ドイツ生まれのキッシンジャーは、1837年、ヒトラー政権の対ユダヤ人政策に反対した家族と共に米国に亡命しました(15歳)。ニクソン政権下で大統領補佐官としてホワイトハウスに入り、当時国交のない中国に単身で入国し、周恩来氏と2回にわたって対談して米中国交回復につなげました。
99歳になった今年もスイスのダボスで開かれている世界経済フォーラムの年次総会で5月23日にバーチャル演説を行い、ウクライナ戦争について2カ月以内に戦闘を終えるための交渉をはじめるべきだと述べました(櫻井ジャーナル 別掲)。彼は14年にも米国がウクライナのクーデターを引き起こしたことを批判するなど、一貫して米国のウクライナ介入の誤りを指摘してきました。
植草一秀氏が「キッシンジャー発言にメディアが狼狽」とする記事を出しました。
冒頭で、「紛争の解決に武力を用いることは避けるべきこと。この意味でロシアの行動は非難されるべきもの。しかし、紛争の解決に武力を用いてきたのはロシアだけでない。米国こそ筆頭常習犯である」と述べています。
米国とゼレンスキーは、ロシアがクリミア侵攻前の原状に戻ることが戦争終結の条件だと公言していて、それは一見正義を地で行く理想論に見えますが、その状況を実現させるには更に長い期間を要しその間に多大な戦争犠牲者を生み出す上に、そもそも原状に復すことが住民にとって幸せなのかという本質的な問題があります。
キッシンジャーはウクライナ東部のロシア占拠地をロシアに割譲すべきだという意見であり、住民の幸せという視点からは合理的といえます。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
キッシンジャー発言にメディアが狼狽
植草一秀の「知られざる真実」 2022年5月28日
ウクライナの問題で正論が示されると西側メディアは狼狽する。
2月24日にロシアによる軍事作戦が始動してから、この対応が現在まで続く。
紛争の解決に武力を用いることは避けるべきこと。この意味でロシアの行動は非難されるべきもの。
しかし、紛争の解決に武力を用いてきたのはロシアだけでない。米国こそ筆頭常習犯である。
ウクライナ問題を理解するには過去の歴史の検証が不可欠。
2004年の政権転覆、2014年の政権転覆の事実検証抜きにウクライナ問題を語れない。
本ブログ、メルマガでは、繰り返し、事実の検証を試みてきた。
結論を要約すれば、ウクライナの親ロシア政権は米国の策謀によって破壊されてきた。
2004年には選挙で新大統領が選出されたが、この選挙を不正選挙と決めつけて再選挙が強行され、当選者が入れ替えられた。この政権転覆を主導したのは米国であると見られる。
ところが、米国による政権転覆によって誕生したユシチェンコ大統領は2010年の選挙で落選した。公正な選挙によってヤヌコビッチ氏が新大統領に選出された。
このヤヌコビッチ政権を不正な暴力革命によって破壊したのが米国である。
米国はネオナチ=極右勢力と結託して暴力革命を挙行。不正な方法で非合法新政府を樹立した。新政府はウクライナ憲法の規定に基づかずに樹立された非合法政府だった。
この非合法政府を直ちに承認したのが米国。不正な暴力革命に不正に正統性を付与した。
樹立された新政府は新政府樹立の翌日である2014年2月23日に「ウクライナ民族社会」の設立を発表。
その内容は、ロシア語を使用するすべての者から、ウクライナ民族社会の正当な権利を有するメンバーという地位を剥奪すること、彼らを市民権及び政治上の権利において差別すること、などだった。
ウクライナ東部の多数勢力であるロシア系勢力の人権を蹂躙する施策を掲げたのである。
ロシア系国民が反発したのは当然のこと。
東部2州では共和国独立が宣言され、クリミアでは住民が住民投票によってロシアへの編入を決定した。
この動きに対し、創設された非合法ウクライナ政府は東部地域に対する軍事攻撃に着手した。
結果としてドネツク、ルガンスクの東部2州で内戦が勃発した。
ウクライナは北西部と南東部で属性が決定的に異なる。
北西部はウクライナ語を使用しカソリックであるウクライナ人が主流。
南東部はロシア後を使用しロシア正教徒であるロシア系住民が主流。
ウクライナには二つの異なる属性を持つ住民が居住しており、一方が他方を支配しようとすれば内戦か分裂になる。
このことを指摘してきたのが米国の元国務長官であるキッシンジャー博士。
2014年の政権転覆で非合法的に樹立されたウクライナ新政府はロシア系住民およびロシア系住民居住地域に対して残虐な行動を広範に展開した。
2014年の政権転覆後に大統領に就任したポロシェンコは2014年10月23日、オデッサでの演説でこう述べた。
「年金生活者と子どもたちに給付金を与えるが、あの者たちには与えない!
我々の子どもたちは学校にも幼稚園にも行くが、あの者たちの子どもは地下室に留める!
あの者たちは何もできないからだ。
そうすることによってこの戦争に勝つのだ。」
「あの者たち」とはドンバス(ドネツク、ルガンスク)の人々のこと。
東部での内戦を収束させるために「ミンスク合意」が二次にわたって制定された。
第二次ミンスク合意は国連安保理で決議され、国際法の地位を獲得した。
ウクライナのゼレンスキー大統領がミンスク2を誠実に履行していればウクライナ戦乱は発生していない。
戦乱発生の根本の原因はゼレンスキー大統領がミンスク2を踏みにじり、米国の誘導に乗ってロシアとの軍事対決路線を尖鋭化させたことにある。
キッシンジャー博士の指摘は正鵠を射る。
『日本経済の黒い霧 ウクライナ戦乱と資源価格インフレ 修羅場を迎える国際金融市場』
(ビジネス社、1870円(消費税込み))https://amzn.to/3tI34WK
ぜひご高覧ください。Amazonでの評価もぜひお願いいたします。
(以下は有料ブログのため非公開)