2021年4月20日火曜日

72年の日中共同声明の否定 –「二つの中国」に舵を切った日本(世に倦む日々)

  世に倦む日々氏が台湾問題についての3つ目の記事を出しました。

 これまで下記の2つの記事が出ています。
   (4月11日)台湾有事のシナリオ–対中戦争から最後まで離脱できない日本
   (4月14日)台湾有事・米中戦争・第三次世界大戦は三位一体

 今度の記事は、16日に発表された日米共同声明を受けたもので、その論旨は極めて明快です。
 声明に「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調」の文言が盛り込まれ、日米共同文書に「台湾」が明記されたのは、1969年の佐藤・ニクソン会談以来52年ぶりのことで、中国との国交がまだ正常化される以前に日本が台湾と国交を結んでいた時代まで遡ると述べています。蔡英文・台湾総統が早速「心から歓迎し感謝する」と声明を発表したのに対して、中国は「強烈な不満と断固とした反対を表明する」と反発しました。
 これは日本が「二つの中国」へと舵を切ったもので、事実上、1972年の日中共同声明と1978年の日中平和友好条約を破棄したも同然だ、と世に倦む日々氏は述べています
 日本は1972年に「一つの中国」の原則を認め、台湾と断交して中華人民共和国と国交を結びました。
 72年の日中共同声明の骨子は9項目からなっていて最初の3項目は下記の通りです。
 一 日本国と中華人民共和国との間のこれまでの不正常な状態は、この共同声明が発出さ
   れる日に終了する。
 二 日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する。
 三 中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重
   ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重
   し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する
 中華人民共和国に取って、台湾は領土の一部であり中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることは最大の国是であり、日本はそれを認めたのでした。その中国が日米首脳共同声明に「強烈な不満と断固とした反対を表明」したのは当然のことです。

 そもそも二つの中国を前提とする米国の論脈の中で共同声明を謳えば、こうした矛盾が出てくるのは当たり前の話です。共同声明はあの場で作成するようなものではなく、事前に外務省を通じて綿密に練り上げられるものなので、日本政府は何もかも承知の上で「二つの中国」論の立場に戻ったのでした。
 世に倦む日々氏は、「もし、台湾問題が中国の内政問題ではないと言うのなら、正式に72日中共同声明と78年の日中平和友好条約の破棄を通告すべきだろう」と述べています正論です。
 米国が6年以内に台湾有事が勃発すると「予言」するのは、軍事的にも成長を続ける中国を叩ける期限が6年程度だからで、全ては米国の都合に拠っています。
 今回の記事では、米国は米本土まで含まれるICBMを撃ち合うような事態には発展させずに、膠着状態を生み出して中国との長期戦争は日本に肩代わりさせると述べています。
 そうすれば世界第2位の経済大国中国と第3位の日本が共に消耗することになり、米国の目的は達成されることになるという訳です。そしてそうなる道筋に日本で誰も異を唱えないのは不思議なことだとしています。
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1972年の日中共同声明の否定と破約 –「二つの中国」に舵を切った日本
                          世に倦む日日 12021-04-19
現地時間の16日に発表された日米共同声明には「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調」の文言が盛り込まれ、52年ぶりに共同文書に「台湾」が明記された。テレビ報道で繰り返し意義が強調されているように、これは1969年の佐藤・ニクソン会談以来のことで、中国との国交がまだ正常化されず、日本が台湾と国交を結んでいた時代まで遡る。早速、蔡英文が「心から歓迎し感謝する」と声明を発表、中国は「強烈な不満と断固とした反対を表明する」として反発した。世界史が大きく動き始めた。時計の針が半世紀巻き戻されて、冷戦のただ中にタイムスリップした感がする。日本が「二つの中国」へと舵を切った。事実上、1972年の日中共同声明と1978年の日中平和友好条約を破棄したも同然だ。日本は1972年に「一つの中国」の原則を認め、台湾と断交して中華人民共和国と国交を結び、ずっと関係を積み重ねてきたのだが、その約束を反故にし、中国との関係のリセットに踏み出した。田中角栄が周恩来と会談して発表した日中共同声明にはこう書いてある。

二 日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する。

三 中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。

日本は、台湾が中国の領土の一部であるとする中国の立場に対して、十分理解し尊重すると言っている。つまり、この要求を認めたということだ。だから台湾の中華民国と国交断絶したのである。この中共政府側の主張を認めなければ、中華人民共和国との国交樹立はあり得ず、現在までに至る日中関係はあり得なかった。「一つの中国」の原則を日本が認め、台湾との断交を決断したから、現在までの日中関係が成立し出発したのであり、それが日中関係の基礎であり前提なのだ。日中の戦争状態を最終的に終わらせて、両国が和解し友好関係を取り結ぶときの神聖な原則が、「一つの中国」を認めることであり、台湾政府と縁を切ることだった。今回の報道に当たって、日本のマスコミは半世紀前の日中共同声明を全く紹介せず、その中身を説明しない。72年の日中共同声明の歴史を無視し、台湾有事に日米で共同防衛に臨むことを正当化している。中国と台湾の紛争に自衛隊を出し、日米同盟軍で中国軍と戦争することを当然視した報道ばかり流している。左翼リベラルまでそれを翼賛している。

ブログで何度も書いてきたとおり、1972年の日中共同声明の内容は、日本と中国の基本法であり、国家と国家の関係、国民と国民の関係を規定する基本契約となるものだ。そして、戦後日本の平和外交の宝と言えるものだ。憲法9条に基づく戦後外交が形になったものだ。人は、マスコミは、右翼は、二言目には、日米同盟はアジアの平和と安定と繁栄の要石だと言うけれど、私は全く違うと思う。それは、『1984年』の「真理省」と同じ逆の意味の欺瞞と虚偽の政治言説だと思う。実際に東アジアの平和と安定と繁栄に貢献してきたのは、その礎石となり土台となったのは、1972年の田中角栄の日中共同声明であり、1978年の日中平和友好条約だった。それが歴史の真実だ。これがあったから、欧州と異なって東アジアでは事実上早くポスト冷戦の次元に移行し、戦争の危機と脅威から自由になり、鄧小平の「改革開放」政策が後押しされて、共産中国を市場経済の国に移行させることができた。日中共同声明の前文には重要な言葉がある。規範となる言葉が刻まれている。

日本側は、過去において日本国が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことについての責任を痛感し、深く反省する。 

日中両国間には社会制度の相違があるにもかかわらず、両国は、平和友好関係を樹立すべきであり、また、樹立することが可能である。

一つ目の言葉はとても重い。二つ目の言葉も重く響く。「社会制度の相違」とは、自由主義と共産主義の相違という意味だ。今日の、左翼までがリベラル・デモクラシー一色に染まった思想状況の中で、この言葉は痛切に響く。今の左翼リベラルは、何かあれば「多様性」のキーワードを水戸黄門の印籠のように振り回す。性の多様性やら家族の多様性を言い上げ、文化左翼お得意の欧米直輸入の横文字・片仮名を並べ立てて「理論的優越性」に耽っている。ママゴト遊び同然のツイッターのヘゲモニーごっこで有頂天になっている。青土社の「現代思想」から囓り取った浮薄な脱構築言説を振り回し、理論家気取りになって自己満足に漬っている。アカデミーの業界で生業を得るべく、ボスの上野千鶴子に媚びを売って保身している。そんな連中が日本共産党の周囲をうろつき、マルクス主義の自我と自信を失った共産党幹部がそれに靡いて、奇怪な左翼コミュニティのサンクチュアリを営んでいる。然らば、それほど「多様性」が重要ならば、左翼はなぜイデオロギーの多様性を認めようとしないのか。なぜ中国共産党を他者として認めてやらないのか。右翼と同じ態度で頭から否定するのか。

今回の日米共同声明は、今後の日本の国家行動の指針となり、台湾有事の際の自衛隊出撃が既成事実化されるだろう。現時点で、誰も今回の日米共同声明を批判しておらず、それを憲法9条違反だと糾弾する者がいない。右も左も、積極的に評価し賛同する論評ばかりだ。18日のサンデーモーニングでの目加田説子のコメントには呆れた。6年前の安保法制の際、8年前の秘密保護法の際、あれほど強硬に反対を唱え、「海外での戦争に反対」とデモで訴えていた左翼リベラルが、今回はまるで反応せず、反対の声を上げないどころか是認の空気で沈黙している。小学生に説教するようなプリミティブ⇒幼稚な話で恐縮だが、台湾有事で自衛隊を出動させるということは、公海上で中国軍と交戦するということである。日本の領海外である台湾海峡・東シナ海・南シナ海の洋上で、米軍と一緒になって中国軍に攻撃を仕掛けるということだ。集団的自衛権の戦争参加に他ならない。当然、自衛隊員は戦死する。それで本当にいいのか。あれほど安保法制に反対し、「存立危機事態」も「重要影響事態」も認めなかった左翼リベラルが、これ以上ない露骨な9条違反の武力発動を認めるのか。なぜ沈黙できるのか。

そこまで中国を憎悪するのか。相手が中国共産党だったら、9条を脇に置いて台湾を助けるのが筋なのか。戦争相手の中国は、GDP世界第2位で軍事力も世界第2位の大国である。北朝鮮と戦争するのとはわけが違う。もし緒戦で米軍が計画した戦果が得られず、両軍が膠着状態になった場合は、中国と日本との長い泥沼の戦争になるだろう。米国は、日本と中国との消耗戦の構図と計略に引き込むだろう。中国と米国がICBMを撃ち合うことのない、その破局を避けた暗黙の合意での、極東の限定戦争に持って行くだろう。日本は離脱できない。米国にコントロールされたまま、最後まで総力戦を戦い続けることになる。膠着後に米軍の腰が引け、戦局が負け戦に転じたときは、嘗ての日米戦争の沖縄のような捨て石の運命にされる。勝ち戦の場合は、最終的にCPC⇒中華民国とPRC⇒中華人民共和国の体制が崩壊し、リベラル・デモクラシーが勝利し制圧した中国大陸となり、現在の国連体制が揚棄されて新しい世界秩序になる。負け戦の場合は、米国は沖縄とグアムの基地を放棄して西太平洋から撤退するだろう。アジア太平洋地域は中国の責任範囲という区分替えになる。どれほどの日本人が総力戦の戦争で犠牲になるか分からない

それを覚悟した上で、台湾の紛争への自衛隊介入を容認するのか。中国との戦争に賛成するのか。あらためて、1972年の日中共同声明に戻って、その三項で日本が、台湾を中国の領土であるとする中国の立場を尊重すると認めたことは、台湾が中国の内政問題であるとする中国と共通の認識の上に立っていることを意味する。もし、台湾問題が中国の内政問題ではないと言うのなら、正式に72年日中共同声明と日中平和友好条約の破棄を通告すべきだろう。