社会保障は、豊かな人々から貧しい人々に所得を再配分する上で、重要な役割を果たすものです。
しかし日本では、アムネスティーが指摘するとおり、再配分後の「子供の貧困率」が配分前と全く変わっていないということからも分かるように、社会保障が実質的に格差縮小に機能していません。
ハフィントンポストに、ドイツにおける社会保障費と手取り収入についての情報が、ドイツ在住の日本人から寄せられました。
それによると、毎月の「手取り」所得が35万円~42万円の家庭では、所得税や社会保険料として毎月10万6120円を国家に払うのに対して、同じく「手取り」所得が140万円を超える富裕層では、実に毎月118万5800円もの税金や社会保険料を払っています(低所得層の11倍の負担)。
また給付を受ける分との差異は、手取り140万円以上の富裕層では、税金や社会保険料の負担が、国から年金などで受け取る分を109万8300円上回っているのに対し、手取り14万円未満の家庭では、国からの資金援助が所得税や年金負担を6万7000円上回っています。
残念ながら日本ではこうしたダイナミックな再配分が行われないままで、もう数十年が経過しています。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ドイツ・社会保障制度の効用
ハフィントンポスト 2015年11月11日
ユーロ危機にもかかわらず、ドイツ経済はすこぶる好調である。だがその一方で、ドイツは、お年寄りや失業者など社会の弱者に対し、社会保障制度によってしっかり手を差し伸べている。
連邦労働省が今年8月初めに発表した統計によると、昨年ドイツは、年金や医療費、失業給付金などの社会保障サービスのために、8500億ユーロ(119兆円・1ユーロ=140円換算)を支出した。これは、前年比で3.8%の増加である。ドイツの昨年の国内総生産(GDP)の伸び率は3.4%だった。つまり社会保障支出は、GDPを上回るスピードで増えているのだ。
ドイツの2014年のGDPは2兆9000億ユーロ(406兆円)だったので、この国はGDPの約29.2%を社会保障のために使っていることになる。この比率は、2009年にリーマンショックのために社会保障支出が増大したとき以来、最高の数字である。社会保障は、豊かな人々から貧しい人々に所得を再配分する上で、重要な役割を果たす。
さらにドイツの所得税制も、富の再配分に一役買っている。ドイツ経済研究所(IW)によると、毎月の手取り所得が2500ユーロ~3000ユーロ(35万円~42万円)の家庭では、所得税や社会保険料として毎月758ユーロ(10万6120円)を国家に対して払っている。
これに対し、毎月の手取り所得が1万ユーロ(140万円)を超える富裕層では、実に毎月8470ユーロ(118万5800円)もの税金や社会保険料を払っている。低所得層の11倍の負担である。
毎月の手取り所得が1万ユーロを超える富裕層では、税金や社会保険料の負担が、国から年金などで受け取る分を7845ユーロ(109万8300円)も上回っている。これに対し、毎月の手取りが1000ユーロ(14万円)未満の家庭では、国からの資金援助が所得税や年金負担を476ユーロ(6万7000円)上回っている。
ドイツ政府はこのように富裕層への課税を強化することによって、所得格差の軽減に力を入れているのだ。ドイツが、自由放任主義をとる米国と、最も大きく異なる点である。
日本では「シュレーダー改革で社会保障制度を削減したので、ドイツ経済はうまくいっている」と誤解している人がいる。実際には、シュレーダーは社会保障制度の行き過ぎた部分を是正し、市民の自己負担を増やしたが、同国の社会保障の水準は、日本や米国よりも高い。
したがって、私は日本で社会保障の水準を現在よりも下げることには、反対である。
保険毎日新聞掲載の原稿に加筆の上、転載。(ミュンヘン在住 熊谷 徹)