米国はウクライナに武器を潤沢に供給して戦火が長引くように仕向けながら、EUの各国にはロシアへの経済制裁として天然ガスや石油の輸入禁止を強制しています。
EU各国としては代替の輸入先は見つかるにしても、高めの新価格に輸送費が加算されるので大いなるコスト高になり、船便+陸路の運送になるのでライン供給に比べれば不安定にもなってダメージは小さくありません。
櫻井ジャーナルは米国はそれらを見越した上での強制だと見ています。米国対EUの関係を見るとNATOは決して一体ではありません。
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米政府の経済戦争でEUがダメージを受けているが、これは副次的被害でない可能性
櫻井ジャーナル 2022.05.10
アメリカのジョー・バイデン政権はロシアを弱体化させるため、ウクライナのネオ・ナチ体制へ兵器を供給、戦闘員を送り込んでいるが、それだけでなく「制裁」と称して経済戦争を仕掛けている。その「制裁」で日本も大きな痛手を受けるはずだが、最もダメージを受けるのはEUだろう。アメリカやイギリスにとってロシアや中国は敵だが、日本やEUは潜在的なライバルである。
EUとロシアは天然ガスを通じて結びつきを強めていた。その天然ガスをロシアからEUへ運ぶパイプラインの多くが通過していたウクライナでバラク・オバマ政権が2013年11月から14年2月にかけてネオ・ナチを使ってクーデターを仕掛けたが、その理由のひとつはそこにある。
しかし、ウクライナを通らずにロシアからEUへ天然ガスを運ぶルートが存在していた。「ノードストリーム1」だ。2011年11月に開通している。その完成と同時に「ノードストリーム2」の建設が始まり、アメリカの妨害を乗り越えて21年9月には完成した。
その新パイプラインによる天然ガスの輸送はアメリカ政府の「制裁」によって始まらなかった。2月22日にドイツ政府は「ノードストリーム2」の承認手続きを中止すると発表したのだ。
ロシア政府はアメリカの経済戦争に参加している国々を「非友好国」と呼び、同国の天然ガスを購入する場合、決済は4月1日からロシアの通貨ルーブルに限ると発表した。
その要求をポーランドとブルガリアは拒否、ロシアのガスプロムは4月27日にポーランドとブルガリアへの天然ガス供給を停止すると発表した。この状態が続くなら、次の冬をEUは越すことが難しいだろうが、その前に生産活動が止まる。物流を支えているディーゼル・エンジンを動かすことが難しくなり、世界経済への影響も小さくない。
それでもEUの執行機関である欧州委員会はアメリカ政府の意向通りに動き、ウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は5月4日、ロシア産原油の輸入を禁止するよう求めた。それに対してハンガリー政府はこの要求に反対したが、こうした措置はハンガリーへのエネルギー供給を破綻させるからだ。他の国も同じ状況にある。
アメリカやカタールへの切り替えは容易でなく、輸送コストの上昇もある。アメリカのシェール・ガスやシェール・オイルは生産コストが高い上、供給の安定性で問題がある。
2014年のクーデター後、ロシアは中国との関係を強めることになった。その中心にあるのが天然ガスや石油で、パイプラインの建設が進んでいる。鉄道や道路なども整備されつつある。安定したエネルギー資源の供給源を必要とする中国にとってロシアとの関係強化は願ってもないことである。
クーデターを仕掛けたアメリカのネオコンはロシア人のヨーロッパへの憧憬や中国人のカネ儲け願望を過大評価、ロシアと中国の接近を予想できていなかったようだ。日本にもそうした見込み違いをしていた人が少なくない。
19世紀からイギリスにはロシアを制圧して世界の覇者になるという長期戦略があった。1869年にスエズ運河が完成、その運河を82年にイギリスが占領。地中海と紅海が結ばれたことでユーラシア大陸の周辺部を海軍力で支配し、内陸部を締め上げいるという戦略が可能になったのである。この戦略をアメリカは引き継いでいる。
アメリカは2018年5月に「太平洋軍」を「インド・太平洋軍」へ作り替え、日本を太平洋側の拠点、インドをインド洋側の拠点、そしてインドネシアを両海域をつなぐ場所だとしている。中東からインド洋へ出てマラッカ海峡を通過して南シナ海、東シナ海へという海路は中国が石油を輸送するルートと重なる。アメリカは中国へのエネルギー供給をコントロールしようとしている。
オバマ政権やバイデン政権の政策はエネルギー資源だけでなく、食糧の供給にも影響を及ぼしている。現在、2500万トン近い穀物がウクライナから運び出せない状況にあるという。
アメリカの支配層は「COVID-19(2019年-コロナウイルス感染症)騒動」でも世界の経済活動を破壊する政策を進めてきた。WHO(世界保健機関)が2020年3月11日にパンデミックを宣言してから人びとの行動は制限され、社会は収容所のようになる。生産活動や商業活動は麻痺し、倒産、失業、ホームレス、そして自殺者の増加といった問題が生じた。経済活動の破綻は巨大金融資本にとってビジネス・チャンスだ。その先には資本主義の「大々的なリセット」がある。
2月24日にロシア軍はウクライナを巡航ミサイル「カリブル」などで攻撃し始めた。航空基地が破壊されたと言われているが、その際にウクライナの生物兵器研究開発施設も狙われたとされている。当初、アメリカ側は「偽情報」だとしていたが、そうした施設が存在していたことは記録に残っている。
ロシア軍の核生物化学防護部隊を率いているイゴール・キリロフ中将は3月7日に記者会見を開き、ウクライナの生物兵器の研究開発施設から回収した文書について語り、ウクライナにはアメリカのDTRA(国防脅威削減局)にコントロールされた研究施設が30カ所あるとしている。人のつながりや資金の流れから、こうした施設がCOVID-19騒動と関係している疑いが強まっている。