自民党政権はこの10年、特定秘密保護法に始まって戦争法、共謀罪法など、数々の反動立法を行ってきました。働かせ方改悪法と呼ばれる労働基準法改悪も見過ごせないし、ロクな審議も行われないまま参院に審議の場を移した経済安保法案は、日米同盟が軍事に留まらず、日本の経済活動に米国の世界戦略を具体的に組み込めるようにするものです。要するに自民党政権は必要な法案を作る代わりに、国民の利益にならない有害な法律を作ろうとしているのです。
侮辱罪を厳罰化し、懲役刑を科すことを可能とする刑法改正案が4月21日に衆院本会議で審議入りしました。これはインターネット上の誹膀中傷対策として法定刑をこれまでの「拘留(30日未満)又は科料1万円未満)」に加え、「1年以下の懲役・禁固または30万円以下の罰金」を導入しようとするもので、日本弁護士連合会は、法定刑引き上げ、懲役刑の導入は、正当な論評を萎縮させ、表現の自由を脅かすだけでなく、インターネット上の誹謗中傷対策としても的確ではないとして、反対を表明しています。
日弁連は長年、ネット上の誹謗中傷対策としてプロバイダ責任制限法を改正して発信者情報を開示しやすくすることや損害賠償額の適正化を求めているのですが、政府はそれには一向に取り組まないで、いきなり侮辱罪の厳罰化法案を出して来たのでした。
もともと明治時代に作られた侮辱罪法(当時は讒謗律)は自由民権運動の弾圧に使われた歴史があり、厳罰化案が権力批判の封じ込めにつながる惧れは濃厚です。
27日の衆院法務委で、質疑に立ったの米山隆一・衆院議員(無所属)が、「私が『総理は嘘つきで顔を見るのも嫌だ。早く辞めたらいいのに』と言った場合、侮辱罪に該当しますか? また精肉店を営んでいる私の母が、お客にこの言葉を言った場合には侮辱罪に該当しますか? 」ときいたところ、答弁に立った法務省の刑事局長は「犯罪の成否は収集された証拠に基づき個別に判断される事柄なので、この場で法務当局としてその犯罪の成否についてお答えは差し控えたい」として、該当しないと明言しませんでした。
これは現行の常識とされてきたものに反するもので、すべては「検察の裁量に委ねられている」ことを明らかにしたものです。
しんぶん赤旗とLITERAの記事を紹介します。
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刑法侮辱罪・厳罰化法案 日弁連刑事調査室嘱託 和田恵弁護士に聞く
しんぶん赤旗 2022年5月1日
わだ・めぐみ 2007年弁護士登録(東京弁護士会)、18年8月か
ら日本弁護士連合会刑事調査室嘱託。共著に『起訴前・公判前整理・
裁判員裁判の弁護実務』
刑法侮辱罪の厳罰化法案が衆院で審議されています。政府は、インターネット上の誹膀(ひぼう)中傷対策として法定刑をこれまでの「拘留(30日未満)又は科料1万円未満)」に加え、「1年以下の懲役・禁固または30万円以下の罰金」を導入しようとしています。これに対し、日本弁護士連合会は、法定刑引き上げ、懲役刑の導入は、正当な論評を萎縮させ、表現の自由を脅かすものとして不適切であり、インターネット上の誹謗中傷対策としても的確ではないとして、反対を表明しています。日弁連刑事調査室嘱託の和田恵弁護士に話を聞きました。(日本共産党政策委員会・高橋万里)
ー 厳罰化による正当な論評への萎縮効果が懸念されています。
侮辱罪には、名誉毀損(きそん)罪とは異なり、公共の利害に関する事実や公益目的、公務員に関する事実について、真実であったことの証明があれば違法性が阻却される(罪に問われない)という規定がありません。
判例もなく、公然と人を侮辱するどのような侮辱が処罰されるか確立していないため、例えば、「○○はバカ、辞めろ」「無知、恥知らず」「総理の器じゃない」などの政治家を批判する言論も処罰対象とされる恐れがあります。
逮捕が可能に
懲役刑の導入で、これまでは原則できなかった逮捕・勾留が可能となります。起訴に至らなくても、逮捕・勾留だけで、表現を抑圧し、萎縮させる効果は十分です。ちなみに名誉毀損罪の逮捕・勾留件数は、検挙件数の総数932件のうち、121件で逮捕され、さらにそのうち81件で勾留期間が廷長され、20日近くにわたり勾留されています。(2020年検察統計)
街頭演説中の政治家に対してヤジを飛ばした一般市民を、警察官がその場から排除したという、政治家に対する批判的言動への恣意(しい)的抑圧ともとれる例も起きています。
侮辱罪は、1875年の讒謗律(ざんぼうりつ)に由来し、同日に布告された新聞紙条例とともに自由民権運動の弾圧に使われた歴史があります。こうした歴史にも鑑みると、捜査機関の恣意的な捜査により、公人が批判を抑圧する手段として利用され、言論統制がされる危険も否定できません。
ー 厳罰化はインターネット上の誹謗中傷対策として的確でないと指摘されています。
被害者に深刻な苦痛を与える誹膀中傷に対処するための方策が求められていることは否定しません。ただ、インターネット上の攻撃は多様で、中には個人への直接メールやSNSのダイレクトメッセージ機能を利用した執拗なものがあります。1対1のやりとりは「公然と」されたものとは言い難いため、侮辱罪では的確に取り締まることはできません。
インターネツト上の誹謗中傷は匿名で行われるため、発信者の特定に時間を要するという大きな問題があります。民事上の救済の手段として、日弁連は、プロバイダ責任制限法を改正して発信者情報を開示しやすくすることや、損害賠償額の適正化を長年求めてきました。しかし、この点の政府の取り組みは遅々としています。
あまりに拙速
ー 世界では、名誉棄損や侮辱の罪は刑罰から外す方向なのですね。
国連自由権規約委員会は、その一般的意見で、名誉毀損を犯罪の対象から外すよう検討することを求め、拘禁刑は適切な刑罰ではないとしています。ところが、憲法で保障された表現の自由に関わる問題であるにもかかわらず、法制審議会では憲法学者を委員に入れずに、わずか2回で結論を出してしまうなどあまりに不十分で拙速でした。
英国や米国の多くの州で-は、侮辱罪を合む名誉毀損に対する罪が廃止されています。米国では、「執拗な加害目的の嫌がらせ行為」の処罰規定を持つ州もあります。表現の自由を萎縮させる危険のある侮辱罪の厳罰化ではなく、オンラインハラスメントに対処する罰則の導入などが議論されるべきです。
「侮辱罪」はやはり“権力批判封じ”に利用される! 国会で「“総理は嘘つき”は侮辱罪にあたるか」という質問に政府が驚きの答弁
LITERA 2022.04.30
ネット上の誹謗中傷対策として侮辱罪を厳罰化し、懲役刑を科すことを可能とする刑法改正案が、ついに4月21日に衆院本会議で審議入りした。
本サイトでも既報でお伝えしたように、侮辱罪の刑罰強化の動きが活発化したのは『テラスハウス TOKYO 2019-2020』(フジテレビ)に出演していた女子プロレスラー・木村花さんの死を受けてのことで、今回の厳罰化について政府は「ネット上の誹謗中傷を抑止するため」と説明。ネット上でも賛同の声があがっている。
だが、この法改正はネット上の誹謗中傷対策になるとは言い難いシロモノだ。たとえば、侮辱罪における侮辱とは「公然と他人に対して軽蔑を表示すること」で、公然性が要件となっている。つまり、ネットやSNS上、あるいは街頭演説などは「公然」と認められても、ダイレクトメッセージやメール、LINEなどでおこなわれるいじめや誹謗中傷は処罰対象にはならないと見られているのだ。また、今回の厳罰化が誹謗中傷の抑止力になるという科学的根拠はない。日弁連はプロバイダ責任制限法の改正による発信者情報開示要件の緩和や損害賠償額の適正化など「民事上の救済手段の一層の充実を図るべき」と訴えているが、政府はそういった救済策にこそ注力すべきだろう。
しかも、国会での審議によって明らかになってきたのは、政府・与党政治家への正当な批判を「侮辱」として解釈し、気に食わない言論や表現への弾圧に利用しようという政府の魂胆だ。
本サイトでは既報で、侮辱罪の厳罰化を進めてきた自民党の真の目的がネット上の悪質な侮辱行為にかこつけた「権力批判の封じ込め」にあると指摘。その一例として、木村花さんの死を受けて安倍政権下の2020年6月に侮辱罪の厳罰化などを求める提言案を政府に提出した自民党内プロジェクトチームの座長である三原じゅん子・参院議員が「政治家であれ著名人であれ、批判でなく口汚い言葉での人格否定や人権侵害は許されるものでは無い」とツイートしたことを紹介。最初から木村さんの死を利用し、表現の自由を潰し、政治家への言論を規制する気が満々だったのだと伝えた。
そして実際、27日におこなわれた衆院法務委員会では、政府が驚きの答弁をおこなったのだ。
「総理は嘘つき」は侮辱罪に該当するか?という質問に法務省刑事局長は…
27日の衆院法務委員会で、質疑に立った無所属(立憲民主党・無所属会派)の米山隆一・衆院議員は、こんな質問をおこなった。
「たとえば、私が『総理は嘘つきで顔を見るのも嫌だ。早く辞めたらいいのに』と言った場合、これは“嘘つき”という侮辱的表現を含むものだと思いますが、この発言は侮辱罪に該当しますか? また、これを私ではなく私の妻がコラムで書いた場合には該当しますか? また、新潟県魚沼市で精肉店を営んでいる私の母が、買いに来たお客さんにこの言葉を言った場合には侮辱罪に該当しますか? それぞれ法的根拠をもとに答えてください」
ご存知のとおり、安倍晋三・元首相に対しては「嘘つき総理」「安倍辞めろ」という批判が街頭演説の場やSNS上で繰り広げられてきた。そしてこれはどこからどう見ても、正当な論評だ。当たり前だろう。「桜を見る会」前夜祭問題だけでもじつに少なくとも118回も虚偽答弁をおこなってきた総理大臣に「嘘つき総理」と批判することが、「侮辱」であるはずがない。
いや、「嘘つき」などという事実を指摘する言辞のみならず、「公人中の公人」である総理大臣は、ときに「口汚い言葉」になるような苛烈な批判も受け入れるべきものだ。プーチン政権への批判を圧殺するために言論統制を強めているロシア政府を見れば一目瞭然であるように、いかに辛辣で品位を欠く表現であろうが、為政者に対して自由に批判できることこそが民主主義国家としての絶対条件、最後の砦だからだ。
当然、「総理は嘘つきで顔を見るのも嫌だ。早く辞めたらいいのに」という言葉が侮辱罪にあたるかどうかという問いに対し、政府は明確に「侮辱ではない」と否定するだろう。そう思っていたのだが、ところが答弁に立った法務省の川原隆司刑事局長はこう答弁したのだ。
「具体的な事例をお示しになって犯罪の成否をお尋ねになっているところでございまして、犯罪の成否は収集された証拠に基づき個別に判断される事柄でございますので、この場で、法務当局あるいは法務省として、その犯罪の成否についてお答えをすることは差し控えたい」
なんと、明らかに正当な論評でしかない「総理は嘘つき。早く辞めたらいいのに」という言葉に対し、「侮辱にあたるかどうかは答えられない」などと明言を避けたのだ。つまり、「総理は嘘つき」という言葉が「侮辱」として判断され、場合によっては懲役刑が科される可能性がある、というのである。
「北海道警察のヤジ排除は適切だったか?」と問われた国家公安委員長の信じ難い答弁
だが、驚きの答弁はこれだけではなかった。この日、自民党の二之湯智・国家公安委員長は、「閣僚または国会議員を侮辱した者は逮捕される可能性はあるか」という質問に対し、当初は「ありません!」と断言していたにもかかわらず、法律上の根拠について詰められていくうちに「(不当な弾圧として逮捕することは)あってはならないということ」と後退。最終的には「侮辱罪を犯した者が多少の可能性があって逮捕される可能性はまだ残っている」などと言い出し、逮捕の可能性を否定しなかったのだ。
いや、そればかりか、2019年に札幌市で街頭演説中の当時の安倍晋三首相に「安倍辞めろ」などとヤジを飛ばした市民が北海道警の警察官に排除された問題について、日本共産党の本村伸子・衆院議員が「北海道警の対応は適切だったのか」と問うと、二之湯国家公安委員長はこう明言したのだ。
「北海道警察の処置は正しかったと思っている」
北海道警によるヤジ排除問題については、今年3月に北海道地裁は道警が表現の自由を侵害したとしてその違法性を認め、道に対して計88万円の支払いを命じる判決を出している。道が高裁に控訴したとはいえ、しかもよりにもよって侮辱罪の厳罰化が為政者に対する正当な論評に対する弾圧になり得るのではないかと審議している最中に、国家公安委員長が「ヤジ排除は正しかった」とお墨付きを与えるとは──。これはようするに、ヤジを飛ばした市民に対して侮辱罪が適用されかねないことを如実に示しているだろう。
政府は「法令または正当な業務による行為は罰しない」とする刑法35条をもって正当な意見・論評は侮辱罪の処罰対象にならないと説明しているが、しかし、正当かどうかを判断するのは権力側の捜査当局だ。そして、法務省の刑事局長が「総理は嘘つき」という言葉が侮辱にあたる可能性を示唆し、二之湯国家公安委員長がヤジ排除を「正しかった」と言い切ったように、時の権力の恣意的な判断によって政治家への正当な論評・批判が弾圧される危険が高まっているのだ。
ネット上の誹謗中傷対策としての効果が疑問視される一方、言論弾圧につながる危険だけが膨れ上がってゆく、今回の法改正案。このようなロシア化を狙う危険法案を通すわけにはいかないだろう。(編集部)