隊」と明記して、自衛隊違憲論争を終わらせる提案は、それだけで「現状を何も変えるものではない」と強調された。しかし、その示された条文案は、今後は「必要」な自衛隊を保持するという提案で、現在の「必要・最小限」の自衛隊を黙って拡大するトリックのようなものである。
 非常事態に首相に立法権も託して人権を停止する「緊急事態条項」も、現行憲法の13条に明記された、「公共の福祉」により社会の存続を維持するために人権も例外的に制約できるという規定で十分である。
 参議院選挙区(地方区)の「合区を解消する」条項も、衆参ともに「1人1票の原則」を明文で軽視する、差別選挙制度の提案以外の何ものでもない
④「教育の充実」に至っては、国会で法律と予算を通せばできることで、そもそも憲法で定めるべき事項ではない。

 だから、このように筋違いでかつ「嘘つき」のごとき憲法改悪提案に野党は対応拒否の姿勢を貫いただけのことである。
 その上で、このような改憲自体を目的化した「お試し改憲」を経て、「明治憲法現代語訳」のごとき2012年改憲草案を実現しようとしている自民党の安倍後継内閣(菅政権)に対しても、主権者国民は同じく警戒を怠るべきではない。

 小林節 慶応大名誉教授
1949年生まれ。都立新宿高を経て慶大法学部卒。法学博士、弁護士。米ハーバード大法科大学院のロ客員研究員などを経て慶大教授。現在は名誉教授。「朝まで生テレビ!」などに出演。憲法、英米法の論客として知られる。14年の安保関連法制の国会審議の際、衆院憲法調査査会で「集団的自衛権の行使は違憲」と発言し、その後の国民的な反対運動の象徴的存在となる。「白熱講義! 日本国憲法改正」など著書多数。新著は竹田恒泰氏との共著「憲法の真髄」(ベスト新著)