スラップ訴訟という言葉はようやく知れ渡ってきました。
それは他者から批判されたことを名誉を棄損されたとして起こす訴訟のひとつで、特にその目的が賠償の金額、弁護士費用、対応の手間などで相手にダメージを負わせることにより相手からの、または(訴訟を通じて)そうした余裕がない人達からの批判を抑制することを目的とするものです。
これまで訴訟に縁がない一般の人にとって、訴訟を起こされること自体が苦痛であるのに加えて請求される賠償金の額が概して法外であることが多いので、その批判抑制の効果は大きいといえます。それは「合法的恫喝」ともなり得るものなので、金銭的に余裕のある人がそうした手段で他者からの批判を抑制しようとするのはどうかと思われます。
維新や自民党議員の中にそれを利用する人たちがいますが、議員や言論界(TVを含む)で活躍する人たちは批判に対しては言論で対応するべきであり、高額な所得がある故をもってスラップ訴訟を行うのは見苦しいことです(実際にはスラップ訴訟では殆どの場合告訴人が負けているようですが)。
維新の会の代表である松井一郎・大阪市長は、タレントの水道橋博士を名誉毀損で550万円の損害賠償を請求する訴訟を起こしました。これは松井市長や維新への批判を強めていた水道橋博士に対する嫌がらせ、批判封じ込めのためのスラップ訴訟であると見られます。
とはいえツイッターを見ても水道橋博士が松井氏に対して名誉棄損を行ったようには思われず、訴訟の趣旨がズレている気がするだけでなく、訴訟によって逆に松井氏が触れられたくない部分が広く知れ渡ることになりました。
LITERAがこの問題を取り上げました。
併せて日刊ゲンダイの記事「それでもバカとは戦え 参院選迫るも問題人物しか公認しない? 自分にひたすら甘い『維新精神』全開」を紹介します。
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れいわから出馬 水道橋博士が主張する「反スラップ訴訟法」の重要性! 維新・松井だけでなく自民党も批判封じ込めで訴訟乱発
LITERA 2022.05.22
18日、浅草キッドの水道橋博士が今夏におこなわれる参院選にれいわ新選組から出馬すると表明し、話題を集めている。というのも、水道橋博士が出馬を表明した際、「消費税ゼロ」などの政策とあわせて、このように公言したからだ。
「反スラップ訴訟法をつくる」
「松井一郎さんに対し、俺をこうやったことを絶対に後悔させる」
ご存知のとおり、松井一郎・大阪市長は水道橋博士を名誉毀損で提訴、550万円の損害賠償訴訟を起こした。これは、松井市長や維新への批判を強めていた水道橋博士に対する嫌がらせ、批判封じ込めのためのスラップ訴訟であることは明らかだが、それに対し、水道橋博士は法廷のみならず国会議員として根本から戦うと宣言したのだ。
この水道橋博士の怒りは当然のものだろう。というのも、松井市長のやり方はあまりにも卑劣なものだったからだ。
事の発端は2月に遡る。水道橋博士は2月13日に「【維新の闇!】大阪市長・松井一郎の経歴を調べたらヤバかった!」というYouTube動画にリンクを貼った上で、〈これは下調べが凄いですね。知らなかったことが多いです。維新の人たち&支持者は事実でないなら今すぐ訴えるべきだと思いますよ(笑)〉と投稿。すると、松井市長は〈水道橋さん、これらの誹謗中傷デマは名誉毀損の判決が出ています。言い訳理屈つけてのツイートもダメ、法的手続きします〉と噛み付いた。つまり、松井市長は“名誉毀損の判決が出ている誹謗中傷デマを流すな!訴えるぞ!”などと言い出したのだ。
しかし、この松井市長の主張は明らかにおかしい。まず、松井市長は〈これらの誹謗中傷デマは名誉毀損の判決が出ています〉と述べたが、これは松井市長が過去の女子中学生に暴行をしたとするSNS上の投稿に対して松井氏がおこなった損害賠償訴訟で、2021年に大阪地裁が松井氏への名誉毀損を認めた一件を指していると思われる。だが、問題の動画は、敗訴した投稿ではなく、むしろ、中学生への暴行という情報は根拠不明で、松井氏本人も事実を否定、裁判でも勝訴していると伝えていた。
いや、それ以前に、水道橋博士がツイートに貼り付けた動画は再生時間を指定してリンクしており、指定されていたのは松井氏のファミリー企業が大阪市内の映像設備改修工事や照明設備LED化工事などの仕事をおこなっているという疑惑を紹介している場面だった。つまり、水道橋博士が投稿した動画の指定箇所は、名誉毀損が認められた誹謗中傷デマではないし、前述したように動画内でもその裁判結果はきちんと伝えられており、けっしてその誹謗中傷デマを流しているわけではないのだ。
水道橋博士が取り上げたファミリー企業の問題にしても、もし松井氏が事実無根だと主張するのならば、疑惑に対してまずはしっかり説明をおこなうべきだ。そうしたこともすっ飛ばし、動画の投稿者でもない水道橋博士を提訴するとは、公人としてあるまじき行為としか言いようがない。
甘利明・前自民党幹事長のスラップ訴訟圧力の成功で、味をしめた安倍自民党
維新といえば、創設者である橋下徹氏も批判的言論の萎縮を狙ったとしか思えない訴訟を起こしてきたが、松井市長もたびたび自身の批判に対して訴訟をちらつかせている。とくにこの水道橋博士に対する提訴は、水道橋博士をある種の“見せしめ”にすることによって、維新の批判を封じ込めようという意図がミエミエだ。
だが、このようなスラップ訴訟を仕掛ける政治家は、維新にかぎった話ではない。とくに政権与党である自民党の有力議員たちも、同様に卑劣なスラップ訴訟を起こしているからだ。
近年でいえば、その筆頭は青山学院大の中野昌宏教授を訴えた自民党の世耕弘成・参院幹事長だろう。中野教授は2019年に、世耕氏と統一教会の関連団体「原理研究会」の関係についてツイート。すると、世耕氏はその内容が虚偽だとして中野教授を提訴したのだ。
これに対し、中野教授は世耕氏の提訴はスラップだとし、2020年に世耕氏を反訴。会見では「批判者をだまらせるなど、公共の言論空間の萎縮を目的とした人権侵害だ」「政治家への市民の言論は公的なもの。裁判で負けると最高裁判例ができ、市民が政治家への疑惑や政治姿勢・思想について、証拠がないと論評できなくなる」と批判をおこなったが、まさにそのとおりだろう。
また、自民党議員による言論の萎縮を狙ったスラップ訴訟は、メディア相手に次々に起こされてきた。とくにスラップ訴訟として象徴的なのが、甘利明・前自民党幹事長がテレビ東京などを相手に起こした合計1100万円もの高額名誉毀損裁判だろう。
甘利氏が問題にしたのは、2011年6月に放送されたテレビ東京の報道番組『田勢康弘の週刊ニュース新書』。同番組は原発事故の責任を検証する企画で、第一次安倍内閣でも経産相を務め、原子力行政に深くかかわっていた甘利氏をインタビュー。その際に記者は、2006年に地震に起因した事故によって原発の電源が失われる可能性を指摘していた日本共産党議員の質問主意書をもとに、津波被害による電源喪失の可能性が指摘されていた問題を追及。すると、突然、甘利が席を立って取材をボイコットし、記者にテープを消し、インタビューを流さないように要求。しかし、テレ東の記者はその要求を拒否し、番組では甘利氏がいなくなって空席となった椅子を映し「取材は中断となりました」とナレーションとテロップを入れて放送した。これに対して、甘利氏は東京地裁にテレ東や記者らを名誉毀損で訴えたのである。
つまり、甘利氏は原発事故の責任を問われたことに逆上して取材拒否した上、自分が逃げたという印象を与えるような報道をされたことが「名誉毀損にあたる」と訴えたのだ。ただ、それだけでは大義がたたないために、テレ東が番組で「津波による電源喪失を指摘」と報じていたことをとらえ、「質問主意書には津波のことは書いていない」と抗議したのだ。
言っておくが、問題の質問主意書には津波によって冷却機能喪失の危険性を指摘する記述がある。だが、弱腰のテレ東は、訴訟を起こされる前になんとかなだめようと、地震を津波と間違えた部分だけを訂正してしまった。その結果、訴訟でもほとんどのところで甘利側の言い分が却下されたが、この枝葉末節の部分をテレ東がすでに間違いを認めているとみなされ、2013年に330万円の損害賠償金がテレ東側に命じられたのだ。しかも、テレ東は現場の意向を無視して控訴を断念。報道そのものが「虚偽」「捏造」だったということになってしまった。
片山さつきは“口利き”報道、稲田朋美は“在特会との関係”報道を訴えるも敗訴
こうした訴訟圧力に味をしめた安倍自民党は、批判的なマスコミを片っ端からツブシにかかり、枝葉末節の間違いを針小棒大に取り上げて「捏造」と喧伝、批判報道を抑え込んできた。そして、メディア相手にスラップ訴訟を繰り広げてきたのだ。
たとえば、片山さつき・元地方創生担当相は、「週刊文春」がスクープした「口利き100万円」疑惑に対し、名誉を傷つけられたとして発行元の文藝春秋を相手取って1100万円という高額の損害賠償を求める訴訟を起こした。しかも、片山氏は「係争中」であることを盾にして説明責任から逃れ続けるという醜態まで晒した。だが、東京地裁は昨年12月、「口利きしたことを真実と信じる相当の理由がある」として片山氏の訴えを退けている。
さらに、稲田朋美・元防衛相も、稲田氏とヘイトスピーチ団体「在日特権を許さない市民の会」(在特会)との“蜜月関係”を報じた「サンデー毎日」の記事をめぐって毎日新聞社を提訴。550万円の慰謝料と謝罪記事の掲載などを求める名誉毀損裁判を起こした。ちなみにこちらは最高裁まで争われたが、稲田氏が全面敗訴という結果に終わっている。
これら片山氏や稲田氏によるスラップ訴訟は政治家側が敗訴という結果となったが、甘利氏の裁判がそうであったように、政治家が起こした名誉毀損訴訟では裁判所はほとんど政治家側を勝たせ続けているのが実態だ。
しかも、本サイトでは折に触れて言及してきたが、2000年代以降の日本では、名誉毀損裁判の賠償が高額化し、政治家など権力者が批判を封じるためにメディアを相手取って提訴する事案が増加。それにより、多くの週刊誌が「訴えられて高額の賠償金をとられることになるのなら、無難な記事でお茶を濁したほうがいい」という空気に支配され、物的証拠をつかむのが困難な政治家の贈収賄や裏金報道はほとんどなくなってしまった。
つまり、自民党議員らによる無茶苦茶なスラップ訴訟によって、政治家にかんする独自報道が萎縮。ついにはメディアのみならず、TwitterなどSNS上での批判的言論までもが標的となっているのが現状なのだ。
圧倒的な力を持つ権力者が、批判を封じ込めるために訴訟を起こす──。しかし、その卑劣な目的のために標的にされた水道橋博士は、松井市長の恫喝に屈することはなかった。しかも、アメリカの複数の州で制定されている、スラップ訴訟を禁じる「反スラップ訴訟法」を日本でもつくるべく、選挙にまで打って出るというのである。
水道橋博士は、19日にYouTubeで公開された、れいわ新選組の参院選全国比例区候補者である長谷川ういこ氏とのオンライン対談で、このように語っている。
「とにかく僕のなかではこのスラップ訴訟というものが、矮小化する、ブラックボックスのなかにある、非現代的な、たいへんな民主主義の危機の問題だということをきっちりと伝えられれば、それが第一の目的です」
「本当に見くびってますよ。『芸人なんてそんなもんだろう。俺がこう言ったら黙るだろう』みたいなところなんで」
「松井一郎さんに対しては、僕に対してそれ(スラップ訴訟)をやったっていうのを、生涯にわたって後悔させる」
公人中の公人である政治家による、言論の自由を阻害しようとするスラップ訴訟は絶対に許さない。水道橋博士の勇気ある行動と今後の奮闘に期待したい。(編集部)
それでもバカとは戦え 適菜収
参院選迫るも問題人物しか公認しない? 自分にひたすら甘い「維新精神」全開
適菜収 日刊ゲンダイ 2022/05/28
選挙後に維新の会の関係者が逮捕されたり、事務所に警察が踏み込むのは風物詩となっているが、今回は参院選前から維新の不祥事が続出。もはや公党の体をなしていない。
日本維新の会大分県総支部で幹事長を務め、今夏の参院選で維新の比例代表候補として出馬予定の桑原久美子は、前回の参院選で落選したが、選挙運動費用の収支報告書に虚偽記載があった疑いで、大分地検に告発状が提出されている。
また、衆院議員の岬麻紀は、前回参院選の選挙公報で経歴を詐称していたことが発覚し、公選法違反の疑いで刑事告発された。
岬は亜細亜大学と杏林大学の「非常勤講師」の経歴を記載していたが、両大学はこれを否定。岬は会見で〈常勤の講師ではないという意味で「非常勤講師」と記載するにいたった。経歴を詐称しようという気持ちは毛頭ございません〉などと意味不明の説明。松井一郎も「それは常勤ではないのはたしかなんでね。非常勤の講師だというふうにとらえてますけど」と発言。維新は「経歴詐称には当たらない」と結論付けた。
アホにも限度がある。常勤ではないのだから非常勤講師を名乗ってOKって一休さんかよ。
参院選には5000万円の選挙資金借用問題が浮上し、公職選挙法違反で略式起訴され、5年間、公民権が停止された猪瀬直樹も擁立。維新には問題のある人物しか公認しないという内規でもあるのか?
副代表だった元大阪府議の今井豊は昨年8月、違法献金を受け取ったとして議員辞職し、党から除名されたが、今年に入り処分は撤回。
他人に厳しく、自分たちにはひたすら甘いのが維新精神(スピリッツ)である。
「身を切る改革」を掲げて国民の身を切り、自分たちは肥え太る。
政党助成法の抜け道を利用して政党交付金を基金としてため込んだり、企業・団体献金の禁止を掲げながらパーティー券を売りまくったり。松井は大阪府知事の退職金を廃止すると言い出したが、退職金を分割して毎月の給与に上乗せするだけだった。明石市議の筒泉寿一のように「身を切る改革」と称して被災地などへの寄付を偽装するケースもある。こんなデタラメな集団が参院選で拡大したらどうなるかくらいサルでもわかるだろう。
◆本コラム待望の書籍化!Amazonでも発売中です。
「それでもバカとは戦え」(日刊現代・講談社 1430円)
適菜収 作家
近著に「ニッポンを蝕む全体主義」「日本人は豚になる」「思想の免疫力」(評論家・中野剛志氏との対談)など、著書45冊以上。「適菜収のメールマガジン」も始動。詳細は適菜収のメールマガジンへ。本紙連載が書籍化「それでもバカとは戦え」好評発売中
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。