2018年4月17日火曜日

17- 米のTPPへの復帰はファシズム体制の樹立を目指すもの

 大統領選挙時にあれほどTPP(環太平洋経済連携協定)加盟を否定していたトランプ米大統領が、TPPに復帰するか検討するようにドナルド・通商代表や国家経済会議議長に指示したということです。まことに変転ただならないトランプ氏ですが、もしも正式に復帰することになれば、それはそのまま日本にとって悪夢の復活になります。
 日本は米抜きでもTPP11の協定を結ぼうと熱心に画策して、それを実現させました。結果的にはアメリカの復帰のおぜん立てをしたということになりますが、当初からそれが目的だったとも考えられます。
 
 これまで繰り返し紹介してきた通り、TPPは、TTIP(環大西洋貿易投資協定)やTiSA(新サービス貿易協定)と同様、アメリカを拠点とする巨大資本が世界を直接統治するための仕組みで、その核心的武器はISDS(投資家対国家紛争解決)条項です。日本はTPP11の交渉でもISDSを適用することを主張しましたが、他のメンバーから反対され、米国が参加する時点で再検討することに落ち着きました。米国がISDSの標的にするのは 誰が見ても日本なのに、安倍内閣はなぜそんなに愚かなのでしょうか。
 
 櫻井ジャーナルの記事を紹介します。
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TPPへの復帰はファシズム体制の樹立を目指す米支配層のプランに沿う政策
櫻井ジャーナル 2018年4月14日
 TPP(環太平洋経済連携協定)へ復帰するために再交渉するべきかどうかを検討するようにドナルド・トランプ米大統領は通商代表や国家経済会議議長に指示したという。この協定のほか、TTIP(環大西洋貿易投資協定)やTiSA(新サービス貿易協定)はアメリカを拠点とする巨大資本が世界を直接統治するための仕組みで、その核心はISDS(投資家対国家紛争解決)条項にある。
 この条項によって巨大企業のカネ儲けを阻むような法律や規制は賠償の対象になり、健康、労働、環境など人びとの健康や生活を国が守ることは難しくなるのだが、それだけでなく、日本の法体系が破壊させられると警鐘を鳴らす法律家もいる。
 
 TPPにアメリカが復帰すれば、その主導権を握るのはアメリカ。環太平洋ではアメリカのほかオーストラリア、カナダ、ニュージーランドはアングロ・サクソン系で、判例法を基本とする英米法の国。これらの国々の母国語は英語だ。この4カ国とイギリスは深く結びついている。
 
 それに対し、日本は国会で制定された法律が基本の大陸法を採用しているので、TPP内で統一した法体系を作りあげることは不可能。トラブルの仲裁を担当する法律家は英米法の人間だと考えなければならず、日本の法律は意味をなさなくなる。
 アメリカの支配層は自分たちにとって都合の悪いルールを採用している国が存在すると、その国の「エリート」を買収したり、恫喝したり、場合によってはクーデターや軍事侵略で体制を転覆させてきた。そうしたことを行わなければならないのは、主権国家が存在するからだ。その主権国家を消滅させ、巨大企業という私的権力によって支配される国際秩序を築くのがTPP、TTIP、TiSAの目的だ。
 
 フランクリン・ルーズベルトは大統領時代の1938年4月29日、ファシズムについて次のように語っているが、これは3協定の定義でもある。
「もし、私的権力が自分たちの民主的国家そのものより強くなることを人びとが許すならば、民主主義の自由は危うくなる。本質的に、個人、グループ、あるいは私的権力をコントロールする何らかの存在による政府の所有こそがファシズムだ。」
 現在、アメリカ政府が中国やロシアに対して仕掛けている経済戦争の目的もここにある。この2カ国が持つ主権を破壊し、全世界の人々を巨大資本の臣民にしようとしているのだ。
 中国は1980年代から新自由主義を導入しているが、国家主権は維持しようとしてきた。中国が世界銀行と共同で2013年に作成した「中国2030」は中国に根本的な、つまり西側巨大資本が望む条件で市場改革を実行することを迫るもの。ちなみに、2007年7月から12年7月まで世界銀行総裁を務めたのはロバート・ゼーリック元米通商代表だ。
 
 しかし、2014年に状況は一変する。この年の2月にネオコンはウクライナでネオ・ナチを使ったクーデターを成功させ、合法的に選ばれたビクトル・ヤヌコビッチ大統領を暴力的に排除したことが主な原因だ。ウクライナをロシア制圧のカギを握る国だとアメリカの支配層は以前から考えていたが、ヤヌコビッチは西側の傀儡ではなかった。それが排除された理由のひとつだが、ロシアとEUを分断するという意図も無視できない。両者を結びつける大きな要因はロシアの天然ガスで、輸送のためのパイプラインがウクライナを通過している。ウクライナに傀儡体制を樹立させてつながりを断ち切ろうとしたのだ。
 
 ところが、事態はネオコンが想定していなかった方向へ向かう。ロシアが中国に目を向け、ロシアと中国が急接近したのだ。アメリカのやり口を目の当たりにした中国もアメリカを警戒するようになり、ロシアと中国は戦略的パートナーになる。その後、両国の関係は深まり、今ではドルを基軸通貨とする金融システムを揺るがす存在になった。
 そして中国は一帯一路構想を打ち出し、「中国製造2025年」というプロジェクトを公表する。習近平体制になったこともあるが、2014年のウクライナにおけるクーデターも中国の戦略変更に影響しただろう。トランプ政権はその変更を元に戻させようとしていると指摘する人もいる。アメリカの巨大資本の前に跪かせようとしているとも言えるが、そうしたことを実現するのは難しいだろうとも言われている。同じことはロシアについても言える。
 アメリカによる軍事的な恫喝も経済戦争もTPPへの復帰も目的は同じで、ファシズム体制への移行。日本の政治家や官僚は忠実にアメリカ支配層の命令に従い、庶民は教育を受ける権利や労働者としての権利を奪われているのだが、そうした動きの前には中国とロシアが立ちはだかっている。