2022年5月23日月曜日

軍産ネオコン生贄にされる日本(植草一秀氏)

 22日夕方、バイデン米大統領が韓国→横田基地経由で来日しました。日米首脳会談に続い24日、東京でQUAD(日米印豪)4カ国の首脳会議が開催されます。バイデンは、今回の訪日に合わせて「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の発足を表明すると言われています。

 いまバイデンの支持率は40%を切り、特に無党派層では35%と危険水域に入っています。目下11月の中間選挙に向けて予備選が佳境を迎えていますが、現状不満のエネルギーが満ちみちてて、共和党よりも劣勢です
 その原因は米国では数ヶ月間8・5%前後のインフレが続き、ガソリン(原油)、食品などが暴騰しているからです。原油価格が上がったのはロシア・ウクライナ戦争に向けてのロシア制裁、また諸々の生活必需品の物価高中国との物流停滞によるもので、すべてバイデンの対露、対中の経済制裁に起因しています。
 そんな中でQUADの連携を強化し、バイデン今回の訪日に合わせて準備してきた「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」発足させても、米国の経済的困窮が解決することはありません。関係国にとっても同じことでしょう。
 またIPEFの発足では日本に一役買わせるとも言われていますが、勿論日本の利益に合致するものではなく 中国の反感を買うだけです。
 21日にバンコクで開かれた日米中ロなど21カ国・地域が参加するAPEC貿易相会合で、萩生田経産相はロシアのレシェトニコフ経済発展相の発言中、米加豪NZの4ヵ国と共に、ロシアのウクライな侵攻に抗議の意志を示すため退席しました。韓国や台湾がそうしない中で、日本が唯一、アングロ・サクソンの国と初めて同調したのでした。
 米国に強制されたのかも知れませんが、バイデンが訪韓中にもかかわらず、敢えて韓国がそうしなかったのは評価すべきことです。日本の様に米国が喜ぶから突出しても構わないというのは、国益に反します。APEC貿易相会合後には共同声明が出されるのが通例ですが、今回はロシアへの非難で参加国の対応が割れたため出されませんでした。

 植草一秀氏が「特定価値観強要は民主主義の否定」とする記事を出し、米国が提示する「価値観外交」は特定の価値観を他国に強要し、相手が従わなければ武力の行使も辞さないというもので、これこそ本質的な「力による現状変更」主義であると批判しました。
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特定価値観強要は民主主義の否定
               植草一秀の「知られざる真実」 2022年5月22日
5月21日に投開票されたオーストラリア下院(任期3年、定数151)総選挙で、アンソニー・アルバニージー氏が率いる野党・労働党が、スコット・モリソン首相の与党・保守連合を破り、勝利することが確実になった。
政権交代は2013年以来約9年ぶり。
アルバニージー氏は5月24日に東京で開催されるQUAD首脳会合に出席する見通し。
QUAD首脳会合は米日豪印4ヵ国首脳の会合。背景に「中国包囲網形成」の思惑がある。

しかし、これはあくまでも米国の目論見。米国の植民地である日本は考慮の余地なく、米国の意向に服従だが、他の国はそうとは言い切れない。
ロシアに対する国連総会での非難決議に際しても、インドは賛成しなかった。
3月2日の国連総会緊急特別会合における「ロシアによるウクライナ侵攻を非難する決議」採択においては、賛成141ヵ国に対して非賛成52ヵ国だったが、人口比では賛成国42%、非賛成国58%だった。
賛成しなかった国の人口合計が賛成した国の人口合計を上回った。

4月20日のG20財務相・中央銀行総裁会議でロシア代表発言時に退席したのは米英加豪の4ヵ国のみ。
G20の対ロシア経済制裁実施国と経済制裁非実施国はどちらも10ヵ国(EUを1ヵ国として)で、人口比では制裁実施国の19%に対し制裁非実施国は81%(EUを人口最多国スペインの人口で計算)を占めた。
G20会合でロシア代表発言時に退席した米英加豪の4ヵ国はすべてアングロサクソンが主流の国家である。

AUKUSという豪英米の軍事同盟があるが、これもアングロサクソン連合である。
これまでオーストラリア首相を務めたモリソン氏は保守連合の代表で米国と歩調を合わせてきた。しかし、オーストラリアで労働党が第一党に躍進し、政権交代が行われることから、今後の方向は明らかではない

いずれにせよ、多くの国で政権交代が実現している。
米国の場合、共和党と民主党の差異は極めて小さいが、それでも大統領所属政党は共和党と民主党との間で頻繁に入れ替わる。
米国は米国一極支配を目論み、米国の価値観を世界に強要する姿勢を示すが、この米国の横暴を冷ややかな目で見る国と市民は驚くほど多い。
G20でロシア経済制裁に参加していない国の人口比が81%である現実を見落とせない。
インドも対米隷属一辺倒ではない。ロシアとも中国とも完全敵対しているわけではない。

岸田首相が繰り返す「自由、人権、民主主義、市場経済、法の支配という価値観を共有する国との連携」の言葉が持つ根本的な矛盾を見つめなければならない。
民主主義の根幹は多様性の尊重。多種多様な価値観、思想の存在を認めること。これが民主主義の根幹。この価値観を有する者は、特定の価値観を他者に強要することを拒絶する。
ところが、米国が提示する「価値観外交」は特定の価値観を他国に強要し、相手が従わなければ武力の行使も辞さないというもの。これこそ、本質的な「力による現状変更」主義である。

ウクライナは異質の民族が同居する多民族国家である。
西部に居住するのはウクライナ語を話し、カソリックであるウクライナ民族。
東部に居住するのはロシア語を話し、ロシア正教徒であるロシア系民族。
一方が他方を支配しようとすれば分裂か内戦になるとキッシンジャー氏が警告した。
2014年に米国はウクライナの極右勢力と結託して暴力によってウクライナ政府を転覆した。
非合法的に樹立された新政府はロシア系住民に対する非人道的弾圧を展開した。これがウクライナ戦乱の根本背景になっている。

米国は軍事力を行使して米国の価値観を他国に強要することを是とするが、これが世界の主流と勘違いすることは大いなる誤りだ。
日本においてはメディアが流布する情報が一色に染め抜かれているが、世の中には別の視点からの見解が多数存在することを知っておかねばならない
多様な価値観、見解が存在することを重視するのが民主主義を重視する立場なのである。

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軍産ネオコン生贄にされる日本
               植草一秀の「知られざる真実」 2022年5月21日
現代の戦争の帰趨を決める三つの要素がある。装備、資金、情報だ。
米国国務次官補ヴィクトリア・ヌーランドの夫ロバート・ケーガンはネオコンを代表する論客の一人。
ネオコンの特徴は米国の価値観を他国に埋め込むことを是とし、その目的のためには軍事力の行使も辞さないとする点にある。軍産複合体の侵略主義を支える論理を提示する。
自らの価値観を絶対的存在とし、この価値観を他国に強要する。そのためには軍事力行使も辞さない。
「力による現状変更」を追求する勢力と表現してもよいだろう。現代版の帝国主義勢力である。

そのネオコンの論客であるケーガンが強調する現代戦争の最重要点が「情報戦」である。
「情報戦」は正義・不正義の尺度で価値を判断しない。
不正義であっても「情報力」によって戦争を有利に展開することが重視される。プロパガンダ、デマゴギーが最重視される。
民衆への情報伝達の手法が多様化している。新聞、テレビのマスメディアが重要であったが、現在ではインターネット上の多種多様なSNSが一段と重要性を高めている。

米国大統領選、ワクチン接種強要、コロナパンデミック創出においても「情報戦」は主要な役割を果たしたと言える。
ウクライナ戦乱について、米国を軸とする西側メディアはウクライナ=善、ロシア=悪の構図で「情報戦」を展開した。
一方的な情報しか流布されない西側社会ではこの「情報戦」が一定の効果を発揮したと見られる。とりわけ日本では主要なマスメディアの情報が一色に染め抜かれた
このなかで私たちが真実を洞察することは極めて困難になっている。

米国では政治学者のシカゴ大学ミアシャイマー教授、哲学者のチョムスキー氏などが正論を開示し、一定の影響力を保つ。
フランスの思想家エマニュエル・トッド氏も米国の責任を問う論考を発表している。
ところが、日本ではウクライナの非、米国の非を指摘する正論が完全無視され、非難の対象とされてきた。
重要なことは真実を知ること。メディアが流布する情報に従うことではない。
先の大戦での経験は、このことの重要性を大きな教訓として残してきたはずだ。

しかし、メディアの垂れ流す洪水のようなプロパガンダ、デマゴギー攻勢に対抗することは容易なことではない。
ウクライナ戦乱はロシアとウクライナの間で生じているものではない。
ロシアと米国を中軸とするNATOの間で行われているもの。
米国は無尽蔵の装備と資金をこの戦乱に投下している。同時に空前の規模での「情報戦」を展開している。
この状況下で私たちはメディアが報じない「知られざる真実」を洞察しなければならない。
戦乱が誰の何のためのものであるのかを見抜くことが重要である。
西のウクライナに対して東の日本との指摘がある。日本がウクライナ化するとの指摘だ。
その意味を正確に読み取ることが重要だ。
ウクライナ化するから日本の軍備を増強するというのは短絡的であり、まさに米国軍産複合体の思うつぼになる。
ウクライナの教訓から学ぶべきことは日本の軍備を増強することではない。日本が戦乱に巻き込まれないための方策を考察することだ。

ウクライナの戦乱を歓迎しているのはゼレンスキーとバイデンである。
両者は安全な場に自らの身を置き、さまざまな利得を手にしている。
犠牲になっているのはウクライナの市民である。
ウクライナの市民にとって重要なことは戦乱を戦い抜くことではなく、戦乱を一秒でも早く終息させること。私たちは本質を見誤ってはならない。

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