2018年4月29日日曜日

「国民の敵」発言で明らかにされた 自衛隊で進む“安倍私兵化”

 自衛隊統合幕僚監部三等空佐が路上ランニング中に、国会近くで帰宅途中の小西洋之参院議員出会い、長時間にわたり「国民のために働け」「日本の国益を損なう」「気持ち悪い」「国民の敵だ」などと罵倒した事件は国民に衝撃を与えました。
 防衛省が24日に発表した中間報告によれば、この自衛官は小西氏に向かって様々に罵倒したことは認め一方で、「国民の敵だ」発言したことは否定したということです特別職国家公務員の幹部が、国民の選良に対してそう発言したのはさすがに問題だと考えたようです。
 しかし小西議員は現場でもその発言を問題視し、現場から防衛省の豊田硬事務次官に電話し、「自衛隊員から『国民の敵』などと暴言を受けている」と伝えいます。その事実は豊田事務次官や人事教育庁も認めているので、その発言があったのは確実でしょう。
 
 現時点までの調査では何故か小西議員や事務次官へのヒアリングは行われていないということです。ここでもまた「あったことをなかったことにする組織ぐるみの隠蔽」が行われるのであれば大問題です。
 
 LITERAはこの問題の根源について、「5.15事件や2.26事件などのクーデターを想起させる」行動ではないとしています。
 クーデターではまがりなりにも「政治腐敗から民衆を救う」というような大義名分を掲げるものの当該の自衛隊三佐には「民衆」や「国民」という視点はないとして、「安倍政権の敵」だから罵倒するという「極めて短絡的」なものだとしています。
 そしてそのこと自体が実は重大なことで、そこには「安倍首相の私兵」「安倍政権のための軍隊」という意識が既に自衛隊組織全体に浸透している危険性が感じられるとして、昨年3月の防衛大学校卒業式の訓示で、安倍首相が「警戒監視や情報収集に当たる部隊は、私の目であり耳であります。つまり、最前線の現場にあって指揮をとる諸君と、最高指揮官である私との意思疎通の円滑さ、紐帯の強さが、我が国の安全に直結する。日本の国益につながっています」などと、あたかも安倍首相の私兵であるかのように述べていることを紹介しています。
 
 実際、幹部官僚の不祥事の始末を見ていると、安倍政権にさえ逆わなければ、どんな不正を働いても厳しい処分はされず(実質的に救済されていて)、「国民を敵と味方に分断する安倍政治」が徹底されているのが確認出来るとしています。
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「国民の敵」罵倒の自衛隊三佐の弁明で明らかになった
 “クーデター”より恐ろしい事態! 自衛隊で進む“安倍私兵化”
LITERA 2018年4月28日
 やっぱりと言うか、なんと言うか。自衛隊統合幕僚監部に所属する三等空佐の“「国民の敵」罵倒問題”で、ネット右翼が民進党の小西洋之参院議員を「捏造」「嘘つき」「国賊」と炎上させている。
 周知の通り、防衛省が24日に発表した調査の中間報告によれば、この幹部自衛官は小西氏に向かって「日本の国益を損なう」「気持ち悪い」などと罵倒したことは認めた一方、「お前は国民の敵だ」との発言については否定したという。これを受けていま、ネトウヨたちがこんなふうに騒ぎ立てているというわけだ。
 〈自衛官は国民の敵とは言ってないみたいで小西の捏造嘘でした。〉
 〈「国民の敵」発言は小西の捏造らしい 正確には「国益を損なう」〉
 〈息を吐くように嘘をつく小西某の言葉の信用度は「ゼロ」%です〉
 〈ほんまクズ、嘘吐き小西洋之〉
 〈小西氏はその場で和解したと安心させ翌日政争の具に供した。小西よ、あなたは国賊だ〉
 
 ネトウヨ連中のいつものやり口ではあるが、それにしてもこいつら、ことの重大性がまったく分かっていないらしい。
 だいたい、実力組織である自衛隊の幹部自衛官が、国会議員に対し敵意をむき出しに口撃したことは事実で、そのこと自体が極めて異常なのだ。人々を殺傷、制圧可能な部隊を指導する立場の者が、選挙で選ばれた政治家を誹謗中傷する。この意味は、暴言の銃口を小西議員だけでなく有権者たる国民に向けているのと同義だ。
 そこをネグって小西がどうのこうのとほざくのは、まあ、ノーテンキというか、それこそ連中の大好きな言葉を借りれば「平和ボケのお花畑」ってやつだろう。
 そのうえで言うが、今回、防衛省が三佐本人から聞き取ったという供述の内容には、客観的に見て不自然な点がいくつもあった。さらに、その不自然さを差し引いても、この幹部自衛官の話ぶりからは、むしろ「国民の敵だ」発言よりも何倍もヤバいとしか言いようがない、“劣化した自衛隊”の現実がダダ漏れになっていたのである。
 
罵倒問題の自衛隊三佐「国民の敵と言ってない」という弁明の明らかな矛盾
 どういうことか。まず、供述内容によると、幹部自衛官は国会議事堂近くをランニング中、偶然いた小西氏を追い抜く際に顔が見え本人と確信。交差点で赤信号を待っているときに目が合って、会釈した小西議員に対し「国のために働け」と大声で言ったという。
 小西議員は反論した。三佐の供述では、この小西発言が「国のために働いています。安倍政権は、国会で憲法を危険な方向に変えてしまおうとしているし、日本国民を戦争に行かせるわけにいかないし、戦死させるわけにもいかないから、そこを食い止めようと思って、私は頑張ってやっているんです」と極めて詳細に語られている。
 
 対する三佐は、「俺は自衛官だ」と名乗ったうえで、「あなたがやっていることは、日本の国益を損なうことじゃないか」「東大まで出て、こんな活動しかできないなんてばかなのか」などと発言したという。
 他方、小西議員が「週刊朝日」(21日オンライン版)で語るところによれば、三佐は「俺は自衛官なんだよ。おまえは国民の敵だ!」と言い放ったという。両者の証言は食い違っているが、そもそも自ら「自衛官だ」と言いながら国会議員を罵倒した時点でアウトであることに変わりはない。
 
 しかも、自衛官の供述はこの後、どんどん不自然になっていく。
 たとえば供述によれば、三佐は小西氏から「あなたは現役の自衛官なのか。現役の自衛官が、そんな発言をするのは法令に反する」と言われたというが、これに対する三佐自身の発言はかなり曖昧にされているのだ。
〈はっきりとは覚えていませんが「私の発言は、自衛官の政治的行動に当たりません」というようなことを言ったと思います〉(三佐の供述)
 それだけではない。三佐が小西議員から名前と所属を聞かれたやりとりの供述にも、いかにも歯切れの悪い留保がついていた。
〈その後、小西議員は「撤回しなさい。現職の自衛官がそんなことを言うのは問題だ。防衛省の人事局に今から通報する」といって携帯電話を出しました。このやりとりの際に、はっきりとは覚えていませんが、「何が悪いんでしょうか?」と類似するような言葉を使ったかもしれません〉(三佐の供述)
 
 つまりこの幹部自衛官は、食ってかかった相手が発したセリフははっきりと諳んじてみせるのに、自分の発言は「はっきりとは覚えていない」というわけである。
 なんとも不自然だが、他方の小西議員によると、このとき「お前は国民の敵だ」という発言の撤回を求めたが三佐が撤回を拒否したため、防衛省の豊田硬事務次官に電話し、「自衛隊員を名乗る者から国民の敵などと暴言を受けている」と伝えた。その内容は、豊田事務次官も認めているという。
 また、この後、折り返しで同省の武田博史人事教育局長とも通話しており、武田局長は小西氏から「国民の敵」と言われたとの内容をメモしているとされる。すなわち、少なくとも小西氏は、三佐のそばで防衛省幹部に「『国民の敵』との暴言を受けた」というふうに電話していたのは間違いない
 ところが、である。やっぱり三佐の供述では、この場面がかなりうやむやなのだ。
〈小西議員は、電話先で「私は参議院の小西ですが、今、現職の自衛官と名乗る男性から私のことを罵倒したり、冒涜するような発言をしている者がいます。これは大問題ですから…」と通話しており、この後の語尾の方は、明確には聞こえませんでした。〉(三佐の供述)
 
自衛隊を“私兵”として扱い始めた安倍首相、それに呼応する自衛隊
 見ての通り、電話口での「国民の敵との暴言を受けた」という小西氏の発言が、なぜか、三佐の供述からはすっぽりと抜け落ちている。繰り返すが、そこにいたる小西氏の他の発言については、こと細やかに供述しているにもかかわらずである。
 なお、防衛省は今回の調査のなかで小西氏に事情を一切聴いていないという。また、小西議員によれば、同省の調査担当者は豊田次官と武田人事教育局長に文書による報告を求めただけで、直接のヒアリングをせず、さらに〈「本日の調査報告書の発表の段階でも、両者による正式の文書報告が調査担当者に提出されていない」とのこと〉(小西氏のブログより)だという。
 
 まるで「お前は国民の敵だ」発言の存在を否定するため、その後に出てくる小西氏の「国民の敵だと暴言を受けた」という発言を“聞き取れなかったことにした”としか思えないではないか。これでは「あったことをなかったことにする組織ぐるみの隠蔽ではないか」(小西氏)との疑いが生じて当然だろう。
 しかし、この幹部自衛官の“記憶力”の都合のよさ以上に、唖然とさせられたのは、なんと言っても小西氏を罵倒した“動機”にある。三佐はこう供述している。
〈私はもともと、小西議員に対しては、総合的に政府・自衛隊が進めようとしている方向とは違う方向での対応が多いという全体的なイメージで小西議員をとらえていました。小西議員から会釈された際、私はあいさつを返すのもどうかと思ったし、最初に見たとき、一言思いを述べたいという気持ちが高まりました。そして、交差点で一緒になり、会釈された際に、私は小西議員へのイメージもある中、あいさつを返したくない気持ちもあり、無視をするのもどうかと思って、思わず「国のために働け」と聞こえるように、大きい声で言ってしまいました〉
 
 つまり、「政府・自衛隊が進めようとしている方向とは違う」という理由で小西議員に暴言をはいたといっているのだ。これは、この幹部自衛官が「政府」に反するとみなした者は、自国民であっても攻撃すべし、という思想をもっていることの証明だろう。そこには自衛隊が「国民を守るための組織」だという自覚は微塵もなく、むしろ「政府=安倍政権のための実力部隊」といわんばかりの姿勢が伝わってくる。
 しかも、こうした“安倍政権への忠誠”は、ほかでもない自衛隊の最高指揮官である安倍首相が求めてきたものだ。安倍首相は3年前、国会で自衛隊を「我が軍」と呼んだ。さらに、昨年3月の防衛大学校卒業式の訓示では、これから自衛官に任官しようという学生たちに向けてこう述べた。
「警戒監視や情報収集に当たる部隊は、私の目であり耳であります」
つまり、最前線の現場にあって指揮をとる諸君と、最高指揮官である私との意思疎通の円滑さ、紐帯の強さが、我が国の安全に直結する。日本の国益につながっています
「そして将来、諸君の中から最高指揮官たる内閣総理大臣の片腕となって、その重要な意思決定を支える人材が出てきてくれる日を楽しみにしています」
 まるで自衛隊が安倍首相の“私兵”であるかのような言い草だが、今回の自衛官の行動をみると、こうした安倍首相の自衛隊への姿勢に呼応したものとしか思えないのだ。
 
クーデター計画よりも深刻、自衛隊をおおう“安倍の私兵”意識
 そう考えると、今回の三佐の罵倒はよく言われるような「5.15事件や2.26事件などのクーデターを想起させる」行動ではない。もっとレベルの低い、グロテスクなものだ。
 そもそも、軍事クーデターあるいはその未遂事案は、軍事力を背景にした暴力や圧力、テロルによってときの政府を打倒し、自分たち軍隊の意に沿う変革を企図するものである。
 5.15事件や2.26事件など、戦中の青年将校らによるクーデターはもちろん、戦後の自衛隊でもこうした「クーデター」は何度か計画された。たとえば元警察官僚の亀井静香衆院議員は、雑誌「月刊日本」2017年12月号のインタビューで、〈いまだから言ってもいいと思うが、私が警視庁にいたとき、現職の自衛官によるクーデター計画があったんだよ〉と告白している。亀井氏によれば、その計画を事前にキャッチして動きを止めるために防衛省へ連絡、理由を言わずに首謀者3名を即座に配置転換するよう要請したという。
 
 また1992年には、現役自衛官が「クーデター」に関する論文を「週刊文春」に寄稿し、大問題になったこともあった。陸上自衛隊高射学校の戦史教官だった柳内伸作氏という幹部自衛官だが、〈もはや合法的に民主主義の根幹である選挙で不正を是正することは不可能です。それを断ち切るにはどのような手段があるか。革命かクーデターしかありません〉〈軍隊も手段ならば、クーデターも単なる手段に過ぎず、穏健な民主的方法のみが民衆を救うための手段ではないというときがあります〉などと書いて、結果、懲戒免職の処分がくだされた(処分撤回を求める裁判を起こしたが敗訴)。ちなみに、柳内氏はこのクーデター論文を執筆した当時、自衛隊の三等陸佐。くしくも、今回の小西罵倒事件を起こした幹部自衛官と所属は違えども同じ階級だ。
 
 しかし、こうしたクーデター発言と今回の自衛隊三佐の暴言とは根本的な思想がまったく違う。柳内氏の「クーデター論文」はまがりなりにも政治腐敗から「民衆を救う」という大義名分を掲げていたが、小西議員を罵倒した自衛隊三佐には「民衆」や「国民」という視点すらない。前述したように“安倍政権の敵”だから罵倒しているだけなのだ。
 だが、それは危険がないということではない。むしろ、一部の跳ね上がりにすぎないクーデター発言よりも、今回のほうがもっと事態が深刻かもしれない。それは、前述した“安倍首相の私兵”“安倍政権のための軍隊”という意識が自衛隊という組織全体に浸透している危険性を感じるからだ。
 実際、防衛省の日報隠蔽問題での防衛省・自衛隊幹部の行動を見ても、安倍政権を庇うためなら、平気で国民を欺き、不正を働くようになっている。そして、日報問題で引責辞任したはずの黒江哲郎・前事務次官がNSCの新設ポストに抜擢されたように、安倍政権にさえ逆わなければ、どんな不正を働いても厳しい処分はされない
 
 そういうことがどんどん積み重なった結果、自衛隊には「我々は安倍さまの軍隊」であり「安倍さまに逆らうものは国会議員であろうと、一般市民であろうとすべて敵だ」という意識が根付いてしまったのではないか。
 本サイトは、今回の事件が示しているのは「シビリアンコントロールの欠如」だけでなく「国民を敵と味方に分断する安倍政治の反映」だと指摘してきたが、三佐が供述している“動機”は、まさにこれを裏付けるものだろう。
 今回は暴言だけで済んだが、安倍政権がこのまま続けば、まさに自衛隊が“政権の弾圧装置”と化して、国民に銃口を向けるという事態も起こりなりかねないのだ。(編集部)