2022年5月2日月曜日

02- アメリカの一極支配が崩れていく(孫崎享氏)

 アメリカの一極支配が崩れ(多極化す)ることは、フリーの国際情勢解説者である田中宇氏が早くから予言していたことですが、今度のウクライナ戦争を巡る世界の動きの中でそれは顕著になってきました。

 そもそも第二次大戦後70数年間もアメリカが一極支配で世界に君臨していたことが異常と言えるのですが、アメリカが採ったロシアへの経済制裁(ロシアからの天然ガスや石油の輸入禁止など)やSWIFTからの排除が却ってそれを促進したと見られています。
 外交評論家の孫崎享氏が、「アメリカの一極支配が崩れていく 対ロシア制裁を訴えても多くの国が同調しなかった」とする記事を出しました。
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日本外交と政治の正体孫崎 
アメリカの一極支配が崩れていく 対ロシア制裁を訴えても多くの国が同調しなかった
                      孫崎享 日刊ゲンダイ 2022/04/29
                       (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
 20カ国(G20)財務相・中央銀行総裁会議が先週の20日、米ワシントンで閉幕した。議長は輪番で、今回はインドネシアだった。こうした会合は通常、波風を立てることなく、共同声明を発表してつつがなく終わる。
 しかし、今回は異例の事態が起きた。ロシアのシルアノフ財務相がビデオで見解を述べた時、米英加の財務長官・財務相が退席した。そして共同声明も出されなかった。
 過去、世界の金融を取り仕切ってきたのは米国である。20カ国財務相・中央銀行総裁会議は米国の描いた筋書きで進行してきた。だが今回は会議の流れに逆らって退席したのは米国である。
 米国はこの会議で、対ロシア制裁の強化を図った。G20の中で、対ロ制裁を行っているのがG7と豪、韓国。他方、制裁をしていない国はアルゼンチン、トルコ、ブラジル、インド、インドネシア、サウジアラビア、中国など約半数。つまり、米国が対ロシア制裁の強化を訴えても多くの国が同調しなかったのだ。

 世界は今、経済面で大きい構造的変化が起こっている。米CIAは自身のサイトで、各国比較を行い、その際「真のGDP」と題して、購買力平価ベースでランキングを示しているが、ここから極めて興味深い事実が浮上してくる。
  1位は中国(中国23.0兆ドル、米国19.8兆ドル)
  米国はロシアに圧倒的優位(米国19.8兆ドル、ロシア3.9兆ドル)
  G7合計は38.8兆ドル、非G7の上位7カ国の合計は45.5兆ドル
  G7及び非G7の上位7カ国の合計における米国の割合は約23.4%である。

 これらのことは、もはや、米国が経済で支配的地位を占める時期は終わったことを示している。
 ただ、国際的な制度設計は、過去の実績の上にある。
 今年1月時点での国際銀行間通信協会(SWIFT)を通じての比率は米ドル39.92%、ユーロ36.56%、ポンド6.30%、人民元3.20%である。
 ロシアのウクライナ侵攻で、米国など西側諸国はロシアの資産凍結、ドルの利用禁止を行った。非G7の国々は決して完全な民主主義国家ではない。いつ、米国が彼らを非難し、制裁を行わないとも限らない。
 米国によるロシアの資産凍結、及び貿易でのドルの使用禁止の行動は多くの国のドルからの逃避を招くであろう。実は貿易決済でのドルの比率の低落は既に起こり始めているのである。

孫崎享 外交評論家
1943年、旧満州生まれ。東大法学部在学中に外務公務員上級職甲種試験(外交官採用試験)に合格。66年外務省入省。英国や米国、ソ連、イラク勤務などを経て、国際情報局長、駐イラン大使、防衛大教授を歴任。93年、「日本外交 現場からの証言――握手と微笑とイエスでいいか」で山本七平賞を受賞。「日米同盟の正体」「戦後史の正体」「小説外務省―尖閣問題の正体」など著書多数。