2022年5月13日金曜日

「安全保障」口実に権力介入 経済安保法成立 田村氏が反対討論

 米国に主導された経済安全保障法が11日、参院本会議で共産党以外の各党の賛成で可決・成立しました。同法は日米軍事同盟の経済版で、中国を敵国としています。であるからこそ法律で明確に謳えないのですが、国民には実体をあきらかしないまま、米国のいうことは基本的に受け入れるとともに、大学や企業に対しては政府が法律を盾に介入できるという仕組みの法律になっているようです。

 中国は日本の最大の貿易相手国なのですが、米国は中国を最大の敵国と見做しているので、今後色々と難癖をつけてくることでしょう。本来、共存共栄を図るべき中国との関係が、そんな風に阻害されれば日本の経済にとって大きな損失になります。
 経済安保法は、何よりも米国にとって有利であるとともに、政府にとっても公然と軍事研究や軍事産業に介入できるというメリットがあります。
 しんぶん赤旗が同法案にただ一人反対した共産党の田村智子議員の反対討論を報じました。
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「安全保障」口実に権力介入 経済安保法成立 田村氏が反対討論
米国の対中戦略に企業や研究開発を組み込むもの
                       しんぶん赤旗 2022年5月12日
 外交・防衛政策とともに、経済政策を国家安全保障の柱にすえる経済安全保障法が11日の参院本会議で自民、公明、立民、維新、国民の各党の賛成で可決・成立しました。日本共産党は反対しました。日本共産党の田村智子議員は討論で、同法案が、中国の経済力・軍事力を脅威とする米国の安全保障戦略と軌を一にしたものであることをあげ、「仮想敵を前提とした安全保障戦略に、企業活動や研究開発を組み込むことは、民間企業や大学等への国家権力による監視や介入をもたらす」と指摘。しかも、政府が経済安全保障について「定義はない」と開き直り、具体的な目的・政策を明らかにしていないとして、「安全保障を理由とする規制が誰に対して、どのように行われるか、政省令に白紙委任するなど断じて認められない」と批判しました。
 同法案は、「特定重要技術」の開発支援として官民協議会を設置することや、特許の非公開制度の導入、政府が指定する「特定重要物資」の安定供給のための計画提出などが盛り込まれています。
 田村氏は、何が「特定重要技術」に当たるのか、官民協議会の設置を求めるかは、研究資金をもつ政府の判断に委ねられ、政府が研究成果の非公開を要請することも可能になっていることなどをあげ、「このような政府による関与は、学問の自由への介入であり、研究の発展を阻害する」と指摘。戦前の秘密特許制度の復活である特許の非公開制度が産業発展を阻害することや、安全保障を理由に企業活動への政府の監視・介入が強化される危険性を強調しました。
 そのうえで、田村氏は「日本にとって最も問われるのは、米国からの自立であり、労働者をコストとみなしてきた経済政策の転換だ」と指摘。「国家体制や宗教などが異なる多様な国々を『価値観』によって分断し、敵対するのではなく、平和と共存共栄の国際秩序をいかに構築するか、それこそが追求すべき真の安全保障だ」と強調しました。


経済安保法案に対する田村議員の反対討論(要旨) 参院本会議
                       しんぶん赤旗 2022年5月12日
 日本共産党の田村智子議員が11日の参院本会議で行った経済安保法案に対する反対討論の要旨は以下の通りです。
 本法案は、国家安全保障の柱に、外交・防衛政策とともに経済政策をすえる戦略を強化するものです。政府は「特定の国を念頭に置いていない」としていますが、中国の経済力・軍事力を脅威とする米国の安全保障戦略と軌を一にしていることは明らかです。
 中国の軍事的威嚇や覇権主義、知的財産権をめぐる問題などは、事実に基づく厳しい批判と外交的な解決が求められます。不安や脅威をあおり、仮想敵を前提とした安全保障戦略に企業活動や研究開発を組み込むことは、民間企業や大学等への国家権力による監視や介入をもたらします。
 しかも政府は、経済安全保障について「定義はない」と開き直り、具体の目的・政策を明らかにしていません。安全保障を理由とする規制が、誰にどのように行われるのか、政省令に白紙委任するなど、断じて認められません。
 法案に即して反対理由を述べます。
 第1に、特定重要技術の開発支援として官民協議会を設置することは、科学技術研究の軍事研究化を促進するものです。
 官民協議会で官側のニーズや機微情報の提供を前提とした研究を促進し、研究者には罰則付きの守秘義務が課せられます。軍事転用可能な最先端技術開発が対象となるのは明らかです。
 政府は研究に直接関与し、研究成果の非公開を要請することが可能となります。政府による関与は学問の自由への介入で、研究の発展を阻害します。
 特定重要技術の調査研究(シンクタンク)は、外部機関への委託が予定されます。自衛隊、警察、米国防総省の関係者との人事交流も排除されません。大学や研究者へのデュアルユース研究の状況調査、軍事研究への参加促進をはかるものと言わざるをえません。
 第2に、特許の非公開制度は戦前の秘密特許制度の復活であり、産業発展を阻害します。
 わが国の特許制度は公開が原則ですが、唯一の例外が日米防衛特許協定です。協定の対象のほとんどがデュアルユース技術であることが明らかになりました。デュアルユース技術が非公開とされ海外出願禁止となれば、日本の産業発展を阻害します。学会での意見交換まで処罰対象となるとの答弁は重大です。
 第3に、企業活動への政府の監視・介入が強化されることです。基幹インフラの設備導入や更新の際、事業者に罰則も付し、納品業者・委託業者等の事前届け出を課し、政府による審査、勧告、命令まで行うとしています。
 特定重要物資の供給事業者には、取引先など安定供給の計画提出が課されます。
 中国への対抗措置であることは明らかですが、政府は特定の国を対象にしたものではないとしており、何が規制されるか不明確です。参考人質疑では経団連の原一郎参考人から「レッドラインを明確にしてほしい」との発言までありました。
 いきなりの捜査を回避するため、企業は政府との情報交換を常態化させます。特定重要物資は、基金による多額の助成が特定企業に行われます。民間企業と政府の癒着を強めることは自明です。
 日本の半導体産業が凋落(ちょうらく)したのは、日米半導体協定で事実上、価格決定さえ米国に握られ、外国製半導体の購入を約束させられたからです。新自由主義の経済政策によるリストラが、アジアに技術者を流出させたことも大きな要因です。最も問われるのは米国からの自律、労働者をコストとみなしてきた経済政策の転換です。
 ロシアのウクライナ侵略で、国連憲章という平和の国際秩序への国際社会の結束が求められます。多様な国々を「価値観」で分断し敵対するのではなく、平和と共存共栄の国際秩序をいかに構築するか。これこそ追求すべき真の安全保障です。