しんぶん赤旗の連載記事(全5回)の(3)、(4)です。
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【連載】デュアルユースの危険(3) 学術界全体を動員
(軍民両用↑) しんぶん赤旗 2022年12月15日
岸田文雄政権の与党自民党は、軍事と一線を画してきた学術界・経済界の姿勢を攻撃し、政府に科学・技術の軍事動員を迫っています。
提言
自民党国防議員連盟(会長=衛藤征士郎・元防衛庁長官)が今年6月、政府に提出した「産官学自一体となった防衛生産力・技術力の抜本的強化についての提言」は冒頭、「技術が戦場を支配する」とあからさまに宣言。「兵器の高度化」のための科学・技術の軍事動員を強調しました。
「動員戦略」の障害を取り除くため、まず日本学術会議を攻撃します。「日本学術会議による累次にわたる『軍事目的のための科学研究を行わない』旨の声明が示すとおり、学術界からは徹底して『軍事』は忌避されてきた」。提言はこう強調し、平和を願う研究者の思いを踏みつけにします。
科学・技術の軍事動員のために政府が前面に出ることを提言は要求します。政府に「研究開発の司令塔となる組織」の新設を求めました。さらに内開府の「総合科学技術・イノベーション会議」(CSTI、議長=首相)に防衛相を常任メンバーとして参加させることを求めました。
CSTIへの防衛相の常時参加は、国の科学・技術政策を軍事的に変貌させ、学術界全体を軍事動員させる大きなテコとなります。
CSTIには首相をトップに関係閣僚、日本学術会議会長、経済界出身の有識者らが「議員」として参加。5年に1度「科学技術基本計画」(第1期1996年~)を策定し、各省庁への科学・技術関係予算の分配権限を持つ「司令塔」の役割を担ってきました。
第2次安倍晋三政権は2014年、産業界の意向を強く反映したイノベーション創出促進を図る会議体へと改変。さらに「第5期基本計画」(16年)で科学・技術の方向性を「安全保障」に資するものとする内容を盛り込み、第6期計画(21年)では科学・技術を「総合的な安全保障の基盤」と位置づけ、その「強化」のために国内外の研究勣同の把握や特定重要技術の流出防止などを掲げています。
一体
CSTIの主導で、内開府が大学等研究機関の膨大な科学・技術の研究データベースを保有しています。日本科学者会議科学・技術政策委員会の野村康秀氏は、防衛相の常任議員入りによって「防衛省職員が、内閣府の事務局に派遣され常駐することになり、国内の科学・技術のデータベースや動向を直接把握できるようになる」と危険性を指摘。自衛隊と米軍の一体化が深まる下で「米国の軍事技術の関心をタイムラグ(時間のずれ)なく反映できるようになる」とその狙いを強調します。
前出の自民党提言は、「司令塔」づくりで米国防総省の高等研究計画局(DARPA=ダーパ)をモデルにするよう求めました。経団連も今年4月の「防衛計画の大綱に向けた提言」で、ダーパを参考にした組織の立ち上げを提起しています。
ダーパは、国防総省内で軍事研究の資金配分を担う機関で、米軍の軍事技術.の優位性を維持することを目的にしています。主な任務は科学者と軍事研究との仲立ちであり、大学などの基礎研究部門を注視して軍事に転用可能な研究に研究費を拠出しています。約30億ドル(約4110値円)規模の年間予算で、ステルス技術や無人航空機など革新的な軍事技術の開発の手引きをしています。
軍学共同反対連絡会の浜田盛久氏(海洋研究開発機構研究員)は、「日木版ダーパの新設は軍産学複合体の形成につながる」と指摘。「米国のような軍事国家に進むのか、それとも戦争動員された歴史を反省して軍事と決別した日本の学術の在り方を発展させるのか、岐路に立っている」 (つづく)
【連載】デュアルユースの危険(4) 軍産複合体が影響力
(軍民両用↑) しんぶん赤旗 2022年12月16日
民生技術を兵器に転用すれば軍事技術になります。世界の軍事技術の最先端を担うのが米国の軍需企業です。米国は世界の軍需企業トップ5社を有する世界一の軍事大国です。
| 世界の軍需企業上位5社は米国企業 (2021年) |
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| 順位 | 社 名 | 武器売上高 | 総売上高に占める 武器売上高の割合 |
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| 1 | ロッキード・マーチン | 約603億ドル | 90% |
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| 2 | レイセオン・テクノロジーズ | 約418億ドル | 65% |
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| 3 | ボーイング | 約334億ドル | 54% |
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| 4 | ノースロップ・グラマン | 約298億ドル | 84% |
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| 5 | ジェネラル・ダイナミクス | 約263億ドル | 69% |
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軍需企業は、軍事的な組織と兵器産業が一体化した「軍産複合体」の中核に位置してきました。
「軍産複合体が意図してか否かにかかわらず、不当な影響力を得ることを警戒しなければならない」
1961年、米国のアイゼンハワー大統領は退任の辞で初めてその存在に触れ、自由と民主主義を脅かすと警鐘を鳴らしました。
献金
それから61年。軍需企業は自らに有利な契約をたぐり寄せるため強力なロビー活動を展開しています。献金が選挙や政策に及ぼす影響を監視する米国の団体「オープン・シークレット」は2021年、過去20年間で軍需企業が政治家へのロビー活動に25億ドルを費やしたと公表。世界最大の軍需企業ロッキード・マーチンは21年の1年間に1440万ドルを充てました。
企業とともに政策に影響を与えるのが頭脳集団であるシンクタンクです。07年に設立された「新アメリカ安全保障センター」(CNAS)もそのひとつ。共同設立者のカート・キャンベル氏は現在、米国家安全保障会議(NSC)のインド太平洋調整官を務めます。
軍産複合体にシンクタンクを加えた「軍産シンクタンク複合体」の危険性を研究する米経済政策研究所(CEPR)のプレット・ハインツ氏は10月、平和団体が主催するオンラインシンポジウムで報告しました。
CNASへの主な寄付者には軍需企業5社のほか国防総省など複数の政府機関が名を連ねています。
誘導
ハインツ氏はCNASのようなシンクタンクの特徴として、寄付企業に好都合な報告書を書き、企業の利益になるよう政府に働きかける役割があると分析。企業が利益を上げればシンクタンクヘの寄付金がさらに膨れ上がるという仕組みです。
シンクタンクと政府は、人材が両者を出入りする、いわゆる「回転ドア」を通じて深い結びつきを維持しています。
10月、バイデン大統領は外交・安全保障政策の指針となる国家安全保障戦略を公表しました。最新鋭技術で勢いを増す中国を念頭に、サイバー、宇宙、人工知能(AI)などへの投資を強化する姿勢を強調。「戦場の状況変化に対応できる革新的で創造的な能力をつけることが必要だ」としています。さらに、軍事技術の優位性を守るため同盟国との協力体制の強化をうたいました。
日本では4月、自民党が国家安全保障戦略の「見直し」を目指して「新たな国家安全保障戦略等の策定に向けた提言」を発表。「民生先端技術を防衛分野に取り込む」と強調しました。策定には自衛隊幹部も関与しており、提言全体に大きな影響を与えました。
さらに岸田文雄政権は、特定重要技術の調査研究を行うシンクタンクの創設を目指しています。昨年12月に開かれた「経済安全保障法制に関する有識者会議」の資料にはシンクタンクの例として米国の「ランド研究所」が挙げられています。ランド研究所は米軍の支援のもと1946年に設立されました。軍事政策に大きな影響力をもつ政府系軍事シンクタンクのひとつです。
軍事革新のためにシンクタンクを使って軍事に転用可能な科学・技術を探し出し、その技術を使って軍需企業が製品化する -。米国をモデルに、日本で軍産複合体がつくられようとしています。 (つづく)