2020年11月10日火曜日

「首を切れない社員は雇えない」竹中発言に猛抗議(田中龍作ジャーナル)

 31日の「朝まで生テレビ」で、竹中平蔵氏が「首を切れない社員(正規労働者)なんて雇えないですよ」と発言しました。要するに格安の賃金で雇えて不要になればいつでも解雇できる非正規労働者に限るということです。
 竹中氏は小泉政権で総務相・郵政民営化担当相を務めた際に、大々的に労働に関する規制緩和唱え、今日の大量非正規労働者を生み出すベースを作りました。そして政界を去ってから就いた先が何と人材派遣会社最大手のパソナの会長職でした。以来竹中氏は「正社員はいらない」を持論にしています。
     ⇒18/7/2)「正社員はいらない」と煽る竹中平蔵氏とは
 彼は安倍政権下で東洋大教授などを看板にして「産業競争力会議」の委員を務めましたが「利益相反」関係にありました。その一例が「転職支援費用」(転職1人当たり最大60万円を国が助成金として転職先の企業に支給)に関するものです。
 それまで国の予算が2億円であったものを一気に300億円に拡大させると、パソナは「辞めさせ出向」の手口を使って次々と転職者を受け入れて大儲けをしました。この詐欺的且つ非人道的行為は国会でも取り上げられました。
        ⇒(16/4/4)パソナへの「辞めさせ出向」 田辺三菱製薬が撤回
 竹中氏は菅首相のブレーンと呼ばれ、今度は最上位の「成長戦略会議」メンバーに就きました。その言動が注目されます。

 TVでの竹中発言を怒った労働者がパソナ本社前で抗議の声を上げました。
 田中龍作ジャーナルが取り上げました。
 なお文中で日本人をここまで貧しくした張本人」とされている実態は次の通りです。
 世界の労働者の実質賃金指数は、1997年を基準にすると2016年時点で各国は軒並み15%以上上がっている中で日本だけがー10.3%と低下しています。
   「実質賃金指数の推移の国際比較(1997年=100)
      https://www.zenroren.gr.jp/jp/housei/data/2018/180221_02.pdf 

 また「スーパーシティー構想」という耳慣れない言葉も出てきます。これはコロナ禍の中でドサクサ紛れに成立したもので、実態は何とも理解しにくいものですが、池田 清彦 早大名誉教授が概要を語っていますので併せて紹介します。
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「首を切れない社員は雇えない」 パソナ本社前で右も左も竹中平蔵に抗議
                     田中龍作ジャーナル 2020年11月8日
   【写真説明】男性はラップのリズムに乗せて「Wake up=目覚めろ」「Stand up=立ち上がれ」
         と呼びかけた。=8日、パソナ本社前 撮影:田中龍作
 正規雇用と言われるもの(者or物)は、ほとんど首を切れないんですよ。首を切れない社員なんて雇えないですよ…」(朝生10月31日放送で)
 人材派遣会社の会長としては実に的確な発言だ。日本人をここまで貧しくした張本人としても的確だった。
 “旬” であり続ける男、竹中平蔵に抗議する集会が、きょう、大手町のパソナ本社前であった。(主催:#みちばた・甲斐正康代表)
 国民の敵を指弾するのに右も左もない。集会には共産党陣営の選挙を手伝う青年も、民族派右翼人士も入り混じった。
 右でも左でもない女性たちがいた。一人は北区、もう一人は板橋区在住だ。共に50代パート先で知り合った。
 北区の女性は「スガ首相が自助と言っているが、自助するなら非正規を社員にしなければいけない。自助できる社会を作るのが先でしょ」
 維新の会は竹中さんと繋がっている。竹中さんがバックに付いていることを知ってもらいたい」と語った。
   【写真説明】パソナ本社前は東京駅八重洲北口でもある。「ByeBye売国、竹中平蔵」のシュプレヒ
         コールが全国各地から訪れた旅行客の耳に響いた。=8日、大手町 撮影:田中龍作
 国会でも野党が竹中の追及を続ける。政府側の答弁からは事の本質が垣間見える。

 森ゆうこ議員(立憲)が参院予算委(5日)で「竹中平蔵さんは今どういう立場ですか?仕事は何と何と何をしてらっしゃるのですか?」と質問した。
 スガ首相は「経済評論家でしょうか」とトボケたが、坂本哲志国務大臣は聞かれもしないのに「スーパーシティー構想は・・・」と答弁したのである。
 竹中が民活導入で国民の財産を外国資本に売り飛ばした後の仕上げ・・・これがスーパーシティー構想ともいえる。
 個人情報を世界的なIT企業が管理し、特区の名の下、地方自治が蔑ろにされる。世界的なIT企業による独裁が始まるのだ。グローバル企業の日本総支配人が竹中平蔵である。
 日本郵便株式会社の稲村公望・元副会長は「郵政民営化は世界的に失敗している。日本はその最たるもの」と指摘する。
 郵政民営化は竹中改革の大一番だった。郵政に限らない。保健所の統廃合や公園の企業化などで住民への行政サービスは低下する一方だ。コロナ禍では悲劇をも招いた。
 竹中改革が完成した時、日本は破壊し尽くされ、国民は血の一滴まで搾り取られることになる。
                 ~終わり~

貧乏人を排除する「スーパーシティ構想」のヤバさに気付かない日本人の脳天気さ
     ごく一部の金持ちが街を作り変える
                 池田 清彦 PRESIDENT Online 2020/08/23
                         早稲田大学名誉教授
2020年5月、緊急事態宣言解除の直後の参院本会議で、「スーパーシティ法案」が可決された。生物学者で早稲田大学名誉教授の池田清彦氏は「狙いは経済合理性だけで都市づくりをすること。これから富裕層の思惑のみでいろいろなことが決まるようになり、経済格差はさらに拡大していくだろう。なぜ日本人はそれに怒らないのか」という——。
※本稿は、池田清彦『自粛バカ』(宝島社)の一部を再編集したものです。

コロナでわかった「グローバリズム」の弱点
今回のコロナ騒ぎでわかったのは、経済合理性だけではコロナのような危機に対応できないってことだ。
実は、安倍政権はけっこう前から全国の公的医療機関の統廃合や病床数削減を進めている。2015年に厚生労働省が「2025年までに最大で15%減らす」という目標を掲げ、重症患者を集中治療する高度急性期の病床を13万床、通常の救急医療を担う急性期の病床を40万床、それぞれ3割ほど減らす方向で動いてきた。
この方針に沿って、地方自治体でも大阪なんかもすごく病院を減らしていた。診療実績が少なくて非効率な運営をしている病院は無駄だから潰してしまえというわけだよ。

パンデミックでは病院や病床数が少ないと医療崩壊が起こる。さらに、コロナの指定医療機関になると一般の患者を受け入れられなくなってしまうから、本来なら救急で処置して入院すればなんとかなった人を助けられなくなる。
ヨーロッパで英国に次いで死者が多いイタリアも病床数削減を進めていたことで医療崩壊を起こした。治療を受けられずに自宅で亡くなった人がかなりの数に上ったといわれる。やっぱり新自由主義的な経済合理性だけで医療を運用するのはダメってことだ。医療、そして教育はある程度余裕がある状態で回るようにシステムを最適化する必要がある。

アフターコロナ、グローバルキャピタリズムは推進か廃れるか
だから世界は今、このままグローバルキャピタリズム(資本主義)を推し進めていくのか、それともグローバルキャピタリズムが廃れていく方向に進むのか、この2つで揺れていると思う。
たとえば、アメリカは医療費がケタ違いに高額で、医療保険に加入していない人が数千万人もいる。そうした保険証をもたない人がコロナに感染して治療を受けた場合、約470万円から約820万円の自己負担が発生すると試算されている。ちょっと病気になったらたちまち多額の借金を抱える羽目になり、そのまま下層から抜け出せなくなる。
その意味で国民皆保険制度のある日本人は恵まれているけれど、このままグローバルキャピタリズムが進んでいったら日本もアメリカのようになってしまう可能性がある。だから、今後はそれを阻みたい勢力とグローバルキャピタリズムを延命させたい勢力のせめぎ合いになるはずだ。

「スーパーシティ法案」緊急事態宣言解除の直後にこっそり可決
そこで出てきたのが「スーパーシティ」構想(※)という法案だ。
※「スーパーシティ」構想とは、AIやビックデータなどの最先端技術を活用して、国民が住みたいと思うよりよい未来社会を先行実現する「まるごと未来都市」のショーケースを目指すもの。様々なデータを分野横断的に収集・整理し「データ連携基盤」を構築し、地域住民等にサービスを提供することで、住民福祉・利便向上を図る都市と定義されている。
遠隔医療とか完全キャッシュレスとか自動運転とかゴチャゴチャ言っているけれど、これは要するに、自治体ごとグローバルキャピタリズムに組み込み、人の意志なんか関係なく経済合理性だけで都市づくりをするというもの。
大阪あたりが真っ先に手を挙げそうだけれど、このスーパーシティ法案が緊急事態宣言解除の直後に、こっそりと参院本会議で可決されているのにはわけがある(2020年5月27日、「スーパーシティ」構想を含んだ国家戦略特別区域法等の改正法案=スーパーシティ法案が成立)。コロナ禍に遭って崩壊の危険性を察知したグローバルキャピタリズムの焦りの表れだ

富裕層の思惑のみでいろいろなことが決まり経済格差は拡大必至
コロナによってグローバルキャピタリズムの前提であるヒトとモノの移動がリスク要因になったので、一時期に比べればよくはなったけれど、中国からモノが来なくなり、いろいろなモノが値上がりしたり流通が滞ったりしている。
それは、これから世界的なヒトとモノの出入りが不自由になっていく可能性があるということだ。それで、リモートで儲けることを画策しているわけだ。
日本人の感性としては、国民全員が貧乏になるのはわりと平気なんだよね。すでに日本はグローバルキャピタリズムによってそうなっているわけだから。30年ほど前までの日本はまだ一億総中流で、金持ちのレベルもそこまでじゃなかったけれど、安倍晋三が首相に返り咲いて以降、トップクラスの金持ちの資産が約3倍から5倍に増えている
たとえば、ソフトバンクグループ社長の孫正義とファーストリテイリング社長の柳井正の資産は第二次安倍政権が成立したころ(2012年12月)、孫は5700億円、柳井は8700億円だったが、今はどちらも約3兆円である。トップクラスの金持ちだけがむちゃくちゃ儲かっている。
コロナ後の世界ではさらにごく一部の金持ちとその他大勢の貧乏人というふうに階級が分かれていくかもしれない。スーパーシティ構想が進めば住民の声ではなく富裕層の思惑のみでいろんなことを決めるから、いま以上に階級間の格差が広がっていく。そういうシステムをつくろうとしているわけだ。

そうなったとき、日本人はいつものように自然現象とあきらめて富裕層の言いなりになるのか、それとも江戸時代の百姓一揆や打ち壊しのように反旗を翻し、社会をひっくり返そうとするのか。自分の家族、郷里、母校などに対する愛着から発した、本来の土着の攘夷思想は、はたして日本人の心にどれだけ残っているのだろうか。