2020年11月1日日曜日

答弁不能で居直る首相/国会軽視の論点そらし/国会に対する責任どこに

 31日の各紙の社説の見出しには、「答弁不能」、「国会軽視の論点そらし」、「国会に対する責任はどこへ」などと、代表質問に対する菅首相の答弁の不十分さ、不誠実さを指摘するものが並びました。
 かつての安倍首相がそうでしたがそれより酷いという声さえも聞かれます。政権が代わって少しはマシになるのかという期待は見事に裏切られました。
 以下の三つの社説を紹介します。

  主張 衆参代表質問 答弁不能で居直る首相許せぬ(しんぶん赤旗)
  社説 学術会議問題 国会軽視の論点そらし(北海道新聞)
  社説 政治はどこへ 菅首相の答弁 国会に対する責任どこに(信濃毎日新聞)
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主張 衆参代表質問 答弁不能で居直る首相許せぬ
                        しんぶん赤旗2020年10月31日
 菅義偉首相への各党代表質問が衆参の本会議で行われました。日本共産党の志位和夫委員長(衆院)と小池晃書記局長(参院)は、国政の重大焦点である日本学術会議への人事介入を中心に首相の認識をただしました。学術会議の会員6人の任命拒否は、法治主義の破壊であり、国民の基本的人権を侵害する前代未聞の暴挙です。志位氏らは任命拒否の違憲・違法性を条文などに基づき徹底的に明らかにしました。しかし、首相は従来と同じ答弁を繰り返すばかりで、まともに答えません。答弁不能に陥っても、任命拒否の撤回に応じない首相の姿勢は全く不当です。

違憲・違法いよいよ明白
 任命拒否は日本学術会議法に真っ向から違反します。志位氏は具体的に条文を挙げ、学術会議の政府からの独立性が同法全体で幾重にも保障され、実質的な人事権も全面的に学術会議にあることを示しました。首相が人事介入できる余地がないのは明白です。
 憲法15条1項の公務員選定・罷免権を根拠にした菅首相の「任命拒否合理化論」も成り立ちません。同項は、公務員の最終的な選定・罷免権が主権者・国民にあると規定したものです。それを個別の法律で具体化するのは国民を代表する国会であり、学術会議会員の選定・罷免権は学術会議法で定められています。その法律に違反した首相の任命拒否こそが15条違反です。同条を持ち出し任命拒否を正当化することは「天につばするもの」(志位氏)です。
 「一部の大学に偏っている」「多様性が大事」などと言うのも拒否理由になりません。ではなぜ50代前半の研究者や、その大学から1人だけの研究者らを排除したのか。首相が勝手に選考・推薦の基準をつくり、人事介入することは、それこそ学術会議の独立性の破壊です。だいたい学術会議が推薦した名簿を「見ていない」と言うなら、どうして「偏っている」などの特徴が分かるのか。語れば語るほど首相の答えは支離滅裂です。
 首相は学問の自由を理解しているのか―。学問の自由は、個々の科学者だけでなく大学や学会など科学者の自律的集団に保障される必要があり、その独立・自主性の保障なくして科学者の自由な研究もありません。理由を示さぬ任命拒否が、個々の科学者に萎縮をもたらし、学術会議の独立性を保障する要の人事権を侵害したのは明らかです。「首相の任命拒否は学問の自由を二重に侵害するものではないか」。志位氏の質問に首相は正面から答えず「侵害とは考えていない」と言い張るだけでした。
 憲法に学問の自由が明記されたのは、学問が弾圧され、科学者が戦争に動員された戦前の痛苦の反省の上にたったものです。歴史の教訓に学ばず、強権で異論を排斥する政治に未来はありません。

民意に反する政権倒そう
 再燃が懸念される新型コロナの対策で、志位氏と小池氏が検査・医療の強化や暮らしを支える施策を具体的に提案しても、首相は踏み込んだ答弁を一切しません。
 小池氏が来年1月発効の核兵器禁止条約に背を向ける姿勢を改めよと迫っても、首相は条約の署名・批准に応じません。戦争被爆国の首相にあるまじき態度です。
 国民の願いにことごとく反する菅政権を打倒し、野党連合政権を実現することが求められます。


社説 学術会議問題 国会軽視の論点そらし
                            北海道新聞 2020/10/31
 菅義偉内閣が発足後、初めてとなる各党の代表質問が終わった。
 際立ったのは、首相が日本学術会議の会員任命を一部拒否した問題で、国会軽視とも言える答弁を続けたことだ。
 任命拒否の具体的な理由を再三問われたが「人事に関することで答えは差し控える」と繰り返し、問題の核心に口を閉ざした
 看過できないのはそれだけではない。問題をすり替え、論拠を欠く説明に終始していることだ。
 日本学術会議法では、学術会議の推薦に基づいて首相が会員を任命すると定め、独立性も明記している。野党が「任命拒否は違法」と追及したのは当然だ。
 だが首相は「総合的、俯瞰(ふかん)的に判断」「多様性が大事ということを念頭にした」と正面から答えず、組織見直しに論点をそらした。
 特に強調したのは会員構成の偏りで、「七つの旧帝国大学に所属する会員は45%」などと指摘した。
 ただ会員構成の是正は、会議側がかねて取り組んできた。女性は20年前の2人から77人に増え、地方からの任命も増加傾向にある。
 先の自民党総裁選で学術会議に関して何ら問題提起せず、必ずしも事実に即さない理由を挙げて任命拒否することは認められない。
 政府は年間10億円の予算拠出を理由に学術会議を行革対象とし、自民党も会議のあり方を検討し始めた。いずれも批判の矛先をそらす意図が明らかである。
 組織見直しを検討する前に、活動に支障が出ていると訴える学術会議の求めに応じ、残る会員候補を早急に任命するのが筋だ。
 1983年、首相任命制に法改正した際、当時の中曽根康弘首相は「政府が行うのは形式的任命にすぎない」と国会答弁していた。
 さらに2004年、推薦候補の人選方法が学会推薦から会員推薦に変更された際も政府資料には「首相が任命を拒否することは想定されていない」と記されていた。
 それを踏まえれば、今回の対応は法解釈の変更に他ならない。
 しかし、首相は解釈変更を否定した上で、18年に内閣法制局の了解を得て、学術会議の推薦通りに任命する義務はないとする内閣府見解をまとめたと明らかにした。
 だがこの見解は国会や学術会議側にまったく示されていない。恣意(しい)的な見解を後から持ち出すやり方は、法の支配を危うくする
 野党は任命拒否に関与したとされる杉田和博官房副長官の国会招致を求めている。与党は拒否せず、ことの経緯を明らかにすべきだ。


社説 政治はどこへ 菅首相の答弁 国会に対する責任どこに
                       信濃毎日新聞 2020年10月31日
 菅義偉内閣が発足して、初の本格的な国会論戦となる代表質問が終了した。
 主なテーマは日本学術会議の任命拒否問題や新型コロナウイルス対策、菅首相が所信表明で打ち出した脱炭素社会の実現などだ。
 菅首相は真正面から答えず、質問を無視する場面も目立った。野党は「逃げている」と批判している。当然の反応だろう。
 代表質問は、首相が基本方針を示す所信表明演説などに対する討論だ。新内閣がどのような姿勢で政策を実施していくのか。国民の関心も高かったはずだ。
 まともに答えないのでは議論は深まらない。野党は衆参の予算委員会などで、さらに追及するべきだ。答弁に対する再質問を認めない代表質問のあり方も見直すべきではないか。
 学術会議の任命拒否問題では、首相は「総合的、俯瞰(ふかん)的な活動を確保する観点から判断した」という従来説明を繰り返した。過去の政府答弁との整合性を問われても「内閣法制局の了解を得た政府としての考え方」とするだけだ。
 拒否理由も説明せず、「多様性が大事だいうことを念頭に判断した」と述べた。比率の少ない女性教授や、会員を出していない大学の教授をなぜ拒否したのか。説明になっていない。苦し紛れの後付けの理由という疑念を拭えない
 コロナ対策でも病院や学生の支援策が不十分と指摘されても問題の存在を軽視し、新たな方針は示さなかった。脱炭素社会の実現では、原発や石炭火力発電の今後の方針を明確に答えていない。

 首相が目指す社会像も曖昧なままだ。立憲民主党の枝野幸男代表は質問で、効率重視の新自由主義に代わる選択肢として、政治が責任を持って支え合いの役割を果たす「共生社会」の実現を掲げた。その上で「まず自助」として自己責任を重視する菅首相の方針を批判し、見解を問うた。
 社会の方向性に関する重要な議論だ。それなのに菅首相は考えや構想を詳しく話すことはなく、議論はかみ合わなかった
 浮かび上がるのは、国会を軽視し、説明から逃げる姿勢だ。首相が答弁の基本姿勢として述べた「丁寧な説明」から程遠い。国会に対する責任を負わないのか。

 国会の議論は民主主義の基本である。必要な答弁を避けてばかりでは国民に選択肢を示せず、確かな未来を築けない。