2021年4月29日木曜日

入管法改定案 人権侵害の拡大は許されない

 日本の人権状況については国連人権委員会や人権理事会などから絶えず是正勧告が出されています。しかし国連で「中世の司法」と揶揄された検察制度の在り方がいい例ですが、10年来そうした勧告が繰り返されてきたにもかかわらず、一向に改善されていません。

 現在衆院に上程されている入管法改定案は、国連人権理事会の作業部会(WG)が、去年、不法滞在者などを長期に拘束する日本の入国管理収容制度が「国際人権法に違反している」ので速やか入管法見直すべきである、との意見書日本政府に送付したことを受けたものです。しかし入管法改定案の実態は決して改正などではなく改悪そのものです。
 しんぶん赤旗が「入管法改定案 人権侵害の拡大は許されない」とする主張を掲げました。
 短い文書ですが入管法改正案の問題点が分かりやすくまとめられています。
 またネット番組「共産党ユーチューバー小池晃」で「少年法改定案・入管法改定案考える」をテーマにして行われた「小池書記局長と山添議員対談 上・中・下」の記事がしんぶん赤旗に載りましたので、そのうち入管法改定案に関する部分を併せて紹介します。
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主張 入管法改定案 人権侵害の拡大は許されない
                        しんぶん赤旗 2021年4月28日
 菅義偉政権が「出入国管理及び難民認定法」改定案を今国会で成立させようとしています。同案は、非人道的と批判される入管行政を改めるのでなく、送還拒否への刑事罰の新設難民申請者を強制送還する仕組みの創設など、在留資格がない外国人に早期帰国を迫るものです。国際社会の要請にこたえず、逆に人権侵害を拡大する改定案は撤回しかありません。

国内外の批判にこたえず
 日本政府は、技能実習、留学生アルバイト、特定技能などの資格を設け、外国人労働者を「安価な労働力」として受け入れる政策を拡大してきました。それは人材ビジネスと搾取の構造が結びつき、人権侵害の温床となってきました。奴隷的労働や暴力、暴言に耐えかねてやむを得ず逃げ出した外国人は、「失踪者」として扱われ、在留資格を取り消されます。
 日本の入管行政は、在留資格のない外国人は全て収容し送還するという「全件収容主義」をとっています。裁判所の審査を経ず、無期限で長期収容する非人道的な扱いです。国際法に反するとして、国連人権理事会などから繰り返し指摘されてきました。
 ところが、改定案が収容に代わる仕組みとして新設する監理措置制度は、長期収容を解消するものではありません。必要性は入管庁が判断し、裁判所の審査はありません。長期収容は温存されます。
 監理措置は、親族や支援者のもとで暮らすものですが、就労は認められません。入管庁が選定する「監理人」に、「許可条件」の順守状況を報告させます。本来外国人の生活を支援する人々や弁護士に監視役をさせ、告発を義務付けることは、外国人保護と根本的に矛盾します
 送還拒否、仮放免中の逃亡、監理措置違反などに刑事罰を科すことは、罰による威嚇で送還を促進する、不条理極まりないものです。
 日本の難民行政は、審査に長期間を要する上、「難民」定義を「民主化運動のリーダー格」などと狭く捉えすぎることが問題になっています。2019年の認定率は0・4%です。難民に準じて外国人を保護する「補完的保護対象者」を新設するとしますが、そのガイドライン策定は入管の裁量任せです。根本解決につながりません。
 さらに改定案は、難民認定手続き中は一律に送還が停止される現在の制度に例外を設け、「難民認定を2度却下された者」などは、難民申請中であっても送還を可能とします。迫害を受けるおそれのある国への追放・送還を禁じる国際法上の原則にも反し、国際水準とかけ離れたものです。

死亡事件の真相究明を
 改定案の問題が明らかになる中、名古屋入国管理局でのスリランカ人女性死亡事件(3月)が起こりました。借金して留学生として来日し、学費が払えず退学し在留資格を失いました。恋人のDVから逃れるため警察に保護を求めたところ、入管法違反で逮捕、入管施設に収容されました。食事が満足にとれず、点滴も受けられず死亡しました。病状悪化を放置し、死に至らしめた疑いが濃厚です。
 人権保障の立場にたたず、外国人個人の問題に責任転嫁し強権的に排斥する日本の入管難民行政のゆがみをあらわにした事件です。この事件の真相解明なくして、改定案の審議など許されません


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小池書記局長と山添議員対談(中)
少年法改定案・入管法改定案考える 人間が見捨てられている
                        しんぶん赤旗 2021年4月27日
 もう一つの重要法案が入管法改定案です。同法案について、ネット番組「ユーチューバー小池晃」で日本共産党の小池晃書記局長と山添拓参院議員が詳しく解説し、反響を呼んでいます。

非人道的扱い
 外国人が日本に滞在するには「在留資格」が必要ですが、迫害から逃れてきたり、日本にすでに家族がいるなど在留資格を持たずに日本にとどまっている外国人がいます。山添氏は、日本の出入国管理庁が在留資格のないすべての外国人を入管収容施設に収容する「全件収容主義」をとっている問題を指摘しました。
 山添 入管収容施設は本来、在留資格がない外国人を本国に送還するまでの待機施設。一時的な滞在施設の位置づけでしたが、今では長期間、半年や1年、長い人では10年を超えて収容される状況があります。
 小池 退去強制が出た人の9割は帰国しているんですね。だから、いま収容されている方は、本国に帰れば命の危険にさらされてしまう。あるいは、日本に家族がいるなど、本当に帰るに帰れない人たちが残っているということなんですね。
 とりわけ、入管施設での被収容者への非人道的な取り扱いが問題となっています。東京入管では今年2月、新型コロナウイルスのクラスターが発生。3月には、名古屋の入管施設で、スリランカ人女性が体調不良を訴えても満足な治療を受けられず死亡する事件も発生しています。
 山添 名古屋入管で亡くなられた女性は英語教師の夢をもって来日したんですが、親からの仕送りがなくなって学費が払えなくなってオーバーステイとなったんですね。しかも交際男性からDV被害を受けており、その被害を警察に訴えたら、在留資格がないことが発覚し、収容された。本来保護すべき対象でした。
 小池 この女性は、点滴をしてほしいと何度も言っていたのに、しなかった。本当に、日本の入管行政の人権蹂躙(じゅうりん)ですよね。外国人だというだけで、人間が見捨てられているんですよ。

刑事罰で威嚇
 では、今国会で審議されている入管法改定案では、現行の入管行政の問題点を改善するものになっているでしょうか―。番組では、改定案に盛り込まれた四つの問題点が焦点となりました。
 一つは、退去強制手続きの罰則を強化し、刑事罰で威嚇して送還を強制しようとする点です。
 山添 本国に帰れない事情がある人に、さらに施設で収容されるか、それを拒めば刑事罰だという制度にしようとしている。
 小池 そうすると、収容を拒めば刑事罰で刑務所に入れられる。刑務所を出ると収容される、また拒むと刑務所と、無限に入管施設と刑務所を繰り返し入れられ続ける。ひどい話ですね。

申請の権利制限
 二つ目は、難民認定申請の権利を大幅に制限しようとしていることです。日本の難民認定率は0・4%と異常に低いにもかかわらず、その問題には何ら手をつけていません。
 山添 日本の難民認定の在り方が根本的に問われているのに、そこは改めずに、難民申請を2回やってダメだったら、3回目はもう難民として審査しないという仕組みを入れようとしている
 小池 なぜ3回なんですか。まったく根拠ないですよね。
 山添 1回できちんと審査しているなら、まだいいですよ。でも、その人の本国の事情やどういう迫害を受ける可能性があるか十分な調査をしていない。
 小池 現地で、反政府運動のリーダーをやっていた人でないと、日本の難民認定は受けられないと聞いたけれど実態はどうなのですか。
 山添 実態としてはリーダー格でなければ、認められません。だいたい、難民申請をしている人の送還を止めることはノン・ルフールマン原則という国際ルールです。迫害を受ける恐れのある地域へ難民を送り返すのは禁じられています。(改定案は)それをかなぐり捨てるかのようなひどい話です。  (つづく)

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小池書記局長と山添議員対談(下)
少年法改定案・入管法改定案考える 難民行政解決へ提案 厳しい要件に
                        しんぶん赤旗 2021年4月28日
 三つ目は、現在も厳しく運用されている在留特別許可にさらに、厳しい要件が課されている点です。
 山添 かつては、オーバーステイになったからといって、拘束するのではなく黙認してきた。ところが、テロ対策の名目で「不法滞在」は犯罪と位置付けてしまった。しかし、米国などでは「不法滞在」という言葉は使わなくなった。代わりに「アン・ドキュメント(書類がない)」と位置づけを変えています。
 小池 子ども権利条約とのかかわりでも問題ですよね。
 山添 収容する際に、親子を引き離す。あるいは子どもだけ日本に残して親だけ送還する。家族を引き離すということを平気でやるというのはおかしいですよ。
 小池 そのこと自体、在留資格のない外国人を人間としてみていないということになりますよね。

弁護士を監視役
 最後に、改定案に盛り込まれた監理措置制度の問題です。
 山添 今は、収容されている人が一時的に収容を解かれる仮放免という仕組みがあります。それを監理措置にして、新たに監理人を置いて、身元保証の役割を担わせる
 小池 監理人は、弁護士や支援団体の人が想定されていると思いますが、政府に報告義務を課される。ある意味、監視役を支援団体の人や弁護士にやらせるというのはどうなのか。

政府案廃案に
 では、入管・難民行政の問題をどう解決するのか―。日本共産党が立憲民主党などと共同で参院に提出した野党案の中身が議論になりました。
 山添 2月18日、政府案が閣議決定される前に(野党案を)参院に出しました。例えば、難民について今入管がやっているものを、独立の機関を設けて行う。そもそも、在留資格を取り締まる入管と難民認定をする入管が同じことが変なんですよ。
 小池 警察と裁判所が一体になっているようなものですよね。
 山添 在留特別許可は、子どもの権利条約を積極的に考慮するというものも盛り込んでいます。家族がともに生活する自由というものを在留資格の考慮要素として明記しています。
 小池 収容するかどうかは裁判官がするというのもありますね。
 山添 ふつうは、逮捕・勾留は裁判所が判断するわけですね。身体拘束は最も強い私権制限ですから。いろいろな事情も考慮せず、とにかく拘束・収容するのは人権侵害だと国際社会からも指摘されていますので、当然、いれようと。
 小池 そして収容期間にも上限を設けようと
 山添 今は無期限ですが、それを最大6カ月としています。そもそも収容しないというのが前提ですよね。
 小池 世界のスタンダードの仕組みを日本につくろうというのが野党の提案ですね。今の入管行政の問題、野党の提案、国会で徹底的に議論する機会にしたいですね。
 山添 政府の改定案は断固廃案に追い込むためにがんばります。 (おわり)