2022年5月7日土曜日

【平和考】9条の力 全面発揮今こそ 外交強化こそ最大の安全保障

 しんぶん赤旗が「平和考」と冠した記事を出しました。
 そこでは防衛に名を借りた「敵(基)地攻撃」が如何に危険なもの(古来全ての戦争は自国の防衛を口実にして来ました)であるかを明らかにし、憲法前文と9条の精神である、近隣諸国をはじめとする諸外国との友好関係を築くことが重要であると述べ、具体的には、ASEAN諸国とも手を携え、日米中ロなども参加する東アジアサミット(EAS)の枠組みを活用しながら東アジアを平和と協力の地域にしていくことを提起しています
 しんぶん赤旗は3日にも「平和考 自民党「提言」は「安保法制第2弾」 集団的自衛権に『攻撃力』充足」という記事を出していますので、併せて紹介します。
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平和考
9条の力 全面発揮今こそ 外交強化こそ最大の安全保障
                        しんぶん赤旗 2022年5月6日
 「『戦争の最大の代償は常に市民の命であり、戦争は絶対に起こしてはならない』―。国連のグテレス事務総長がウクライナで語った言葉だ。市民の立場からは、戦争に勝者はなく戦争を起こした時点で敗北だ。これこそがウクライナ危機から私たちが学ぶべき最大の教訓だ」
 明治学院大学の阿部浩己教授(国際法)はこう述べます。

信頼関係を築く
 「では、戦争を起こさないためにどうするか。武力衝突は、戦争を起こす能力と意思が一致して起こる。信頼関係が破たんして戦争の条件がつくられる。東アジアで戦争を起こさないためには、日本が周辺国、世界各国との信頼関係を築くことを再確認するべきだ。それが日本国憲法の理念であり、諸国民の公正と信義に信頼して外交を強める。それが最大の安全保障だ
 これに対し、ロシアによるウクライナ侵略を前に、自民党、日本維新の会や日本会議勢力は、「9条では日本は守れない」として、敵基地攻撃能力の保有をはじめとする大軍拡、核共有、9条改憲を強くあおっています。
 「力には力で」「軍事には軍事で」という論理は、際限のない大軍拡、軍拡競争に陥り、戦争への危険を高めていきます。
 新潟国際情報大学の佐々木寛教授(平和学)は「安全保障のジレンマ」を指摘します。「こちら側が軍備を拡大し、安全保障を追求しようとすればするほど、相手も同じことをする。その結果、自らの安全を脅かすことになる。これが安全保障のジレンマだ」
 佐々木氏は、この点に加え、「戦争を始めるのも終わらせるのも米国が決める。安保法制をはじめ日本は米国の下請けに組み込まれ、米国の決定で自衛隊が命のやり取りをする状況に巻き込まれる。軍拡派はこれらの問題を全く見ようとしていない」と批判します。

鋭さ増す対抗軸
 9条による平和外交の本格的展開か、軍拡と軍事同盟強化か―。戦争の現実を前に、対抗軸は鋭さを増しています。
 千葉眞 国際基督教大学名誉教授(国際政治)は「東アジアでは『米国と日本』『米国と韓国』『米国と台湾』など、すべて米国軸、米国依存の安全保障で、中国や北朝鮮との緊張を高めている」と指摘。「敵味方をしゅんべつして敵対関係を強めるやり方は根本的に見直すべきで、東アジア全体を包括して中国、北朝鮮、ロシアも含めた枠組みをつくる努力が求められる。その真ん中で日本が役割を果たす。そういう平和外交を進めるチャンスがやってきた。今こそ憲法9条の出番だ」と語ります。
 佐々木氏は「冷戦構造と日米同盟で封じ込められてきた憲法9条の力を、いまこそ全面発揮する。安保と9条ではなく、9条の枠内でその構想力をもって安全保障を語るべきときだ」と強調します。

共産党の平和戦略提案
ASEAN外交 憲法と共鳴 軍拡より「平和の準備」
 日本共産党は、「軍事対軍事」の悪循環の道をしりぞけつつ、9条に基づく平和の外交戦略を提起。ASEAN(東南アジア諸国連合)が築いてきた平和の地域共同体の取り組みに学び、ASEAN諸国とも手を携え、日米中ロなども参加する東アジアサミット(EAS)の枠組みを活用しながら東アジアを平和と協力の地域にしていくことを提起しています。

戦争しない合意
 EASでは、日米中ロなどの参加国が、ASEANとの間で紛争の平和手段による解決を義務付けた東南アジア友好協力条約(TAC)を締結しています。これを米中、米ロ、日中などのEAS加盟国相互のマルチ(多角的)な関係に発展させていけば、東アジアに新たな平和の枠組みをつくることができます。
 新潟国際情報大の佐々木氏は「戦争に備えるのではなく、望まない戦争が起きない仕組みを国際的に共通につくっていく。そういう考え方をASEANはヨーロッパからも取り入れ、独自のやり方(Asean Way)で進めてきた。そういうことを東アジアでも模索していくべきだ」と述べます。
 東アジアは、東南アジアとは異なる条件として、米中ロなど覇権国が存在し世界有数の核の集中地域という事情も存在します。佐々木氏は「ASEANとの協力も含め、日本はまさに新しい安全保障や外交のモデルをこの困難な地域でつくる使命がある」と語ります。

 国際基督教大名誉教授の千葉氏は「一挙にASEANのような友好協力条約にまでたどり着けなくても、例えば5段階ぐらいのロードマップを考えながら政策提言を持っておくことは重要だ。共産党の政策活動にも期待したい。ウクライナの状況を見て国民も危機感を強めているもとで、冷静な理詰めの議論の存在は貴重だ」と語ります。
 中国との懸案であり国民の不安を呼んでいる尖閣問題でも千葉氏は、中国艦艇の日本領海や接続水域への侵入に対し中国側にはっきり抗議の意思表示をしつつ、「武力紛争を起こさない」ための合意を呼びかけていくことが重要だとし、現状ではそうした働きかけが欠如していると懸念を表明します。

 明治学院大の阿部氏は「ASEANとの距離を近づけていくことは東アジアの安全保障を考えるうえで非常に重要だ。この可能性はもっと議論、報道されてよい」と述べます。
 そのうえで日本国憲法との関係についても「自国の安全を守るために、地域全体で、各国とある種の信頼関係を築こうとしている。そういう信頼関係を築くのは日本国憲法の安全保障の理念であり、ASEANのやり方は日本国憲法と共鳴するところが大きい。敵基地攻撃能力を持つより、はるかに努力のいる大変なことだが、自分たちをかけていく価値のあるものだ」と指摘。「このやり方は、敵基地攻撃能力で互いに危険な日常にいくより、はるかに安全保障の度合いを高める」と語ります。

9条の精神実践
 日本共産党の志位和夫委員長は、東アジアの友好協力条約をつくる平和構想の特徴の一つとして、国連憲章、日本国憲法の精神にかなっていることを繰り返し強調しています。志位氏は「国連憲章の本来の精神は、集団安全保障にあり、国連憲章では、地域的な集団安全保障も重視されて明記されている。そして日本国憲法の精神は、紛争の平和解決――『紛争を戦争にしない』ということ。人類の社会からは紛争はなくならないかもしれないが、人類の英知で紛争を戦争にしないことはできる。これが日本国憲法第9条の精神であり、この精神を実践しているのが今のASEANのとりくみと言えるのではないか」と述べています。
 ロシアによるウクライナ侵略は世界に衝撃をもたらし、反戦平和の声が広がっています。その中で、日本国憲法9条の能動的側面が歴史的試練に立たされています。

 「九条の会」呼びかけ人で評論家の故・加藤周一氏は、2005年11月の講演会で「平和を望むなら、戦争を準備せよ」というラテン語のことわざを紹介しつつ、これは「間違っています」と指摘。「戦争の準備をすれば、戦争になる確率が大きい。もし平和を望むなら戦争を準備せよじゃあない。平和を望むならば、平和を準備した方がいい」と語りました。今の瞬間に通ずる重い言葉です。
                    (柴田菜央、中祖寅一、中野侃、目黒健太)

平和考
自民党「提言」は「安保法制第2弾」 集団的自衛権に「攻撃力」充足
                        しんぶん赤旗 2022年5月3日
 「ウクライナ(危機)で一気に進んだ。敵基地攻撃能力保有は、まさしく安保法制の第2弾。国民の危機意識を醸成し、防衛装備の拡大も9条改憲も進めるチャンスだ」。自民党国防部会関係者の一人はこう述べます。同党安全保障調査会は4月27日、「反撃能力」=敵基地攻撃能力の保有や軍事費の対国内総生産(GDP)比2%など、大軍拡を求める「提言」を岸田文雄首相に提出しました。
 提言では「反撃能力」の対象範囲を「相手国のミサイル基地に限定されるものではなく、相手国の指揮統制機能等も含む」としました。攻撃を受けそうになったら、相手国の中枢を先制攻撃するシナリオは、憲法9条に全面的に違反し、政府が建前としてきた「専守防衛」とも矛盾することは明らかです。

「矛」と「盾」
 自衛隊発足以来、「矛」と言われる攻撃能力は日米安保体制のもとで米軍に依存し、日本は「盾」すなわち「防御的」な活動に徹するという役割分担を形成してきました。これすら大きく切り替え、日本が独自の「攻撃力」を持つ―。安保法制で集団的自衛権の行使が可能になった自衛隊が、米国と肩を並べて攻撃参加する体制を充足するものです。
 長年、自衛隊の歴史について研究してきた植村秀樹流通経済大教授(安全保障論)は「自衛隊が敵基地攻撃能力を持つことは、侵略はもちろん、先制攻撃や他国での武力行使はしないという国民との合意を踏み越えるもの。2014年の集団的自衛権行使容認のときと同じで、これまでつくり上げてきた憲法解釈を勝手に政府が変える。これは憲法改正に等しい」と指摘します。そのうえで「今度は運用面で、自衛隊の装備と訓練と作戦を変える。これは安保法制の第2弾であり、完全に続きだ」と強調しました。

9条に違反
 『戦後政治にゆれた憲法九条―内閣法制局の自信と強さ―』の著者で共同通信元編集委員の中村明氏は「『長距離爆撃機の保有はできない』など従来の政府答弁を踏まえれば、高精度の長距離ミサイルの保有は憲法9条に違反する」と指摘。「しかも敵基地攻撃は、これまでの政府の立場でも極めて限定的な可能性にとどまる。『司令部』や『指揮統制機能等』まで対象を拡大するとなれば、(専守防衛の)例外の説明でもカバーできず、ほとんど全面的な攻撃を可能とする」と批判します。

事実上の憲法改定
 植村教授は、「『反撃』だの『自衛』だのどんな名目をつけようと、相手国は名目で判断しない。日本が自分の国の中枢に届く攻撃力を持ち、撃ち込む気だと判断する。しかも北朝鮮や中国にはかつての日本が侵略した歴史がある。そういう国に日本がミサイルを撃ち込むことは計り知れない禍根を生む」と批判します。

逆に壊滅的被害
 中村氏は、ロシアが壊滅的破壊力を持つ核弾頭搭載の水中ドローンシステム(魚雷)を持つことなどを示し、「日本がロシアや中国、北朝鮮のミサイル発射基地を長距離ミサイルで攻撃しても、報復攻撃で日本は壊滅的な被害を受けるだろう」と指摘。「防衛」目的の攻撃が、逆に壊滅的被害をもたらすという「軍事的不合理」を痛烈に批判しました。
 自民党議員の一人も「敵基地攻撃は、大変な反撃を呼び込む。絶対にやめるべきだ。ウクライナ危機で右側の人たちが調子に乗っている。まして相手の国の中枢を狙うなんてことは専守防衛にも反する。憲法審査会で参考人を呼んだら、安保法制のときのように専門家から『憲法違反』と言われる」と厳しい表情を浮かべます。

PDI構想から
 急ピッチで進む「敵基地攻撃」能力保有の動きの背景に何があるのか。政府に近いある安全保障の専門家は指摘します。
 「昨年1月に、PDI(太平洋抑止構想)という予算が米議会を通った。(中国が設定する)第1列島線(フィリピンから日本の南西諸島にかけてのライン)上に残存性の高い精密打撃網をつくる。要するに中国東海岸の1500発ともいわれる中距離ミサイルとの数合わせだ。在日米軍基地だけでなく日本にもミサイルや航空戦力を配備し、それでも間に合わないのでオーストラリアの潜水艦などに巡航ミサイルを供給する」
 米国の対中戦略として、奄美、宮古、石垣のほか沖縄本島も含む南西諸島周辺に、急いで中国のミサイルに匹敵する「精密打撃網」をつくる―。その一環として、既に南西諸島では自衛隊のミサイル基地が整備されており、中国艦船を想定した対艦ミサイルや、最新鋭の極超音速兵器の配備が狙われています。実際、PDIの予算要求資料では「精密打撃網」は「増強された同盟国の地上配備兵器の参加」が前提とされています。

対米公約の履行
 元海上幕僚監部情報班長で現在、笹川平和財団上席研究員の小原凡司氏は4月27日の東京都内での講演で「第1列島線上に構築する精密打撃ネットワークによって、中国のA2・AD(接近拒否・領域否定)の能力を一時的に無力化する。そうして機動力を生かして分散配備された米国の兵力が中国に軍事力を行使する。これがPDIの根幹だ」と述べました。
 同氏は「PDIは敵基地攻撃能力の保有とリンクしている」「中国の戦力と見合うためには、ミサイル基地だけでなく、中枢への攻撃が重要になる」としました。日本の敵基地攻撃能力保有は、米中の東アジアでの全面衝突シナリオの一環です。
 敵基地攻撃能力の保有はすでに今年1月の日米2プラス2協議と日米首脳会談で対米公約となっています。議論の表に出てきていませんが、敵基地攻撃能力の保有の推進は、対米公約の履行なのです。

中枢部をたたく
 安倍晋三元首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」のメンバーで集団的自衛権行使容認の憲法解釈変更を進めた一人である北岡伸一元東大教授は、4月はじめの都内の講演で「安保法制をつくったから、いざというときにはアメリカと一緒にたたかうと言えるようになった」と強調。一方で「敵基地攻撃」というが「今の基地は移動している」ため基地をたたくのは現実には難しいとし、「対象を基地に限る必要はない…中枢部をたたく。あるいは首脳の住んでいるところをたたく」と提言。「(北朝鮮より)大きな危険は中国だ。中国が攻めてきたときには反撃する能力を持つべきだ」と語りました。

明白な先制攻撃
 安保法制下での敵基地攻撃能力の危険は、より明白な先制攻撃が可能になるということでもあります。
 敵基地攻撃は、そもそも「撃たれる前に撃つ」という性質上、攻撃「着手」前の違法な先制攻撃との区別が極めて困難です。さらに安保法制に基づく集団的自衛権の行使として敵基地攻撃がなされる場合は、すでに米国に対する攻撃がなされた段階での攻撃参加となり、日本に対する攻撃の有無にかかわりなく一方的に攻撃できるようになるため、他国領域内での明白な先制攻撃となります
 これが憲法9条に違反することは明白です。東アジアの軍事的緊張を高め、南西諸島の破局のシナリオを含む大軍拡に厳しい批判が必要です。

                           (中祖寅一、目黒健太)