2020年11月14日土曜日

米日両国民に厳しい現実を突き付けるバイデン新大統領(孫崎 享氏)

  米大統領選の結果 民主党のバイデンが次期大統領になるようです。これでトランプの「反知性主義」が終焉し、日米関係が多少ともマシになるのではと多くの日本人は思っているのではないでしょうか。しかしそれは違うと元外交官の孫崎享氏は述べています。

 そして「金融資本、大企業と軍産複合体」が強烈に支援するバイデンが大統領となったからには、グローバル企業の利益を保証する体制への変化米国の軍事的戦略に従うことを、トランプのような個人プレイではなく政権として総体的・組織的に日本に迫るだろうとしています。

「金融資本、大企業、軍産複合体との密着」は、民主党大統領を形容する際の決まり言葉になっています。
 民主党のヒラリー・クリントンは16年の大統領選でトランプに負けましたが、もしも勝っていたら戦争政策を進めた筈といわれています。前任者の民主党のオバマも、国内で高まった厭戦気分に押されて無人機主体の攻撃に転じましたが戦争を継続しました。自分がウクライナで市民虐殺を伴うクーデターを起こしていながら、以前からクリミヤ軍港の警備で常駐していたロシア軍をウクライナに侵攻したと非難して、各国にロシアとの経済断交を強制したのもオバマでした。

 二大政党制といっても本質的な違いはありません。特に対日的にはどちらに転んでも殆ど差はありません。菅政権が甘い考えで臨むのであれば日本は悲惨なことになります。
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日本外交と政治の正体
米日両国民に厳しい現実を突き付けるバイデン新大統領 
                      孫崎享 日刊ゲンダイ 2020/11/13
 混迷を深めた米大統領選は、民主党のバイデンが次期大統領になる道筋がついた。
 トランプ大統領は、内政、外交など、あらゆる場面で、自分が気に入らない人物に対し、「おまえはクビだ(You are fired)」という姿勢を貫いてきた。
 多くの米国民は、こうした「反知性主義」からの方針転換が図られると期待し、バイデン勝利に安堵しているようだ。
 しかし、私の見方は異なる。
 米国の大企業はグローバリズムを促進し、低賃金と広大な市場を求めて海外に進出してきた。この結果、米国内の中小企業は衰退。格差社会が拡大し、国内トップ50人の資産(2兆ドル)が、下位50%の1億6500万人分の資産に匹敵する事態を招いた。
 今回の大統領選挙では、そうしたグローバリズムの在り方についても問われる選挙であった。
 選択肢を挙げると、「金融資本、大企業と軍産複合体中心の政策」を取るのか。それとも「低所得者に配慮し、特に国民全員への医療保険などを行う政策」を取るのか。あるいは、トランプ大統領が掲げている「アメリカファースト(国内工場を優先し、外国製品には高額関税)」――の3つだろう。
 そして、結果として「金融資本、大企業と軍産複合体」が強烈に支援するバイデンが大統領となったのである。
 大統領選の勝利宣言をしたバイデンは「国民の統一を図る」と発言しているが、政策は金融資本や大企業にとって望ましい形に展開していく。
 米紙ウォールストリート・ジャーナルは、<英字部分 省略(トランプはひどく欠陥。だが別の選択=バイデン=は単に酷い)>と題した記事を掲載したが、私もそうなるのではないかと危惧している。
 日本にとって、トランプ大統領は扱いやすい存在だった。もっぱらトランプ個人のご機嫌を取っていればよかったからだ。しかし、バイデン新大統領は違う。日本は米国の金融資本、大企業、軍産複合体から、複合的要求を突き付けられることになるのだ。
 おそらく、グローバル企業の利益を保証する体制への変化を求められるほか、安全保障分野でも、これまで以上に米国の戦略下に動くことが求められる
 大多数の米日両国民はバイデン新大統領の勝利を歓迎している。しかし、バイデン政権は今後、これらの人々に厳しい現実を突き付けることになるだろう。

孫崎享  外交評論家
1943年、旧満州生まれ。東大法学部在学中に外務公務員上級職甲種試験(外交官採用試験)に合格。66年外務省入省。英国や米国、ソ連、イラク勤務などを経て、国際情報局長、駐イラン大使、防衛大教授を歴任。93年、「日本外交 現場からの証言――握手と微笑とイエスでいいか」で山本七平賞を受賞。「日米同盟の正体」「戦後史の正体」「小説外務省―尖閣問題の正体」など著書多数。