2021年4月22日木曜日

入管難民法改正案 人権基準に達していない

 入管難民法の改正案が衆院本会議で審議入りしました。

 日本の難民認定率は19年度が0・4%、20年度が1・1%と諸外国に比べて桁外れに低く、認定されなかった人が帰国しないでいると不法滞在者とされて、無期限に入管に収容されます。「不法滞在」とされた人たちが帰国しない理由は、帰国すると身に危険が及ぶ恐れがあったり日本に家族がいたりするほか、在留資格を失った人の中には、過酷な労働に耐えかねた技能実習生や、学費が払えず退学を余儀なくされた留学生もいて、日本に来るにあたって高額な借金をしたため日本で就労しないことには返却の目途が立たないなど、うなずけるものばかりです。
 日本で長期にわたって収容されている外国人2人が国連の人権委に訴えていた件で、去年9月、国連の人権委の作業部会(WG)から日本政府に不法滞在者などを長期に拘束する日本の入国管理収容制度「国際人権法に違反している」との意見書られました。収容施設の環境は劣悪で、必要な医療も受けられず死亡例は2010年以降で14人に上ります。
 WGの意見書は日本の出入国管理法が収容期間を定めておらず、収容の必要性や合理性も検討されていないと指摘し、日本政府に入管法の速やかな見直しを要請しました。
 それを受けての入管難民法改正案なのですが、相変わらず不法滞在者全員収容の原則維持し収容期間の上限く、司法の判断を経ずに収容する仕組みも見直されていませんむしろ、これまでは難民申請中は本国強制送還はしませんでしたが、今度は申請は2回までと限定するなど、改悪といえるものです。
 琉球新報と毎日新聞の社説を紹介します。
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       (4月18日)外国人の人権侵害深刻化 入管法改定案審議入り
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社説 入管難民法改正案 人権基準に達していない
                         琉球新報 2021年4月21日
 入管難民法の改正案が衆院本会議で審議入りした。政府は、不法残留などの理由で退去処分となった外国人が入管施設で長期収容される状態を解消すると説明する。さらに難民申請を繰り返す乱用を防ぎ、送還を拒む者を減らす狙いがある。
 しかし、改正案は長期収容の根本解決にならず、迫害を受ける可能性のある国へ難民を強制送還することにつながりかねない。複数の国連機関や国際人権団体から人権上問題があり条約違反を指摘されている。国際人権基準に達していない法案を通すわけにはいかない。改正案の再提出を求める。
 名古屋入管で3月6日、退去強制命令を受け収容中の30代のスリランカ人女性が死亡した。女性の収容は半年を超え長期化していた。改めて長期収容の問題が浮き彫りになっている。法相が調査を指示したが、死因は依然として判明していない。独立した第三者機関を設置して徹底的に調査すべきだ。
 改正案の特徴の一つは、長期収容を解消することにある。自由を奪い施設に拘束する長期収容は、人権侵害に当たる。このため改正案は全収容者が一時的に社会で生活できる「監理措置」を新設した。
 しかし、全員収容の原則は維持しているので根本的な解決にならない。司法の判断を経ずに収容が決まる手続きのやり方も見直さず、収容期間の上限もない
 国連のゴンサレス特別報告者(移民の人権担当)らは3月31日、日本政府に改善を求める共同声明を出している。新設される「監理措置」は例外的な対応と位置付けられ、高額の保証金が必要など「あまりにも制限が多く、社会・経済的立場が原因の差別につながる」と指摘した。
 二つ目の特徴は、難民申請を繰り返す乱用を防ぐため、難民申請による送還停止を原則2回に制限する。
 2020年の難民認定率は1・3%。日本は他国に比べて難民認定が厳しい。難民なのに認定されなかった人は再申請するしかない。何度も申請してようやく難民と認定された人は少なくない。申請回数が最多の人は7回に及ぶ。
 難民申請を2回に限定すると、本来の難民が送還されてしまう可能性がある。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は「難民条約で送還が禁止されている国への送還の可能性を高め、望ましくない」と指摘している。認定の在り方を見直す必要がある。
 外国人労働者は県内でも増え続けている。沖縄労働局によると、20年10月末時点で前年比4・5%増の1万787人で過去最多だった。特に技能実習生は増加傾向にある。
 日本は国際人権規約を批准している。外国人を含む全ての人の身体の自由を保障している。入管難民法改正案は人権上問題がある。政府は国際機関の批判を真摯(しんし)に受け止めるべきだ。


社説 入管法改正案の審議 与野党で抜本的な修正を
                             毎日新聞 2021/4/21
 国内外で人権上の問題が多いと批判されている法案の審議を、このまま進めていいのか。政府・与党は再考すべきだ。
 入管法改正案の審議が衆院で始まった。在留資格がない外国人の帰国を徹底させる内容である。
 政府は、国外退去処分を受け、帰国を拒んだ外国人が、入管施設に長期間収容される状況を解消するためだと説明している。
 ただ、帰国すると身に危険が及ぶ恐れがあったり、日本に家族がいたりするため、とどまろうとするケースが多い
 在留資格を失った人の中には、過酷な労働に耐えかねた技能実習生や、学費が払えず退学を余儀なくされた留学生もいる
 改正案では、難民認定の手続き中は送還されない規定に、条件がつけられた。申請は事実上2回に限られ、3回目以降は強制退去の対象となる。
 政府は、帰国を免れる目的で申請が繰り返されていると強調する。だが、世界的に見て厳しい難民認定にこそ問題がある
 国際的に批判されてきた収容の手続きは、見直されなかった。収容は出入国在留管理庁が決め、期間の制限もない
 新設される「監理措置」も問題だ。支援者や弁護士らが監理人となって、逃亡の恐れがない人が社会生活を送れる仕組みだが、公的な生活保障はなく、退去処分を受けると就労できない
 生活や法的手続きをサポートする人が、監視役を担うのは無理がある。日本弁護士連合会は収容の防止にならないと反対している。
 改正案に対し、国連の難民高等弁務官事務所は懸念を表明した。人権理事会の専門家も「国際的な人権基準を満たしていない」と指摘している。
 野党は、難民認定の権限を法相から独立組織に移す対案を国会に提出している。収容についても、裁判所の許可を義務づけ、期間を6カ月以内とする。
 入管施設を巡るトラブルは後を絶たない。先月には、名古屋市の施設で体調が悪化した33歳のスリランカ人女性が死亡した。
 入管行政のあり方が改めて問われている。与野党で改正案を抜本的に修正し、人権に配慮した制度にすべきだ。