2022年5月6日金曜日

06- シリアやウクライナの問題で米国と一線を画しているローマ教皇庁(櫻井ジャーナル) 

 西側のメディアはいまや米国の意に反する報道は許されないという状況にあります。

 半世紀近く前の話になりますが、ウォーターゲート事件でニクソンを失脚させたワシントン・ポスト紙の記者バーンスタインは大統領辞任した3年後の1977年にポスト紙を辞め、ローリング・ストーン誌に「CIAとメディア」という記事を書きました。
 れによると当時の20年間にCIAの任務を秘密裏に実行していたジャーナリストは400名以上に達し、そのうち200名から250名が記者や編集者など現場のジャーナリストで、残りは、出版社、業界向け出版業者、ニューズレターで働いていました。
   ⇒ (2019.4.9 CIAによるメディア支配の実態(櫻井ジャーナル)
 これは1977年時点の話なので、その後は米国を超えて西側メディア全体がCIAの掣肘下に置かれている訳ですが、ローマ教皇庁にはその影響は及んでいないので、聖職者ら(修道院長、大司教など)はそれぞれに自由な調査を行い自由に発言しています。
 櫻井ジャーナルが、「シリアやウクライナの問題でアメリカの私的権力と一線を画しているローマ教皇庁 」とする記事を出し、彼らが米国の他国侵略の真実を暴露したきたことを明らかにしています。
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シリアやウクライナの問題でアメリカの私的権力と一線を画しているローマ教皇庁 
                          櫻井ジャーナル 2022.05.05
 イタリアの日刊紙「コリエーレ・デラ・セラ」のインタビューで教皇フランシスコはウクライナで戦闘が始まった原因について、ロシアの玄関先でNATOが吠えたことにあるのではないかと語り、モスクワでウラジミル・プーチン大統領と会談する希望を持っていると語った。プーチンは2019年7月4日にイタリアを訪問、教皇とシリアやウクライナの問題を話し合っている。
 シリアでの戦争は2011年3月に始まった。西側では「内戦」と表現してきたが、実態はアメリカなどの外部勢力がムスリム同胞団やサラフィ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)を傭兵として利用して始めた侵略戦争にほかならない。
 この当時のアメリカ大統領はバラク・オバマ。正規軍を投入した前任者のジョージ・W・ブッシュとは違い、オバマはジハード傭兵を使ったのだが、これは彼の師にあたるズビグネフ・ブレジンスキーがジミー・カーター大統領の国家安全保障補佐官だったときに使った手法を踏襲したものだ。

 イギリスの外務大臣を1997年5月から2001年6月まで務めたロビン・クックは05年7月にガーディアン紙で書いたように、「アル・カイダ」はCIAの訓練を受けたムジャヒディンの登録リストを意味する。アラビア語でアル・カイダはベースを意味、データベースの訳語としても使われるのだ。そうした戦闘員をリクルートすることがオサマ・ビン・ラディンの仕事だった。
 オバマ大統領は2010年8月、中東から北アフリカにかけての地域でアメリカ支配層にとって目障りな体制を転覆させるために侵略戦争を承認した。その手先として選ばれたのがムスリム同胞団である。
 その計画を作成したチームに含まれていたマイケル・マクフォールはビル・クリントンと同じようにローズ奨学生としてオックスフォード大学へ留学、博士号を取得している。この奨学制度はセシル・ローズの遺産を利用して1903年に創設されたのだが、そうした背景もあり、アメリカやイギリスの情報機関と関係が深いと噂されている。
 ローズは1870年、ダイヤモンドや金が発見されていた南部アフリカへ移住し、ダイヤモンド取引で財をなし、デ・ビアスを創設した。ローズに融資していた金融機関はNMロスチャイルド&サンである。
 1877年6月にローズはフリーメーソンへ入会するが、その直後に『信仰告白』を書いた。それによると、優秀なアングロ・サクソンが支配地域を広げることは義務だという。
 ローズの仲間にはナサニエル・ド・ロスチャイルド、ウィリアム・ステッド、レジナルド・ブレット、アルフレッド・ミルナー、ロバート・ガスコン-セシル、アーチボルド・プリムローズたちがいた。1896年にローズはレアンダー・ジェイムソンを使ってトランスバールへの侵略戦争を始めたが失敗、イングランドへ戻る。
 マクフォールは現在、スタンフォード大学の教授で、フーバー研究所のシニア・フェローでもあるが、2012年1月から14年2月まではロシア駐在大使を務めていた。ロシアの大統領選挙を2カ月後に控えた時期に赴任、ウクライナでクーデターを成功させた時期に離任したわけだ。
 マクフォールがモスクワへ到着したのは2012年1月14日。その3日後には反プーチン派のリーダーたちがアメリカ大使館を訪れている。活動方針を指示されたと見られているが、この人びとはロシア国民には相手にされていない。

 やはりロシア国民から相手にされていない反プーチン派のアレクセイ・ナワリヌイは奨学生としてエール大学で学んでいる。その手配をしたのもマクフォールだ。
 アメリカをはじめとする「西側」の政府や有力メディアがシリア政府に対する批判を始める切っ掛けは、民主化を求める平和的な抗議活動を政府軍が暴力的に弾圧したということだったとされている。
 しかし、この話は嘘だと言うことをシリア駐在のフランス大使だったエリック・シュバリエは明らかにしている。シュバリエによると、アル・ジャジーラなどの報道は正しくないとアラン・ジュペ外務大臣兼国防大臣(当時)に報告したのだが、この報告に外相は激怒し、残虐な弾圧が行われていると書き直せと脅したという。「暴力的な反政府派」では軍事介入の口実にならないということだろう。
 シリアへの侵略でトルコにあるインシルリク基地は重要な役割を果たした。この基地の主な利用者はアメリカ空軍とトルコ空軍で、イギリス空軍やサウジアラビア空軍も使っているのだが、シリアへの侵略戦争では戦闘員の訓練基地であると同時に兵站の拠点でもあった。

 2011年にシリアで侵略戦争が始まってから1年ほど後、メルキト東方典礼カトリック教会の修道院長、フィリップ・トルニョル・クロはホムスでの住民虐殺事件を調べるために現地へ入って調査、西側の宣伝が嘘だという結論に達し、「もし、全ての人が真実を語るならば、シリアに平和をもたらすことができる。1年にわたる戦闘の後、西側メディアの押しつける偽情報が描く情景は地上の真実と全く違っている」と報告している。
 ほかにも西側での宣伝を批判するカトリック関係者がいた。例えば2010年からシリアで活動を続けていたベルギーの修道院のダニエル・マエ神父​は住民による反政府の蜂起はなかったと語っている。シリアで宗教活動を続けてきたキリスト教の聖職者、マザー・アグネス・マリアムも外国からの干渉が事態を悪化させていると批判していた。

 最近ではカルロ・マリア・ビガノ大司教ウクライナの戦乱はアメリカが2013年から14年にかけて実行したクーデターが原因であり、その手先としてネオ・ナチが使われている事実、またウォロディミル・ゼレンスキー大統領が西側私的権力の影響下にあることも指摘している。このビガノ大司教はすでに引退しているが、バチカン市国行政局次官や駐米教皇大使を歴任した人物である。