2020年11月14日土曜日

14- 北海道での新型コロナ感染の急拡大について3教授に聞く

  北海道では新型コロナの感染が急拡大中で、既に1日当たりの新規感染者数は第1波、第2波のピークを5~10倍も上回り、この先どこまで拡大するのか分かりません。

 北海道新聞が、感染状況や道札幌市の対策の評価などについて、下記の3人の教授に一問一答の形で聞きました。
   札幌医大・當瀬規嗣教授札幌医大・横田伸一教授道医療大・塚本容子教授

 以下に3つの記事を紹介します。 
 これらは昨日の記事「北海道で「感染爆発」?! なぜ / 政府は感染急拡大に真剣に対応せよ」からたどれるので お読みになった方もおられると思いますが、記事にした方が長く保存できるのでそうしました。

 ここでも感染拡大防止策として、「外出自粛や行動制限などの強い対策は、実施するのは簡単だが、経済的な波及が非常に大きいので・・・」というジレンマが指摘されています。
 経済活動を出来るだけ維持しながら感染拡大を抑制するには、PCR等の検査を拡充するしかないということが第1波の時から言われていました。当時の日本の検査体制は外国に比べると桁外れに少ないかったのですが、今もそれほど増えていないという実態があります。
 政府は一体何をしていたのか、何をしているのかというのがあらためて問われます。
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<コロナ対策一問一答>感染急増はなぜ? 札幌医大・當瀬規嗣教授に聞く
                            北海道新聞 2020/11/11
 新型コロナウイルスの感染状況や、道、札幌市の対策の評価などについて、札幌医大の當瀬規嗣教授(細胞生理学)に聞いた。

 ――道内の新型コロナウイルス感染者が急速に増えています。
 「道内の現状は『感染爆発』と言える非常に厳しい状況です。北海道の感染者急増の理由は『冬の到来で気温が下がったためだ』との声も聞こえてきますが、感染の急拡大が始まった10月中旬ごろの道内は比較的暖かい日も多かった。ウイルスと気温との関連性はまだわかっておらず、気温が低下したから感染者が増えたとは言い切れないと思います」

 ――では急増の理由をどう考えますか。
 「東京では7、8月に感染が広がりましたが、道内は1日当たりの感染者数が数人から20人ほどに落ち着いていました。道や札幌市が、3~7月の感染第2波の経験を生かし、PCR検査の件数を増やして感染経路を追跡し、拡大を食い止めていたのだと思います。一方、札幌・ススキノの接待を伴う飲食店では感染者が出続けていました。9月下旬の4連休や、10月から政府の観光支援事業G0 To トラベル』の対象に東京が追加されたことで、人の動きが一気に活発化した。気持ちの緩みも重なって、ススキノから市中感染が広がったとみています」

 ――札幌市では新規感染者が連日100人を超えています。
 「札幌市では感染急増を受け、感染ルートを追跡する疫学調査が追いつかなくなっています。市保健所は応援の職員を投入し、感染者一人一人の動向を聞き取って感染経路の特定に努力していますが、G0 To』による人の動きのインパクトが大きすぎて、対応能力の限界を超えてしまいました。医療現場もここからが正念場です。今後、重症患者が増えれば、病床と人手が一気に逼迫(ひっぱく)する懸念もあります」

 ――どこかの段階で、感染拡大の芽を摘むことはできなかったのでしょうか。
 「感染対策と感染拡大は、シーソーのようなものです。対策が奏功して感染者が減れば人出が増え、再び感染拡大のリスクが高まります。9月ごろまでは、このバランスが保たれていましたが、人の移動が活発化した10月ごろから維持できなくなってしまいました。感染者が少なかった夏の時点で、疫学調査の態勢強化などを検討しておくべきだったかもしれません。ただ今の感染確認は予想を上回るペースで増えており、完全に対応できる態勢を事前に整えるのは難しかったと思います」

 ――道と札幌市は、ススキノ地区の接待を伴う飲食店などに営業時間の短縮を要請しています。どう評価しますか。
 「感染は既にススキノだけでなく、市中に広がっています。ススキノに限定した時短要請は非科学的で、どこまで有効か疑問です。またコロナは『3密』空間に漂う飛沫(ひまつ)がもたらすエアロゾル感染や、接触感染で広がります。地域を区切った対策に意味があるのは、空気感染する感染症の場合です。前提を誤った対策では、ススキノできちんと感染対策をしている飲食店も大きなダメージを受けることになり、一部の事業者に偏った負担を強いることにもつながりかねません」

 ――ここまで感染が拡大してしまった今、どんな対策が有効でしょう。
 「感染の広がりを抑えつつ、感染のエピセンター(震源地)を食い止めるという『両輪』の対策に取り組むべきです。つまり道民には2週間ほどの外出自粛を要請し、クラスター(感染者集団)が多発しているススキノの接待を伴う飲食店には休業を要請する。今はより広い範囲で人の動きを抑えることが必要で、休業要請の対象を絞れば、より手厚い補償も可能になるはずです。こうした両輪の対策を進めなければ、感染の急拡大を食い止めることは難しいでしょう」


<コロナ対策一問一答>感染急増はなぜ? 札幌医大・横田伸一教授に聞く
                           北海道新聞 2020/11/11
 新型コロナウイルスの急激な感染拡大の背景や必要な対策について、札幌医大の横田伸一教授(微生物学)に聞いた。

 ――道内の感染拡大に歯止めがかかりません。
 「感染者が増えた背景には、3~7月の感染第2波に比べて行政のPCR検査の件数が充実し、当時は確認が難しかった無症状者を捉えられているという点もあるでしょう。ただ、そうした事情を踏まえても、感染者が急増しているのは間違いない。重症者は今は第2波の時よりも少ないですが、少し遅れて表面化してくる可能性が高い。札幌・ススキノ地区以外での市中感染も広がり、病院や高齢者施設でのクラスター(感染者集団)も出ている。想像以上に感染が広がっている可能性もあります」

 ――感染拡大のプロセスをどう分析しますか。
 「10月上旬からススキノ地区の接待を伴う飲食店でクラスターが多発し、さまざまな業種に感染の連鎖が広がりました。家庭や職場にも飛び火して新たなクラスターが発生し、札幌から地方への拡大にもつながったのだと思います。10月から政府の観光支援事業G0 Toラベル』の東京発着の旅行が追加され、人の動きが活発化したことも大きい。世の中に『緩和基調』のようなものが広がり、『もうマスクをしなくてもいいんじゃないか』という意識が強まったようにも感じています」

 ――急増を防ぐ方法はあったのでしょうか。
 「結果論で言えば、10月にススキノでクラスターが相次いだ時に、対策を強化しておけば良かったと思います。ただ、そうしたタイミングを事前に判断することは非常に難しい。実際、8月ごろからは感染者の中心が高齢者から若者層に移ったことで重症者が減り、クラスターも規模が小さいうちに封じ込めることができていた。私も感染収束には至らなくても、比較的安定した状態が続くだろうと認識していました。しかし、感染者の増加で疫学調査のマンパワーが次第に不足し、感染経路を追跡することが難しくなり、ふたを開けてみたら予想以上に市中感染が広がっていた、という状況だと思います」

 ――道や札幌市によるススキノへの営業時間の自粛要請をどう評価しますか。
 「ススキノ地区への時短要請は、基本的な考え方は間違っていないと思います。クラスターが多発するススキノの感染拡大を防げば、市中への広がりも抑えられます。ただ今は市中感染も広がっており、対策のタイミングが適切だったのかという問題はあります。酒類を提供する飲食店に限定した対策で良いのか、という疑問もあります」

 ――感染拡大を抑えることはできるでしょうか。
 「外出自粛や行動制限などの強い対策は、実施するのは簡単ですが、経済的な波及が非常に大きい。慎重に考えるべきです。感染症に立ち向かうための一番の武器は一人一人が危機意識を高めることです。コロナ禍への『慣れ』で意識が下がってしまった人たちに対し、行政が効果的なメッセージを打ち出せるかがカギになると思います」


<コロナ対策一問一答>感染急増はなぜ? 道医療大・塚本容子教授に聞く
                           北海道新聞 2020/11/11
 新型コロナウイルスの急激な感染拡大の背景や原因などについて、北海道医療大の塚本容子教授(感染管理学)に聞いた。

 ――新型コロナウイルスの1日当たりの新規感染者が100人を上回る日が続いています。急増はなぜですか。
 「10月以降に急激に感染者数が増えたのは、気候との関係があると考えています。10月下旬に最低気温が一気に下がったところで、感染者が増えています。8月のお盆休みや9月の4連休、(政府の観光支援事業)G0 Toトラベル』も重なって、人出は少しずつ戻っていましたが、感染者数は大きくは増えていませんでしたし、さまざまな場面で感染予防も継続していました。インフルエンザが冬に流行するように、新型コロナにとっても気温、湿度が下がると生存しやすい環境になります。飛沫(ひまつ)も飛びやすくなります。これまでは、ソーシャルディスタンス(社会的距離)が1~2メートルで良かったとしても、これからの季節はもっと距離を空ける必要があるかもしれません。寒くなって屋内の換気が減り、暖房によって乾燥しやすくなったことも、感染を広げた一因だと考えられます」

 ――感染経路の分からない市中感染が増えています。札幌・ススキノでクラスター(感染者集団)が相次いだことと、市中感染の広がりの関係をどう見ますか。
 「必ずしもススキノから広がったわけではないと思います。症状が出にくい若い世代に感染が広がり、無症状の感染者から無症状の感染者につながっています。夏に感染者が減りましたが、ウイルスはなくなっておらず、一定程度、無症状の感染者がいたのでしょう。若者の間で気づかないうちに感染が広がっていたと考えられます。気温が下がってより多くの人に感染が広がり、症状が出る人も増えてきたのではないでしょうか」

 ――人の動きが活発です。
 「人の動きが活発になったから感染者が増えているわけではないと思います。マスクをちゃんと着けていれば感染を広げることはありません。人の活動が活発でも、換気とマスクで、感染拡大のリスクを減らせることをしっかりと発信していく必要があります。人出を抑制する対策で感染を防げるのは、その通りです。マスクを外して会話する機会が減るわけですから」

 ――道と札幌市によるススキノの飲食店の時短要請について、どう受け止めますか。
 「要請がススキノにとどまり、ススキノに行かなければいいと思ってしまうことが危ない。ススキノに行かなければ感染しないと思っている人がおり、ススキノ以外の繁華街が混んでいるという話も聞きます。ススキノでも常に換気を意識して感染予防に取り組んでいる店はあります。要請するならば、飲食店は全部一緒にすべきではないでしょうか。どの地域でも、予防をしっかりしなければ感染リスクは高まります。ご飯を食べる時にマスクを外し、会話することで感染のリスクが生じます。飲食店だけではなく、家や職場、生活の至るところで気をつけなければいけない事を、メディアも含めてしっかりと伝えていくべきです」

 ――道や札幌市は感染予防と社会経済活動の両立を目指しています。私たちはどんな心掛けが必要でしょうか。
 「道や市の対応が遅いから感染が増えたわけではありません。増やしているのは私たちなんです。私たちがマスクを外さなければ感染は減ります。感染を抑え込めるかは一人一人の行動に掛かっています。札幌以外でも感染者は増えています。地域にかかわらず、一人一人が危機感を持って行動することが大切です。ずっと言い続けてきましたが、『もしかしたら自分は感染しているかもしれない』という当事者意識が重要です。マスクを着用する、手洗いをする、換気をする、その基本的な行動を徹底してください」