2022年5月7日土曜日

07- 同盟諸国とロシアを戦争させたい米国(田中宇氏)

 フリーの国際情勢解説者、田中宇氏が「同盟諸国とロシアを戦争させたい米国」という記事を出しました。米国が、自分は戦わずにウクライナにロシアと長期間戦わせて最終的に倒したいという筋書きを持っていることはいまや衆知のことですが、田中氏はNATOの内情について、独仏など欧州諸国は少ない負担で自国の安全を確保するためにNATOに加盟しているのであって、米国主導するロシア敵視の演技に参加してもいいがロシアと戦争したくないというのが本音であること、また第二次大戦後ずっと米国の覇権運営を黒幕的に牛耳ってきた英国も、米国の軍産複合体と組んでNATOを温存し、米国の軍事費の恩恵を同盟諸国で山分けするなど、同盟諸国と一体になって米国を搾取してきたと述べています。

 これまで英国が米国に対して常に全面的に賛成し、一度もその意向に反さなかった理由がそれで分かります。
 ではプーチンはNATOの拡大にそんなに神経質にならなくともよいのかというと、米国自体は本気でロシアの殲滅を考えているのでそうとは言えないという関係にあるようです。
 田中氏は一貫してロシアが負けることはないとしています。
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同盟諸国とロシアを戦争させたい米国
                  田中宇の国際ニュース解説 2022年5月5日
最近の記事で、ロシアがウクライナの東部から南部にかけての地域を分離独立させて親露的なノボロシア連邦を新設しようと目論んでいる話を書いた。ロシアは、ウクライナの何割かの土地に傀儡国家を作る形で自国側に割譲させようとしている。しかし実のところ、ウクライナから土地を奪おうとしている国は敵方のロシアだけでない。ウクライナの味方であるはずのポーランドも、リビウなど自国に隣接するウクライナ西部を奪って自国領として「取り戻す」計画をひそかに進めている。ロシア政府がそう指摘し、ポーランド政府は否定しているが、ロシアが勝ってウクライナ全体がロシアの傀儡国になりそうなことから考えると、ポーランドがウクライナ西部を取っておこうとするのは自然だ。(ノボロシア建国がウクライナでの露の目標?

ポーランドは14-18世紀と、2度の大戦の戦間期(1919-41年)に、リビウなど今のウクライナ西部地域を領有していた。リビウ市民の半分がポーランド人で、3割がユダヤ人だった。戦後、この地域はソ連の一部であるウクライナに編入され、ポーランド人はポーランド側に移住させられ、ユダヤ人はイスラエルや米国に移り、リビウにウクライナ人が急増した。

そして今、ポーランド政府は、ウクライナの国家機能が戦争によって低下しているので「補助する」という名目で、ポーランド軍をリビウなどウクライナ西部に進軍させ、これまで国家警察などウクライナ当局が担当していた西部地域の治安維持などをポーランド軍が代行する計画を持っている。米国やNATOも、ウクライナ政府をロシアとの戦争に注力させられるのでポーランド軍のウクライナ西部侵攻に賛成している。今はまだ米国もNATOも「ロシアを打ち負かし、ウクライナにドンバスやクリミアを奪還させ、戦勝させて元に戻す」ことしか言っておらず、ポーランド軍のリビウ進出も、この戦勝目標が達成されたら終わることになっている。 

しかし、もしロシアが勝ち、クリミアやドンバスだけでなくオデッサやハルキウ(ハリコフ)までロシア側に奪われ、ウクライナが分割されることになったら、ポーランド軍はそのままリビウ周辺に居座り、ウクライナ西部はポーランドに併合される。ウクライナ国家として残るのはキエフ周辺などだけになり、それも親露的・露傀儡的な国家になる。ウクライナ戦争は、米国側でなくロシア側の勝ちになる可能性が大きい。ロシアが勝ち、ウクライナ全体がロシアの傀儡国になってしまうぐらいなら、あらかじめウクライナ西部をポーランドの取り分として確保しておいた方が良い。ポーランドはそう考えて、リビウ周辺への越境進軍を検討している。(ポーランドは領土拡張欲が強く、ロシアの盟友であるベラルーシからフロドナ周辺を「奪還」することも目指している)

米国はポーランドの侵攻計画を支持しているが、私が見るところ、それは別の思惑に基づいている。別の思惑とは「NATOの一員であるポーランドをロシアと戦争させる」ことだ。米国の支持によってポーランドの領土欲が刺激され、ポーランド軍がウクライナ西部に侵入・駐屯すると、彼らの役目はリビウ周辺の治安を守るだけでなく、露軍と戦うウクライナ軍を訓練することも任務に入ってくる。米欧NATO諸国がウクライナに送った新兵器類をウクライナ軍が操作できるよう、NATOの一員であるポーランド軍が訓練するのは米国側にとって重要だ。しかしそうなるとポーランド軍は、ウクライナを「非武装中立」にするために戦争しているロシアの敵になってしまう。ポーランド軍がウクライナに駐屯したら、ロシア軍の標的にされる。ロシアとポーランドがウクライナで戦争になり得る。

NATO加盟国であるポーランドがウクライナ西部の治安維持に協力するために軍隊(平和維持軍)を派遣したところ、ロシア軍が攻撃してきたとなると、NATOの5条が発動され、米英独仏などNATO全体がポーランド軍を守るため、ウクライナでロシアと戦わねばならなくなる。こうした状況を作る、もしくは事態をこうした状況に近づけることが米国の目標だ。NATOの5条が発動されても、それですぐに米国がロシアと戦争しなければならないわけではない。ロシアに痛めつけられているポーランドを助けるNATO5条の義務は、米国より先に、現地の欧州大陸にある同じEUのドイツやフランスに課せられる。米国は、独仏など欧州諸国をロシアとの戦争に直面させるためにウクライナの敵対状況を扇動してきた

独仏など欧州諸国は、ロシアと戦争したくない。欧州諸国は、少ない負担で自国の安全を確保するために、米国の傘の下に入れるNATOに加盟している。NATOがロシアを敵とする組織だというなら、米国主導のロシア敵視の演技に参加してもいいが、それは演技だけですよ、というのが欧州の本音だ。冷戦終結でロシア(ソ連)敵視のNATOは不要になったはずだが、英国やEUなど欧州諸国が米国の傘の下に入り続けたいのでNATOは温存され、米国は同盟諸国を守る安保上の負担を強いられ続けてきた。戦後ずっと米国の覇権運営を黒幕的に牛耳ってきた英国は、米国の軍産複合体と組んでNATOを温存し、軍事費など米国の安保資産の恩恵を、軍産と英欧(イスラエル日豪)など同盟諸国で山分けする事態が続いてきた。米国は同盟諸国に搾取されている。

イラク戦争を起こしたネオコン以来の、米国中枢に巣食う超党派の過激=覇権放棄的な隠れ多極主義勢力は、同盟諸国を巻き込んで米国の覇権戦略を過激に稚拙に好戦的に残虐にやり続けて失敗を繰り返し、同盟諸国が米国に愛想を尽かして離反するように仕向けてきた。しかし同盟諸国は、日本式の「見ないふり・いないふり戦略」や、ドイツ式の「EU軍を作るふりだけして何もしない戦略」などを駆使してしつこく米覇権に従属・ぶら下がり続け、米国がいくら無茶苦茶をやっても誰も離反しなかった。覇権放棄を果敢に推進したトランプも1期で排除された(次期に復権しそうだけど)。しかたがないので、米国中枢は稚拙な好戦戦略をどんどん過激化し、今回のウクライナ戦争に至っている

ポーランド軍が本当にウクライナ西部に進出するのかどうか、まだわからない。ポーランドがウクライナに進出して露軍に潰されても、独仏が外交的に右往左往するばかりで軍事的に動かず、米国も傍観するだけだと、ポーランドは見捨てられて大敗北になってしまう。その場合、NATOの5条が空文であることも確定してしまうので、NATOを米覇権牛耳りツールとして温存したい英国は、ポーランドに対し、米国から誘われてもウクライナに進軍するなと忠告しているはずだ。それらの展開を、プーチンは含み笑いしつつ眺めている。

米議会では共和党の一部の議員(共和党内で民主党に肩入れするAdam Kinzingerら)が「ウクライナでロシアが大量破壊兵器を使ったら、米大統領の権限で米軍をウクライナに派兵してロシアと戦争できるようにする」法案を提出しようとしている。この法案は、前回の記事に書いた「米大統領府の安保会議のタイガーチームが、ウクライナでロシアが大量破壊兵器を使ったという濡れ衣をかける演出をやろうとしている」という話と連携している。ロシア軍はウクライナで余裕で勝っているので大量破壊兵器を使う必要がないが、それを濡れ衣の演出でねじ曲げ、露軍が大量破壊兵器を使ったと世界に信じ込ませ、米軍をウクライナに派兵させる試みが進んでいる。この謀略が進むと、NATOの5条発動がなくても事態は米露戦争に近づく。(ウソだらけのウクライナ戦争

しかし、私が見るところ、米国は決してウクライナに派兵しない。そう思える理由は、米軍のウクライナ派兵を進めているかに見えるタイガーチーム自身が、同時に、ウクライナの戦況を歪曲して、実際と全く違う「露軍の大敗北」のイメージにしてしまっているからだ。米軍をウクライナに派兵するなら、まず米国自身がウクライナの戦況を正しく把握して議会やマスコミ権威筋の全体でそれを共有せねばならない。今のように、戦況をわざと大間違いして議会やマスコミ権威筋や国民に信じ込ませ、諜報界に正しい調査をさせない状態で米軍をウクライナに派兵すると、米軍は失敗して無駄な戦死者を出し、米国内の厭戦気運が高まってバイデンの民主党の人気がますます下がる。イラク戦争の時もインチキな諜報が出回ったが大した問題でなかった。しかし今回の敵は、弱いイラク軍でなく強いロシア軍だ。今回はインチキな諜報が敗北につながる。米大統領府がウクライナの戦況分析を故意に大間違いしている限り、米軍はウクライナに派兵されない。大間違いの戦況分析を正しい方向に転換するのは困難なので、米国は今後もずっとウクライナに参戦しない。ポーランドや独仏に参戦しろとせっつくだけだ。(ロシアが負けそうだと勘違いして自滅する米欧

米国はロシアと話し合いをする気が全くない。ロシアが潰れるまで戦う(ウクライナやEUを戦わせる)だけだと米政府は言い続けている。ロシアは潰れない。米露は永久に対立するだけだ(そして世界の覇権構造が多極型に転換する)。この流れの中に、米軍のウクライナ派兵が入る余地はない。米軍がウクライナに派兵されてもロシアは潰れないので、派兵したら米国はその後どこかの時点で米軍撤退のためにロシアと話し合いが必要になる。この展開は、米露の恒久対立を望む今の米国の戦略になじまない。米国はウクライナに派兵しないし、ロシアと直接戦争しない。だから米露核戦争もない。

(最近ロシアの政府筋は「米国側が激しく攻撃してきたら核兵器による反撃も辞さない」といった感じのことを言い続けている。それを受けて米国側の人々は「ロシアが核戦争を起こしそうだ」と言っている。米国側では「ロシア軍は、核兵器に頼らねばならないほど追い詰められているんだ。やっぱりロシアはウクライナで負けている」といった見方も出ている。私が見るところ、これらは間違いだ。ロシアは、米国側の人々を怒らせて、より強い対露経済制裁を仕掛けてくるよう誘導するために、核兵器使用をちらつかせている。米国側の人々が激怒し、ロシアからの石油ガス資源類の輸入停止など対露経済制裁を強くやるほど、その制裁はロシアでなく米国側諸国の経済と国民生活に大打撃を与え、米国側が自滅していく。実際のロシア軍は余裕があり、核兵器を使う必要がない。ロシア側がブチャ事件など戦争犯罪の濡れ衣を放置しているのも、米国側の人々を激怒させ、米国側に自滅的な対露経済制裁を強めてもらいたいからだ。米国側のマスコミ権威筋は、ロシアをこっそり支援する米中枢の隠れ多極派に誘導されている)

ポーランドが侵攻してきて西部を奪おうとしているのに、ウクライナ政府は黙認している。ポーランドは米国の後ろ盾を得ているので、同じく米傀儡国であるウクライナは反対できない。その一方でウクライナ政府は「ハンガリーがウクライナの一部を奪おうとしている」と言ってハンガリーを非難している。こっちの方は無根拠な濡れ衣だろう。ハンガリー政府はオルバン首相の親露政権で、ウクライナの極右がオルバンを「殺すべき人のリスト」に入れたのと同期して、ウクライナ政府がハンガリー非難のために濡れ衣を言い出した。ウクライナの一部であるトランスカルパチアはかつてハンガリー領で、トランスカルパチアを奪還すべきだと言っているハンガリー人もいるが、親露でEU加盟のハンガリー政府はロシアとEUとの安定的な和解を望んでおり、トランスカルパチア奪還に動く状況でない(今のところ)。

ウクライナの近隣では、モルドバと沿ドニエストルも、米国側の謀略によって戦争に巻き込まれそうになっている。米国傀儡のウクライナのゼレンスキー政権は、モルドバ政府に対し、沿ドニエストルを武力で回収すべきだと要請している。沿ドニエストルはもともとモルドバの一部で、モルドバはもともとソ連の一部だった。モルドバはソ連崩壊後、ルーマニアに編入してもらうか独立国になるかで迷った末に独立国になったが、その際、モルドバ国内の沿ドニエストルだけは、ソ連の後継国であるロシアと一緒になりたいと望み、1990年にモルドバからの分離独立を宣言した。92年にモルドバと沿ドニエストルが内戦になった後、ロシアが仲裁して停戦させ、ロシア軍が沿ドニエストルに進駐して兵力引き離しを監視している。 (ノボロシア建国がウクライナでの露の目標?

沿ドニエストルはウクライナと国境を接している。今回、ウクライナ軍は4月27日に無人爆撃機(ドローン)を沿ドニエストルのロシア軍の施設に向けて飛ばす攻撃をやっている。その後、ウクライナ政府がモルドバ政府に対し、沿ドニエストルを武力で回収すべきだ(ウクライナも協力するよ)と提案した。ロシアとの貿易が経済の重要な部分を占めているモルドバの政府は、ウクライナの提案を断った。ウクライナ政府の提案は、ゼレンスキーらが独自に考えたのでなく、モルドバとウクライナで沿ドニエストルに駐留するロシア軍を挟み撃ちにすれば、ロシアから援軍が来て本格戦争になり、ウクライナを使ってロシアを潰す戦争を扇動できて好都合だと考えた米国が、ウクライナにやらせているのだろう。 

米国側はモルドバの政治家を動かして、モルドバをルーマニアに併合させようとする動きもやっている。モルドバはルーマニア語の国で、両国は親和性が高い。モルドバはNATO加盟していないが、ルーマニアはNATO加盟国なので、モルドバがルーマニアに入ればNATO加盟地域になり、モルドバの一部だが分離独立を宣言している沿ドニエストルも、NATOやモルドバ側から見ると加盟地域になる。沿ドニエストルに駐留するロシア軍は、NATO加盟国内に居座っていることになる。モルドバがルーマニアに併合されると、NATOは沿ドニエストルの独立を否定し、そこにいるロシア軍に退去を求める。ロシアは、沿ドニエストルの民意を理由に撤退を拒否する。NATOとロシアが沿ドニエストルをめぐって鋭く対立し、事態は戦争に近づく。これは米国中枢のタイガーチームが喜びそうなシナリオだ。

米国は沿ドニエストルを新たな戦場にしたいらしく、ルーマニアに兵器をどんどん送り込んでいる。戦争を拡大したがっているのはロシアでなく米国側だゼレンスキー大統領のウクライナ政府も、自国民のことより米国傀儡として戦争を拡大することを最優先にしている。ウクライナ政府を支援するのはやめるべきだ。対米従属もできるだけ早くやめた方が良い。中立国になれば石油ガス資源類にも困らないですむ。