2020年11月12日木曜日

学術会議問題を隠蔽するために米大統領選を冗長に報道するTV

 日本学術会議会員任命拒否問題で、菅首相の答弁能力の酷さが日に日に明らかになっています。野党の質問はただ1点、任命を拒否した理由を聞いているのですが、菅首相の答弁は迷走に次ぐ迷走を続け、ただグルグル回っているだけです。というよりも追いつめられると苦し紛れの言訳に走るので、一層辻褄が合わなくなるということの繰り返しです。
 身内の自民党議員たちも呆れているのですから、圧倒的多数の国民は尚さら菅首相の対応はお粗末すぎると判断する筈なのですが、実際にはそこまで世論は盛り上がっていません。
 植草一秀氏は、それは大半のテレビメディアが菅首相の迷走答弁の詳細を報道していないからだとしています。ニュースでは国会答弁で首相が窮地に陥っているところは避けて、逆にキチンと答弁しているシーンを選んで報じるというのが、安倍首相時代から一貫しているTV局のやり方です。ワイドショーも同様で、政府に批判が向くテーマは極力取り上げないようになっています。
 国会中継などを視聴できる人たちは極く限られていて、殆どの人たちはせいぜいワイドショーや19時/21時のニュースを見るだけなので、残念ながらそうした実態はなかなか伝わりません。

 植草氏のブログ記事「学術会議隠隠蔽狙い 大統領選冗長報道」を紹介します。
 併せて日刊ゲンダイの記事「世論調査と現実の乖離 菅首相の答弁は小学生並み支離滅裂」を紹介します。
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学術会議隠蔽狙い大統領選冗長報道
               植草一秀の「知られざる真実」 2020年11月10日
日本学術会議の会員任命拒否問題で菅義偉首相の答弁能力に疑問符が付けられている。
政府答弁は迷走に次ぐ迷走を続けている。
「自助」が表看板の菅義偉首相だが、国会答弁を「自助」で行えない。
一問一答のたびに、横から原稿を差し出してもらわないと答弁できない。
挙句の果てに官房長官や内閣法制局長官の助太刀を求める。
憲法第15条を盾に、「学術会議の推薦名簿の通りに任命する義務があるとまでは言えない」との内閣法制局との協議による見解を振り回すだけ。
しかし、1983年には「内閣総理大臣の任命は形式的なもの、学術会議の推薦の通りに任命する」との政府答弁が示されている。
この政府答弁を維持するとしながら、任命拒否については「学術会議の推薦名簿の通りに任命する義務があるとまでは言えない」を根拠として正当であるとの見解の一点張りだ。

仮に、「学術会議の推薦名簿の通りに任命する義務があるとまでは言えない」ことが正当であるとしても、学術会議法は
「優れた研究又は業績がある科学者のうちから」選考することを定めており、内閣総理大臣が憲法第15条を根拠に任命拒否をする場合には、相応の根拠が必要になる。
推薦した科学者の研究や業績が虚偽であることが判明した」あるいは、
推薦した科学者が重大な刑事事件の被疑者として逮捕された」などの事情が必要となるだろう。
任命拒否の理由については、「個別の公務員の人事に関わることについては答弁を差し控える」の一点張りだ。
しかしながら、菅義偉氏は著書で総務省のNHK担当課長の更迭について、理由を明らかにしており、個別の公務員の人事に関わることだからといって理由を明らかにしないということにおいて一貫性を示していない。

国会審議の詳細を知れば、圧倒的多数の国民が菅首相の対応、菅内閣の対応が不適切であると判断するはずだ。ところが、その世論が沸騰していないように見えるのには理由がある。
それは、大半のテレビメディアが菅義偉首相の迷走答弁の詳細を報道していないことにある。
この重要事項を報道せずに何をしているのかと言えば、米国大統領選の報道だ。
米国大統領選では一部激戦州の開票が遅れた。遅れた理由は郵便投票が多数存在したこと。
トランプ大統領は郵便投票の多くがバイデン票でトランプ票が少ないことを知っている。
事前から指摘されていたことだ。
当初の投票所の投票開票でトランプ氏が優勢になり、その後、郵便投票が開票されるに連れてバイデン票が増えることはあらかじめ想定されていた。
開票結果が明らかになるのに時間を要する。
激戦州が複数存在しており、どちらの候補者が勝利するかが確定するのに時間がかかる。

これらがすべて明らかにされていた。日本の情報番組が米国大統領選を特集しても、ひとつの番組の時間内に大きな事態の進展が見られることはほとんどない。
したがって、情報番組、報道番組の全時間を米国大統領選に充当すること自体が極めて不適切だ。要点を解説すれば10分もあれば十分だ。
ところが、大半の日本の情報番組が足並みを揃えたように、連日連夜、米国大統領選報道一色に染め抜いた。
その結果、菅内閣発足後の初めての国会論戦である衆参両院の予算委員会関連報道が殲滅された。
予算委員会の一問一答を詳細に報道すれば、菅義偉首相の答弁能力が欠落していること、菅内閣の答弁が迷走に次ぐ迷走を続けていることが明かになる
逆に言えば、だからこそ、大半のテレビ放送が国会審議報道をせずに米国大統領選挙報道に終始したのだ。
菅内閣の極めて悪質なメディアコントロールが菅内閣の支持率急落を防ぐ最大防波堤になっている。
           (以下は有料ブログのため非公開)

巻頭特集
世論調査と現実の乖離 菅首相の答弁は小学生並み支離滅裂
                       日刊ゲンダイ 2020年11月10日
                      (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
 大接戦の末、前代未聞の展開になっている米大統領選に世界はクギ付けだ。敗戦確実の共和党のトランプ大統領はいつになったら「敗北宣言」をするのか、政権移行チームを始動させた民主党のバイデン前副大統領はどんな国づくりを進めるのか。日本もご多分に漏れずメディアの報道は米国一辺倒だが、目を光らせるべきは海の向こうの超大国の動向よりも、足元の国政の危うさの方だろう。
 先週、衆参両院で4日間、計28時間近く開かれた予算委員会。菅政権発足直後に強行された日本学術会議の任命拒否問題が焦点となる中、あらわになったのは菅首相からにじみ出る独裁気質、そして隠し切れない稚拙さだ。
 学術会議が推薦した会員候補6人の任命拒否の理由を追及された菅は「人事に関することなので答えは差し控える」の一本やりで逃げ回ったものの、次第にボロを出し始めた。除外に至る経緯について「推薦前の調整が働かず、結果として推薦されたものの中に任命に至らなかった者が生じた」と答弁。つまり、学術会議が官邸の意向に反して候補者リストの事前提出に応じなかったため、推薦を突っぱねたということ。「総合的、俯瞰的観点」や「多様性」は、やはり建前に過ぎなかったのだ。

幾重にも重なる違法行為
 菅は「以前は学術会議が正式の推薦名簿を提出する前に、さまざまな意見交換の中で、内閣府の事務局などと学術会議会長との間で一定の調整が行われていた」とも言い、安倍政権下の2017年からこうした「事前調整」が慣例化していたと居直っていた。これで、違法行為を幾重にも重ねていた疑いがますます濃厚になった。
 そもそも、首相による任命拒否は学術会議法に反しているし、「事前調整」は政治介入そのもので学術会議の独立性を毀損している。菅が推薦リストを「見ていない」と明言したことから、学術会議と「事前調整」をしてきた杉田和博官房副長官が排除に関与した疑惑が浮上しており、官僚が実質的に判断していたのなら首相の任命権は骨抜きだということになる。どれを取ってもメチャクチャ。言い訳にもならない。菅は自分が何を言っているのか分かっているのか。
 政治ジャーナリストの角谷浩一氏は言う。
「答弁能力について不安視されていたとはいうものの、まさかここまでヒドイとは思いもしませんでした。菅首相は目指す社会像に『自助、共助、公助』を掲げていますが、自力でマトモに答弁できない首相に自助能力があるのでしょうか。ここへきて与党内から解散風が吹き始め、年明けの通常国会冒頭解散が再浮上しているのは、党内で菅首相をワンポイントとみなし始め、“ポスト菅”を見据えた動きともいえます。自民党内からは“スガ隠し”で選挙を戦うしかないとの声も上がっている。コロナ禍を理由にオンライン選挙に徹した東京都の小池知事と同じパターンで、菅首相には一切遊説をさせないというのです。内閣支持率が低迷する前に解散総選挙になだれ込み、大幅な議席減は避けたいとの思惑です」

「任命義務なし」も「公務員選定罷免権」も破綻
 身内にさえ見限られつつある菅が錦の御旗のごとく振りかざしているのが、18年に内閣府の学術会議事務局が内閣法制局と協議した文書だ。「(首相に)推薦のとおりに任命すべき義務があるとまでは言えない」という見解が記されているのだが、衆院予算委で近藤正春法制局長官から「恣意的に、政府がその自由な裁量権を発揮したような形でのものは認められない」とクギをさされた。今頃、近藤法制局長官は首筋が寒いんじゃないか。なんせ菅は歯向かう者に容赦しない。著書「政治家の覚悟」では第1次安倍政権の総務相時代を振り返り、同省のNHK担当課長を更迭したことを誇らしげに書いているほどだ。官房長官として仕えた安倍政権では、憲法学者や世論も大反発した安保法制をまとめるために、法の番人である法制局長官のクビをすげ替えた“実績”もある。
 自民寄りの大手メディアは予算委の経過をサラッと取り上げただけで、〈首相は淡々とした「安全運転」の答弁に徹し、初の「一問一答」の論戦を乗り切った〉〈野党の批判に対する応酬もあった安倍晋三前首相とは対照的に、安全運転に徹した〉などと菅を持ち上げ、小学生並みの首相答弁をてんで伝えない。それどころか、学術会議問題に集中する野党をクサしていたが、それでいいのか。米国一色の報道の裏で、この国のデタラメは暗愚の新政権下で愕然とするほど加速している。
 立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)はこう言う。
「菅首相は国会答弁を通じ、自身と取り巻きのブレーンの能力の低さを白日の下にさらし、学術会議を政府の意のままに動く組織にしようとする意図も暴露してしまった。首相の任命権をめぐって菅政権は憲法15条の公務員の選定罷免権を根拠に正当性を主張しているのもゴマカシです。この条文の主語は〈国民〉であるにもかかわらず、〈内閣〉に読み替えている上、〈政府が行うのは形式的任命に過ぎない〉とした1983年の中曽根答弁とも矛盾します」
 腰を据えてNHKの国会中継をじっくりと見る有権者がどれほどいるだろう。仕事を終え、帰路あるいは自宅でネット配信をチェックする体力が残っているだろうか。国民世論は何も知らないも同然。驚かされる世論調査と現実の乖離が生じるわけである。

菅政権のキーワードは「暴力」
 NHKの世論調査(6~8日実施)によると、内閣支持率は前月比1ポイント増の56%に上昇し、不支持率は1ポイント減の19%。JNNの世論調査(7~8日実施)では、支持率は先月から下落したものの、3・9ポイント減の66・8%にとどまり、不支持率は4・0ポイント増の28・2%だった。毎日新聞などの調査(7日実施)は政権発足直後と比べ、支持率は7ポイント減の57%で、不支持率は9ポイント増の36%。軒並み高支持率をキープしている状態だ。
「学術会議問題は学問の自由の侵害という視点のみで語られやすく、一般に共感を得にくいテーマなのかもしれません。ですが、この問題を看過すれば、いずれ社会全体に影響が及び、あらゆる分野で政権批判につながる動きはパージされる恐れがある。スガ政治のキーワードはひと言で言えば『暴力』。国会の多数派をよりどころにした『数の暴力』と、言論の自由の破壊をいとわない『言葉の暴力』です。安倍政権でその暴力性を完璧なものに仕上げ、それを引き継ぎ、内閣の暴走に歯止めをかける民主的手続きをぶっ壊そうとしている。戦後のレッドパージはGHQによるものでしたが、75年を経て日本政府の手によるパージが始まるのではないかと懸念しています」(金子勝氏=前出)

 野党は杉田官房副長官の国会招致と、内閣法制局と内閣府との協議内容を記録した内部文書の公開を重ねて要求したが、政府・与党は拒否。野党は予算委の集中審議を開くことも求めているが、回答は10日まで持ち越されている。学術会議をめぐる支離滅裂答弁、これで逃げ切りになったときの恐ろしさ。ズルズルいったその先には想像を絶する事態が待ち受けているかもしれない。