孫崎享氏が日刊ゲンダイ連載の「日本外交と政治の正体」のコーナーに、「共同声明は虚構の『日米同盟』をあらためて強調しただけ」とする記事を出しました。
その中で、先の日米首脳会談共同声明の「米国は日米安保条約5条が尖閣諸島に適用されると再確認」などの件について、安保条約5条は、米議会がそれを承認しかつ「戦争宣言」を行うことが条件なので、その関門を潜り抜けられないと米軍は対中国の防衛に参加できないのであるから、日本側の声明の解釈は錯覚であると述べました。
そして「台湾海峡を舞台で中国を対象とする18のウォーゲーム(対中国戦 机上演習)の全てのケースで米国が敗れた」ことから、それを承知で米軍が日本のために中国と戦うことはないと述べました(米国のウォーゲームの結果については3月26日の同コーナーでも触れています。⇒(3月28日)尖閣周辺でアメリカと中国が激突すればアメリカが敗れる)
従って日本政府は自分たちに都合がいいからと誤った幻想をふりまくべきではありません。
ところで高野孟氏は、現在中国・台湾間の経済的連携は強固なので双方にとって「敢えて軍事的紛争を起こす必要性は全くない」と述べています。
⇒(4月26日)日米が結束し“中国の脅威”との軍事的な対決路線を煽る不毛
そうであるのに米軍がなぜ「6年以内に台湾有事が発生する」などと煽るのかですが、それについては上記の記事でも紹介した通り、世に倦む日々氏の考察が最も納得できるものです。
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日本外交と政治の正体
共同声明は虚構の「日米同盟」をあらためて強調しただけ
孫崎 享 日刊ゲンダイ 2021/04/23
(記事集約サイト「阿修羅」より転載)
菅首相とバイデン大統領による日米首脳会談が行われた。共同声明では、①米国は日米安保条約5条が尖閣諸島に適用されると再確認 ②米国は核を含むあらゆる種類の能力を用い、日本の防衛を揺るぎなく支持する――と盛り込まれた。
これは錯覚を誘導する巧妙な表現である。
「安保条約5条が尖閣諸島に適用される」ことは、尖閣諸島に米軍が出ることを約束していない。安保条約第5条は、攻撃があった時「自国の憲法上の規定及び手続に従って行動する」とある。
米国の憲法第8条「連邦議会の立法権限」では、「戦争を宣言し」とある。つまり、戦争の宣言権限は大統領、行政府にあるのではない。安保条約の約束は、「議会が承認した時には軍事行動をとる」以上のものではなく、条約によって米軍がすぐに出撃することではない。
加えて、こうした法律論を超え、今や、尖閣諸島周辺で米中が戦った時には米国は中国に勝てない状況にある。
中国は在日米軍を攻撃できる1200発以上のミサイルを保有し、これが米軍滑走路を破壊すれば戦闘機は飛び立てない。
この問題を指摘したのは、米国で最高の軍事研究所「ランド研究所」である。そして、一般の人の共通認識になったのは、2019年9月のNY紙に掲載されたクリストフ論文で、「台湾海峡を舞台で中国を対象とする18のウォーゲーム中、18で米国が敗れた」と報じられた。
要するに尖閣諸島周辺で米軍が中国軍と戦えば、米国は負ける。それを承知で米軍が日本のために中国と戦うことはない。
「核の傘」も虚偽である。というのも、想定されているシナリオは机上の空論に過ぎないからだ。
例えば、中国が日本に核兵器を発射すると脅したとする。日本は同盟国の米国に助けてほしいというだろう。そして、米国は中国に対して、「日本に核兵器を撃つなら米国は中国の都市に核兵器を撃つ」と伝え、その抑止効果によって中国は日本への核兵器発射をやめる――というものである。
ところが、この筋書きには誤りがある。中国は、「中国の都市を核攻撃するのであれば、我々は米国の都市に核攻撃する」と反論するからだ。
これを容認できる米国の政治家はいない。つまり論理的に「核の傘」は存在していないに等しいのである。
「日米同盟」は米国が日本を軍事的に守るという虚構の上にある。今回の日米共同声明は、その虚構をあらためて強調しているだけである。
孫崎享 外交評論家
1943年、旧満州生まれ。東大法学部在学中に外務公務員上級職甲種試験(外交官採用試験)に合格。66年外務省入省。英国や米国、ソ連、イラク勤務などを経て、国際情報局長、駐イラン大使、防衛大教授を歴任。93年、「日本外交 現場からの証言――握手と微笑とイエスでいいか」で山本七平賞を受賞。「日米同盟の正体」「戦後史の正体」「小説外務省―尖閣問題の正体」など著書多数。
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。