2022年12月16日金曜日

【連載】デュアルユースの危険(1)~(2)「復興」に潜り込む軍事 ほか

 政府は憲法9条の制約の中で公然と軍事研究の推進を叫ばれないため、科学・技術を軍事に動員する仕組みを、軍事と民生双方に活用できる「デュアルユース」の形にして進めようとしていて、その体制は既に固められているようです。

 しんぶん赤旗が5回の連載で取り上げました。その(1)、(2)を紹介します。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【連載】デュアルユースの危険(1) 「復興」に潜り込む軍事
                      しんぶん赤旗 2022年12月13日
 岸田文雄政権による大軍拡路線は、科学・技術を軍事へ動員する仕組みづくりに拍車をかけています。軍事と民生双方に活用できる「デュアルユース」の危険性を追います。

 福島県の太平洋沿岸部に位置する「浜通り地域」は東日本大震災による津波と原発事故で大な被害を受けました。この地で国と県が「復興の切り札」とする国家プロジェクトが進んでいます。「福島イノベーション・コースト構想」です。新たな技術や産業を創出することで、浜通り地域の失われた産業基盤を回復するとうたいます。構想に基づき整備されたのが「福島ロボツトテストフィールド」です。事業費156億円を投じ、2020年3月、南相馬市と浪江町に全面開所しまし。南相馬市には東京ドーム10個分の敷地にドローン(無人機)の飛行実験場や、救命ロボット用の模擬災害現場など「陸・海・空」20余の施設を整備しています

転用
 ロボット産業の育成を目指す「福島イノベーション・コースト構想」に防衛省は関係閣僚会議のメンバーとして参画。17年7月28日に開かれた第1回会議で若宮健嗣防衛副大臣(当時)は、「民間企業が、ロポッにかかわる新たな製品または新技術の開発を行う際に、防衛装備庁の試験研究施設をご利用いただくことにより、構想の推進に協力したい」と発言しました。民間企業の技術開発に防衛省の施設を活用させることで、民生技術を軍事転用したいとの意図を暗に示しています。
 科学史・技術史を研究してきた東北大学の井原名誉教授は、「陸自のフィールドを民間に提供することで民間と技術交流の機会が増え、民事が軍事に寛容になる」と、その危険性を指摘します。「軍事技術は秘匿されるので、精緻になるが先細りになり、先進技術はうまれにくい。軍隊内の開発には限界があり、民をあてにしなければならないのです」
 さらに若宮氏は第1回会議で、将来的な「福島ロボットテストフィールド」の活用についても言及。「防衛省におきましてもロポト関連技術の研究開発を進めているところ」「将来的にも、福島ロボットテストフィールドを利用する能性についても検討してまいりたい」と強調しました。
 『ルポ母子避難』などの著書があるフリーライターの吉田千亜氏は、復興を隠れみのにした軍事利用に警鐘を鳴らします。
 吉田氏が情報開示請求で入手した資料によると、防衛省の外局である防衛装備庁は21年、「福島ロポットテストフィールド」で、作業車両の遠隔操縦実験と、高機動パワードスーツ(強化服)実験の二つの事業を行っていました。装備庁は、あくまで災害対応と説明しています。
 車両実験では、原発事故などの災害を想定した訓練を実施。この訓練は、化学・生物・放射線・核(頭文字をとってCBRN=シーバーン)による汚染環境下でも、遠隔操作で車両を動かそうというものです。複数車両の情報を統合し作業エリアの俯瞰表示や3次元(3D)地図を作成しました。
 情報開示資料には、ここで得られた情報や経験は、将来陸上自衛隊が運用する陸上無人車輌の遠隔操縦性の向上に貢献することが期待できる」と記されています。井原氏は「まぎれもなく兵器の実機試験と試行運用です」と指摘します。

戦闘
 高機動パワードスーツの性能試験もあくまで「災害派遣」の試験として実施されました。しかし、情報開示資料には、高機動パワードスーツの使い道として「島しょ防衛」が「災害派遣」と同等の扱いで列挙されています。
 パワードスーは軍民両用技術です。重い荷物を持ち上げる際にかかる身体への負担を軽減する目的で開発が進んできました。国内では介護や農業などを中心に製品化が進む一方、米国では軍用としての技術開発も行われています。
 一連の研究を終え、装備庁は「戦闘行動時に必要な高い移動速度で行動可能なパワードスーツは本研究で初めて実現した」と評価。「諸外国と比較して技術的優位性が高い」と結論付けました。
 実験にかかった経費は全体で約5千万円。「福島ロポットテストフィールド」の借り上げ費用として420万円を払っています。
 震災後の福島を取材してきた吉田氏は、「復興名目でやっているのだとしたら非常に問題だ」と指摘。「福島ロボットテストフィールド」の利用規約に「平利用に限る」との文言を加えるなど、復興に資する使い方に限定すべきだと提起します。(つづく)  
                                                               (5回連載です)


【連載】デュアルユースの危険(2) 国立研究法人が中核
                      しんぶん赤旗 2022年12月14日
 岸田文雄政権は「戦争国家」づくりの一環として、科学・技術の軍事動員の議論を本格化させています。政府の「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」が取りまとめた報告書(11月22日)は、最先端の科学・技術のデュアルユース(軍民両用)化を明言しました。

協力
 報告書は「政府と大学、民間が一体となって、防衛力の強化にもつながる研究開発を進めるための仕組みづくりに早急に取り組むべき」だと求めました。さらに、経済産業省所管の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や文部科学省所管の科学技術振興機構(JST)などの「国立研究開発法人』を活用すべきだとして具体的に体制づくりを示しました。
 報告書の提案は、有識者会議で橋本和仁(JST理事長)と上山隆大(総合科学技術・イノベーション会議常勤議員)の両委員が提示した内容が基になっています。
 橋本・上山両氏は11月9日の有識者会議第2回会合で、「防衛力強化」を最大の目的とする科学・技術分野と軍事組織との協力の枠組みを提案しました。
 政府はすでに、防衛省が将来的な軍事転用を見込んで技術開発の援助を行う「安全保障技術研究推進制度」を進めています。両氏はそれに加え、5千億円規模の「経済安全補償重要技術育成プログラム」(経産省所管)を活用し、▽政府が行う各種技術開発・実証支援 
▽国立研究開発法人が行う先端研究 ▽研究者の発想に基づく研究-が軍事的要望に応えられるよう体制の整備を求めました

ハプ
 具体的には、「国立研究開発法人」を「ハプ」(中核)にして防衛装備庁と大学の研究者、民間企業が参画する研究の場を設定。同法人の役割は「防衛省からの委託による研究」を「拡充」し、軍事的要望に即応した「防衛力強化等の重点政策二ーズの観点からの技術育成(目的研究)」を担うこととしました。
 同時に、各国立研究開発法人で進む研究プロジェクトで、将来を見越した「防衛力の足腰を支える幅広い技術のシーズ(種)育成」を行い、デュアルユースの推進を掲げました。
 一方、「目的研究」を行う民間企業に対しては税制優遇や資金調達援助など「スタートアップ」の策をとることを求めました。
 防衛省・防衛装備庁については、従来の基礎・応用の「研究の拡充」を行いながら「目的研究」を実施するとしています。
 軍学共同反対連絡会共同代表の池内了(さとる)名古屋大学名誉教授(宇宙物理学)は、「国立研究開発法人ならば法人プロジェクトとして巨額の資金を投じて進めることができ、政府もコントロールしやすい」と指摘。大学が人材の供給源となり、プロジェクトの組織化をハブであるNEDOやJSTなどの研究開発法人が担うというのです。「現に募集中の経済安全保障重要技術育成プログラムの公募では、この2法人が募集主体となっている」
 橋本・上山両氏の提案に対し、浜田靖一防衛相は「しっかりと関与したい」と応答し、推進の考えを示しました。永岡桂子文科相は国立研究開発法人を活用するとして「研究者が参画しやすい環境を整備することが重要だ」と発言。政府のデュアルユース推進体制づくりが急ピッチで進んでいます。(つづく)