69年前日本国憲法が公布された11月3日(文化の日)に、NHK(「ニュースウオッチ9」)が日本青年会議所による中学校への「出前授業」を報じたと言うことです。
講師は青年会議所「憲法論議推進委員会」の副委員長で、徳育・憲法・領土・選挙についての授業を行うという触れ込みだということですが、結局は「日本人はどうあるべきなのか」となどと問いながら、新しい憲法を考えさせる中で、道徳観念をそこに塗りこめようとする仕掛けになっていたということです。
もともと日本青年会議所は本質的に保守・右翼ですが、なかでも「憲法論議推進委員会」の前身は「自主憲法制定委員会」ということなので、その幹部であれば極右の人といっても過言ではありません。たとえ私立中学校であっても、教育基本法の理念に準じる必要があるので、そんな改憲のための偏向教育が許されるはずがありません。
NHKはその授業を評価するが如くに全く無批判に報じたということで、公共放送として許されないことです。NHKの姿勢の非はもう枚挙にいとまがありませんが、ここでも平然として重大な誤りを犯しています。
LITERAの記事を紹介します。
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9条廃止を掲げるJC:日本青年会議所が中学校で憲法改正教育を展開! しかもNHKがそれを評価して紹介していた!
LITERA 2015年11月5日
いまから69年前、日本国憲法が公布された11月3日は、文化の日として国民の祝日となっている。そんな日にNHK『ニュースウオッチ9』で放送された“憲法改正教育”が波紋を呼んでいる。
この日の『ニュースウオッチ9』は、安保法制を機に国民の間で「あらためて憲法を学ぼうという動きが広まっている」として民間の憲法に関する取り組みを特集した。VTRでは書店で憲法関連本が売れていることを伝えたあと、憲法学者らの講演会の模様を放映。その後、大学で憲法を教える准教授が市民向けの勉強会に講師として招かれている様をピックアップすると、続けざまに日本青年会議所、通称JCが埼玉県さいたま市の中学校で行った、憲法の「出前授業」の模様を報じたのである。
念のため説明すると、JCとは地域の若手経営者などが集まる公益社団法人。地方の名家や企業の二代目、三代目が数多く参加している組織だが、自民党の国会議員や地方議員を多数輩出するなど政治色も強く、不祥事も続出。一部では“政治好きの金持ちドラ息子集団”とも揶揄されている。そんな組織が中学校で憲法の授業をするというだけでも驚きだが、愕然としたのは『ニュースウオッチ9』が映しだしたその「授業」の中身だった。
教壇に立つのは、JCの「憲法論議推進委員会」なる組織の副委員長だという樋口陽平氏。「いまの憲法の前文を読んだことはありますか?」と生徒たちに切り出し、“自分たちで憲法前文を考えてみる”という課題を出す。樋口氏は「手がかり」として、生徒たちにこんな問いを投げかけた。
「あなたは日本人について、これからどういう人であってほしいと思いますか?」
えっ!? なんでそうなるの? 本来、憲法というのは国民が為政者の権力を縛るものであって、国民にああしろこうしろと指図するものではない。というか、憲法に“日本人はどうあるべきか”などという道徳観念を強制するのは、戦前・戦中の国家主義的憲法観そのものだろう。
だが、樋口氏のこうした誘導は当然かもしれない。実は、JCは憲法改正運動を展開しており、そのバックには、日本最大の極右団体である日本会議の影があるのだ。
ウェブメディア「ハーバー・ビジネス・オンライン」が、11月1日付で、JCと日本会議の関係、そして、今回の学校教育への介入について報じている(外部リンク:ハーバー・ビジネス・オンライン「日本会議とJCによる教育現場介入策略にハマったNHK」/取材・文=赤菱耕平)。これによれば、さいたま市の中学校で「出前授業」を行った樋口氏は、日本会議の機関紙「日本の息吹」2015年11月号に登場。掲載されたインタビューから、JCの「憲法論議推進委員会」がもともと「自主憲法制定委員会」という名称で活動していたことを明らかにしている。そのうえで、この10月に「埼玉県のある中学3年生9クラス約300人の生徒を対象に、徳育・憲法・領土・選挙についての出前授業を開催」し、その模様がNHKで放送されることを、事前にスクープしていた。
事実、『ニュースウオッチ9』のVTRではJC「憲法論議推進委員会」の勉強会の模様も流れたが、そこでマイクを握っていたのは自民党の長尾敬議員。今年6月、百田尚樹氏の暴言が飛び出た自民党の「文化芸術懇談会」で、「(沖縄メディアは)左翼勢力に完全に乗っ取られている」などと発言して問題になった人物だが、彼は日本会議国会議員連盟の事務局次長である。そのことからも、やはりJCと日本会議はかなり深い間柄にあると考えるべきだろう。
そして、このJCの「自主憲法制定委員会」は「JC日本国憲法草案」(以下、JC草案)なるものをホームページで公開しているのだが、それがまた極右丸出しの“トンデモ改悪案”。しかも、日本会議が日頃から主張している内容とそっくりなのだ。
まず、JC草案では憲法前文が丸々とってかえられている。書き出しはこうだ。
〈日本国は、四方に海を擁し、豊かな自然に彩られた美しい国土のもと、万世一系の天皇を日本国民統合の象徴として仰ぎ、国民が一体として成り立ってきた悠久の歴史と伝統を有する類まれな誇りある国家である。〉
おいおい、日本国憲法では“主権在民”が宣言されている憲法前文第一段落に、いきなり“天皇崇拝”と“国家の誇り”を持ってくるとは……。これだけでもくらくらしてくるが、JC草案が書き換えた第一条の内容もパンチがきいている。
〈第一条 天皇は、日本国の元首であり、日本国民統合の象徴であって、この地位は将来にわたって不変のものである。〉
あの悪名高い自民党改正草案ですら、天皇の地位は「主権の存ずる日本国民の総意に基づく」という文言を残しているのに、それすら綺麗さっぱりなくしてしまっているのだ。初っ端からこの調子だから、もちろん、その後の項目も目ん玉が飛び出るようなシロモノの連続である。
現行憲法の9条が置かれる「第二章 戦争の放棄」はオールカット(!)。代わりにJC案が新設するのが「第三章 安全保障」で、そこには〈個別的及び集団的な自衛権を有し、行使することができる〉〈軍隊を保持する〉と明記。現行憲法の平和主義はコナゴナだ。
また見逃せないのが「国民の権利及び義務」。現行憲法で“国民の義務”とされているのは、教育、勤労、納税の3つだけだが、JC案ではやたらと国民の「責務」という文言を登場させて、事実上“国民の義務”の数をハンパなく増やしている。
たとえば「領土等を保全する権利及び義務」として、〈国民は、日本国の主権を保持するため、領土、領海及び領空を保全する権利及び責務を負い、国は、その義務を負う〉。また新設の「非常事態」の章では、総理大臣による非常事態宣言時には〈国民の権利を制限する措置〉がとられ、何人も〈内閣のとった措置等に基づく指示等に対して、最大限協力する義務を負う〉と記されている。
まだある。〈国民は、国及び共同体の利害並びに世代を超えた利害等を、利他の精神をもって一体となり、解決する共同の責務を負う〉とか、「社会貢献の責務」として〈国民は、その受けた教育の成果を生かして、社会貢献に努めなければならない〉とか、とにかく“お国が第一、個人は二の次”という思想が際立っているのだ。
さらに、保守色が濃く、日本会議の主張とも共通するものとして、〈国民は、わが国の歴史、伝統及び文化を尊重し、子孫に継承する責務を負う〉を新設。婚姻に関しても、現行憲法第二十四条にある〈夫婦が同等の権利を有することを基本として〉という文言を削除し、かわりに〈家族は、共同体を構成する基礎であり、何人も、その属する家族の維持及び関係の強化に努めなければならない〉という、父権主義的家族観を憲法の条文で押し付ける。“女は家庭で亭主の帰りを待てばいい”という女性蔑視の考えが見え見えだ。
他にも労働者や社会的弱者の立場が法文上弱くなっていることなど、つっこみたいことは山ほどあるが、ようするに、総じてJC案では、“憲法は国民をお国に縛り付けるもの”になっているのだ。
繰り返すが、憲法は国家権力の暴走を抑制し、国民ひとりひとりの権利を保障するためのものだ。それをないがしろにして、いたずらに「万世一系の天皇」「悠久の歴史と伝統を有する類まれな誇りある国家」を強調、尊重せよと号令をかけるのは、本気で天皇を頂点とする戦前・戦中体制の復活を目指しているようにしか見えない。
つまるところ、こうした極右思想をもち、日本会議と関係が深いJCが、「出前授業」といって中学校に出向いているわけである。“思想の植え付け”が懸念されるのは当然のことだ。
実際、『ニュースウオッチ9』のVTRでは、例のJCの憲法論議推進委員会副委員長・樋口氏のリードのもと、生徒たちがグループで話し合ったあとにこんな憲法前文を発表していた。
「伝統を大切にし、礼儀正しく、戦争を忘れない国となるため、憲法を制定します」
「多くの人が日本を愛し、命を大切にできる優しい人になるための憲法を制定する」
明らかにJCの憲法に対する考え方が入り込んでいることがわかるだろう。授業後、樋口氏はNHKのカメラに対し、「日本人とはどういう人かと、そういう簡単な質問を出してですね、答えさせることで、それが結果的に些細な質問の答えが憲法につながっていく」と語っているが、ようは「結果的に」自分たちの主張と同じことを生徒たちに言わせるよう「出前授業」を進行させていたのである。
学校側は「自分たちの主張を言わず、中立性を保つとの条件で許可した」というが、これでは、思想教育そのものではないか。18歳選挙権にあわせて文部科学省が学校内での政治活動禁止を通達することを決定したばかり。一方でそういう政治活動の自由を制限しながら、なぜこんな極右政治団体の教育介入は許されるのか。
しかも驚いたのは、この授業を取り上げた『ニュースウオッチ9』の報道の仕方だった。いくらNHKでも、これはキャスターが危機感を表明するかと思いきや、スタジオは完全にスルー。JCの授業をまるで当然の取り組みであるかのように扱ったVTRがそのまま流されるだけに終わったのだ。
NHKは、特集のなかで、「護憲派」の大学教員も登場させたことで“バランスをとった”ことにしたのかもしれないが、これはそういう問題ではない。憲法を教える大学准教授が語りかけていた相手は、大学生や彼を招いた市民。一方で、JCが「出前授業」を行ったのは、義務教育過程の中学校なのだ。これが“どっちもどっち”になるわけがない。
くだんのJC「憲法論議推進委員会」は、会のFacebook上で10月5日に〈中学3年生9クラス約300人を対象に〉出前授業を行ったことを投稿しているのだが、その翌日も中学校で出前授業を開催するとし、こう続けていた。
〈この取り組みが評価されたのか、本日は急遽NHKの取材が入ることになり、注目度も上がっています〉(現在は削除済み)。
もし、この投稿にあるようにNHKがJCの改憲への取り組みを「評価」したのであれば、これは由々しき問題だろう。現行憲法や民主主義を否定する一方的な教育を肯定することは、明らかに「政治的な公平」を規定した放送法違反である。いや、もしかしたら、この放送の背後には、JC「憲法論議推進委員会」でマイクを握っていたシーンが放映された自民党の長尾議員あたりからの圧力でもあったのではないか、そんな疑念さえ頭をもたげてくるのだ。
いずれにしても、NHKはこの放送の意図を視聴者に説明する必要がある。 (宮島みつや)