2022年5月14日土曜日

国民は本当にそれでいいのか 戦争国家に向けて準備着々(日刊ゲンダイ)

 11日成立した経済安保推進法の狙いは、欧米諸国と対立を深める中国やロシアへの経済的依存からの脱却。そのための統制強化で、背景には先端技術分野での「米中覇権争い」があります。外交評論家の孫崎享氏は、「いまや中国は、米国を抜いて世界トップの研究レベルにあり、その(論文の?)シェアは25%近くを占めています。一方、日本は2%程度なので、それで日中の交流を止めれば日本の受ける被害の方が圧倒的に大きく、バカげた法律だ」と述べています。

 そのうえ米国の「中国包囲網」に従って貿易禁止品目が増加すれば、現在1位の対中貿易額は急激に減少します。
 バイデンはさらに中国排除の新たな経済圏構想「インド太平洋経済枠組み」を持っていて、今月下旬に来日した際に発足させたいと考えているということです。その先にあるのは日本と中国を直接対決させる「台湾有事」です。中国を消耗させるために、日本が壊滅的な打撃を受けることなど意に介さない訳です。
 岸田政権が年末に改定する外交・安保政策の長期指針「国家安全保障戦略」には、「敵基地攻撃能力」の保有や防衛費の5年以内のGDP比2%への拡大など提言盛り込まれる方向だと言われていますこうしてバイデンが進める「民主主義国家と権威主義国家の対立構図」にからめとられるように、日本は一直線で戦争国家へと突き進んでいます。

 もう二度と戦争はしないという9条の精神はどうなったのでしょうか。日本が本来進めるべきは、相互の緊張を解き信頼感を高める外交努力」の筈です。それなのにメディアは一向に警鐘を発しません。あたかも戦前のメディの状態に戻った観があります。
 日刊ゲンダイが「国民は本当にそれでいいのか 戦争国家に向けて準備着々」という記事を出しました。
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国民は本当にそれでいいのか 戦争国家に向けて準備着々
                         日刊ゲンダイ 2022/ 5/ 13
                       (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
 11日成立した経済安全保障推進法。新聞テレビでは、<経済安全保障は、国民の生命や財産を守る安全保障に政府の経済政策や企業活動を結びつける考え方><半導体や医薬品など国民生活に欠かせない重要な製品「特定重要物資」が安定的に供給されるよう、企業の調達先を調査する権限を国に与える><サイバー攻撃を防ぐため、電力や通信などインフラを担う大企業が、重要な機器を導入する際に、国が事前審査を行えるようにする><軍事利用されかねない技術の情報公開を制限したりする>などと解説されているが、法律の狙いはズバリ、欧米諸国と対立を深める中国やロシアへの経済的依存からの脱却。そのための統制強化だ。
 背景には、先端技術分野での「米中覇権争い」がある。つまり、日本が主体的にというより、米国に促されるまま足並み揃えた「中国包囲網」が目的だから、法律は拙速で生煮え。具体的にどんな物資が対象になるのかやどんな技術が情報公開を制限されるのかは、法律に記されていない。成立後に政省令で決める項目が138カ所もあり、省令でどうにでもなる「白紙委任」となっているのである。
 「2年以下の懲役か100万円以下の罰金」という罰則が設けられることもあり、当初は自由な経済活動に制限がかかると経済界からも反発があった。ところが、ロシアによるウクライナ侵攻で「安全保障強化」の声が高まる中、反対はかき消された。
 経済面より軍事的な包囲網が優先された法律です。世界の科学技術の潮流を考えれば、長期的に日本経済はガタガタになりますよ。日本の多くの人の認識と違うのは、いまや中国は、米国を抜いて世界トップの研究レベルにあること。そのシェアは25%近くを占めています。一方、日本は2%程度。つまり、日本から2%分の技術流出を止めれば、中国からは日本へ25%分が止まる。日本の受ける被害の方が圧倒的に大きく、バカげた法律なのです」(元外務省国際情報局長・孫崎享氏)

沖縄は台湾有事の最前線
 中国を目の敵にする米国は、バイデン大統領が中国排除の新たな経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」を提唱。今月下旬に発足させようとしており、バイデン訪日時に日本も協力させられそうな状況だ。
 軍事面でも日米一体化は、ロシア以前から歴代自民党政権によって周到に用意されてきた。
 米国と共有する軍事機密の漏洩防止を目的に、2013年に特定秘密保護法が制定され、15年には憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認する安保法制、17年には「共謀罪」法。3点セットで着々と戦争のできる国づくりが進められた。併せて、安倍政権は米から高額兵器を爆買い。自衛隊は沖縄・南西諸島への部隊配備を進め、米軍司令官が昨年3月、「中国は6年以内に台湾に侵攻する恐れがある」と米議会で証言して以降、沖縄は「台湾有事」の最前線である。
 ロシアの侵攻によるウクライナ戦争勃発で、いまの日本では、「かつてなく厳しい安全保障環境」と唱えれば、防衛力強化がどんどん容認される空気が漂う。「反撃能力」と言い換えた「敵基地攻撃能力」の保有や防衛費の5年以内のGDP比2%への拡大などが提言され、経済安保法が成立。いずれも岸田政権が年末に改定する外交・安保政策の長期指針「国家安全保障戦略」に盛り込まれる方向だ。
 バイデンが進める「民主主義国家と権威主義国家の対立構図」にからめとられるように、日本は戦争国家へと突き進む。国民は本当にそれでいいのか。

「有事法制は、それを行使しない外交とセット」
 12日も、衆院憲法審査会では、9条を含む安全保障の議論のあり方が論点となった。自民党は、同党の改憲案4項目に盛り込んだ9条への自衛隊明記の意義を訴え、憲法審で安保に関する議論を優先的に進めるべきだと主張。立憲民主党が、9条改憲ありきの進め方に反対したが、日本維新の会は、ウクライナ情勢や中国の軍事力拡大を踏まえ、今国会中に安保に関して討議すべきだと自民党を後押しした。
 ウクライナ戦争をめぐる政府の対応や国会審議もそうだが、勇ましい議論ばかりで、外交努力は片隅に追いやられている。だが、それが本当に国民の生命と財産を守ることにつながるのか。日本は太平洋戦争で侵略国家となった。だから憲法9条で国際紛争を解決する手段としての戦争を永久に放棄、専守防衛を誓った。そんな日本が武装強化一辺倒になれば、周辺国に脅威を与えることになるのは明らかだ。
 かつて自民党総裁選に出馬した際、田中真紀子衆院議員(当時)に「凡人」「軍人」「変人」と評された3人のひとり、「軍人」梶山静六(故人)は、その政治手法から「武闘派」「剛腕」などの代名詞があり、周辺事態などの有事法制にも積極的だった。しかし、その一方で、「有事法制は外交とセット論だ」と訴えていたという。番記者として当時、直接、梶山本人から話を聞いたジャーナリストの鈴木哲夫氏はこう言う。
「梶山氏は特攻隊の生き残りでした。お兄さんは戦死し、お母さんは三日三晩泣き通しだった。その姿を見て、『もう二度と戦争はやっちゃいかん』と思ったそうです。そしてこう続けました。『政治は時代に応じて現実対応しなきゃならない。安全保障もそうだ。有事法制は必要だ。自衛隊の権限も強めなきゃいけない。でもな、絶対にセットでやらなきゃいけないのは、その法律を行使しないための外交だ。軍備を増強しても、それを使わないという外交をセットでやらなきゃダメなんだ。それが政治だ』。翻って、いまの自民党の議論や提言は、防衛力の強化ばかりです。『行使しなくてもいいための外交論や日本の役割』についての議論が抜け落ちているところに危うさを感じます」

先人の教えに耳を傾けろ
 米軍との一体化の総仕上げが、ハト派の宏池会のはずの岸田首相まで前のめりの改憲だ。既に平和憲法の理念は風前のともしびだが、さらに明文化して自衛隊を書き込み、専守防衛までをも消し去ろうとしている。自民党改憲案4項目のひとつの「緊急事態条項」だって、いざとなったら政府に全権委任の独裁国家準備法になってしまう。
 ここまで危うい事態なのに、大マスコミはただただウクライナ戦争の戦況を垂れ流し、「日本もウクライナになりかねない」と脅威だけ煽る無責任
 法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)は言う。
「好戦的な戦争前夜の雰囲気が漂う中で、メディアは間違った道をたどったあの時と同じ役割を果たすのでしょうか。ウクライナで戦争が行われている中で、国民が安全保障や平和に関心を持ち、不安になるのはある意味当然です。だからこそ、メディアは一歩踏みとどまって、冷静な判断を伝える役割があるはずです。このタイミングでトップが来日したEUやフィンランドは、NATO(北大西洋条約機構)を強化する方向に進もうとし、国際的にも浮足立っています。いま日本で行われているのは、多国間や2国間の連携を強めるという軍事同盟強化のための外交になってしまっている。本来進めるべきは、相互の緊張を解き、信頼感を高める外交努力のはずです」
 岸田以下、自民党議員は、「もう二度と戦争はやっちゃいかん」と訴えていた先人の教えに耳を傾けたらどうか。浮足出っていては、決して良い結果は生まれない。