2021年4月28日水曜日

28- マイナンバー事業の業者選定8割が無競争 随契を乱発する機構

 13年に成立したマイナンバー法は、いずれ税や社会保障などの個人情報をひも付けする仕組みを目指したもので、16年にマイナンバーカードの交付が始まりました。過去9年で国費支出は累計約8800億円に上るということで、事業の中核を担うのは「地方公共団体情報システム機構(J-LIS)」です。

 東京新聞が調査したところによると、上記の機構が発注した事業は、14年~20年度上半期で207件、1300億円を超えますが、その契約の、件数で74%、契約金額で82%分は競争入札以外の随意契約等で決められたということです。
 競争の要因がなくなれば高値の契約になります。
 同機構の担当部長は、「競争入札が原則で随意契約は例外。随意契約の割合が高いままでいいとは思っていない。競争性が発揮されるような発注に取り組んでいく」と述べていますが、果たして実現するのかは大いに疑問です。
 民間企業に依存せざるを得ないのは行政側にデジタル」に習熟した人材が乏しいためで、政策の遂行には民間の力に頼らざるを得ない上に、大規模な事業ほ大企業に限られ、特定の企業におんぶに抱っこになりやすいということがあります
 過度な民間依存事業の質に影響した例として、いまだに円滑に運用できていない新型コロナウイルス対策のアプリ「COCOA」での、一向に改善されない不具合があります。
 東京新聞が取り上げました。2つの記事を紹介します。
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【独自】マイナンバー事業の業者選定8割が競争なし 随意契約を乱発する機構
                          東京新聞 2021年4月27日
 総務省所管でマイナンバー事業の中核を担う「地方公共団体情報システム機構(J―LIS)」が民間企業などに発注したマイナンバー関連事業の74%が、競争を経ずに受注先を選ぶ随意契約(随契)だったことが本紙の集計で分かった。国発注のデジタル事業全体と比べても随契の多さは際立っている。競争入札に一事業者しか参加しない一者入札を含めると、全体の81%の業者選定で競争が働いていなかった。(デジタル政策取材班)

◆契約金額も高騰
 国の事業は会計法で競争入札が原則で、機構にも同様の規定がある。機構には巨額の税金が投じられており、閉鎖的な業者選定の妥当性が問われそうだ。
 機構が本紙に開示した資料によると、機構のマイナンバー関連事業は2014~20年度上半期までで、207件、当初の契約額で総額1300億円を超える。このうち随契は74%の154件で、契約額は計約616億円に上った。随契の受注先はNTTコミュニケーションズやNECなどの大手企業が中心だ。
 一者入札は15件で契約額は計約404億円。随契分と合わせると、契約金額ベースでも73%に上った。
 競争が働いていないと契約金額も高くなりがちで、予定価格に対する落札額の割合を示す落札率は、随契が平均92%、一者入札が75%になった。二者以上の競争入札は60%だった。
 一方、2019年度の国発注のデジタル事業では随契は38%にすぎず、一者入札を合わせた割合は76%だった。

◆マイナンバーに8800億円投入
 マイナンバー制度は、国内の住民にそれぞれ固有の番号を割り振り、税や社会保障などの個人情報をひも付けする仕組み。13年にマイナンバー法が成立、16年にマイナンバーカードの交付が始まった。過去9年で国費支出は累計約8800億円に上る。
 菅政権は今国会でデジタル庁創設を柱とするデジタル改革関連法案の成立を目指す。マイナンバーカードの普及拡大のため法案では国が機構の関与を強めることも定めている。
地方公共団体情報システム機構(J―LIS) 住民基本台帳ネットワークを運用していた総務省の外郭団体などを改編し、地方自治体が共同で運営する法人として2014年4月に設立された。マイナンバーカードの発行や関連システムの運用などマイナンバー事業に関わる実務を国や自治体に代わって担う。事業費の多くは国や自治体からの公金で賄われている。カード発行の場合、市区町村が機構に必要枚数の製造を委任し、その費用は総務省から交付金という形で市区町村を経由して機構に支払われる。

◆民間に頼らざるを得ない構造
 随意契約や一者入札の多さは、J―LIS発注のマイナンバー事業が民間企業に依存している実態を映している。これは菅政権の看板のデジタル政策全般にも共通する構造的な課題だ。
 行政側にデジタル人材が乏しいため、政策の遂行には民間の力に頼らざるを得ない。加えて、巨大事業ほど受注能力で大企業に限られ、特定の企業におんぶに抱っこになりやすい。受注競争が起きなければ契約金額が高止まりして税金の無駄につながりかねない上、一部の企業への接近は官民のなれ合いを生みやすい。
 過度な民間依存は事業の質に影響する恐れもある。新型コロナウイルス対策のアプリ「COCOA」で相次いだ不具合では、事業者任せで国がプロジェクトを管理できていなかったことが原因の一つと指摘された。平井卓也デジタル改革担当相も「発注者(国)の能力が低いことがいちばんの問題だ」と認める。
 1990年代以降、業者選定における競争性の乏しさは会計検査院などから何度も指摘されてきたが、政府は改善できていない。コロナ禍、菅政権がマイナンバーを含め行政のデジタル化を急ぐ中で、民間依存からの脱却は急務といえる。

◆随意契約は例外
J―LISの西川仁管理部担当部長の話 
 機構でも競争入札が原則で随意契約は例外。随意契約の割合が高いままでいいとは思っていない。なるべく案件を切り分けて発注することで企業の参入を促すなど、競争性が発揮されるような発注に取り組んでいく。

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「競争意識は強く」との回答とはかけ離れた実態…マイナンバー事業の閉鎖性
                         東京新聞 2021年4月27日
 巨額の税金が投入されているマイナンバーの中核事業で、入札にかけず特定企業に発注する随意契約が続発している。事業を発注する地方公共団体情報システム機構(JーLIS)に対し、契約状況を監視する有識者も閉鎖的な業者選定に苦言。それでも改善の兆しはうかがえない。(デジタル政策取材班)

◆「囲い込み」がデジタル事業で横行
 「競争入札という意識は強く持っている」「既存業者でずっとやるのは避けたい」。機構の担当者は本紙の取材に、何度も競争の必要性を口にしていた。
 ところが実態は大きく異なる。機構から開示された契約一覧をたどっていくと、「随契は例外」とは名ばかりな状況が浮かぶ。例えば、マイナンバーカードに機能を追加するシステムの事例。機構は2015年度、システムの設計を随契でNTTコミュニケーションズなど4社に発注。翌年度以降も、システム運用や保守など5件に及ぶ一連の業務を巡り随契で同社に受注させていた。
 開発や設計など新規業務を受注した業者がその後の関連する契約も独占する状況は「ベンダー・ロックイン(特定業者による囲い込み)」と呼ばれ、デジタル分野では長年の課題になっている。受注競争を阻害し、特定企業に依存しがちになるためだ。会計検査院は他の業者による途中参入が進むよう、業者間での引き継ぎなど各省庁に発注の工夫を求めてきた。
 機構の発注で見逃せないのは、機構自らがベンダー・ロックインを作り出している点だ。随契全体のうち「他の業者なら業務に著しい支障が生ずる恐れがある」を理由としたケースは7割以上。カードの機能追加で、NTTコミュニケーションズを入札なしに指名したのは同様の理由だった。
 随契を乱発する機構には内部から注文も出ている。18年、契約をチェックする内部の専門家会議が「随意契約の場合、恣意的な判断がされて契約の公正さが損なわれることがあってはならない」などと指摘した。専門家の意見を受け、機構は「随契を減らすため、新規の開発業務では競争入札を行うようにしている」とするが、その後も状況は変わっていない。開発業務でも随契の事例は散見される。

◆特定業者だけだと「トラブル時に重大な影響」
 随契が減らない理由について、機構の西川仁管理部担当部長は「開発業者以外だとトラブルが起こったときに重大な影響を及ぼしかねない」と説明。別の機構関係者は「われわれのシステムは事故を起こしてはいけないものだ」と話す。
 入札制度に詳しい上智大学の楠茂樹教授は「公共契約において業者の選択の余地が小さい状態は効率的な支出の観点から望ましくなく、改善の努力は常に必要である」と指摘している。
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