2019年7月4日木曜日

04- <参院選>争点シリーズ(4)原発・エネルギー (東京新聞)

 東京新聞の連載記事「参院選 争点」の第4回目は「4原発・エネルギー」です。
 放射能汚染の危険性を訴える人たちが福島の地元で疎外されるという事実には驚かされます。恐るべき「同調圧力」によるものでしょうか。
 一方で、福島のような深刻な事故が起こる可能性について、全国民の85・7%が「心配が残る」としている事実もあります。
 東京新聞の争点シリーズは今回で終わりです。
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<参院選>争点(4)原発・エネルギー 推進かゼロ目標か
東京新聞 2019年7月3日
 「原発は、人権をないがしろにしないと成り立たないものということが、被害者になってよく分かった」
 東京電力福島第一原発事故後、福島から東京へ避難した鴨下祐也さん(50)は、そう声を絞り出した。
 二〇一一年三月十二日未明、福島県いわき市の自宅を離れた。避難所や親族宅など四カ所を転々とし、ようやく都内の国家公務員宿舎に入居できた。今も妻と息子二人の四人で暮らす。
 勤め先の福島工業高専(いわき市)の再開に伴い、いったんは一人で戻った。だが、放射能汚染の危険性を訴える鴨下さんのような教員は孤立し、次々と退職。鴨下さんも一二年十月に辞めた。大学の非常勤講師を務めながら、なんとか生計を立てている。
 国はいわき市には避難指示を出さず、一家は「自主避難者」とされた。避難所では、避難指示が出た区域の避難者からは「けぇれ(帰れ)!」と怒鳴られたこともあった
 
 自主避難者へのほぼ唯一の公的支援だった災害救助法に基づく住宅提供は一七年三月に打ち切りに。早期の退去を求める文書が配達証明で定期的に届く。鴨下さんは「放射能汚染が残っている以上、自宅には戻れない」と打ち切りの見直しを求めている。
 本社加盟の日本世論調査会が二月に行った全国面接世論調査では、福島のような深刻な事故が起こる可能性について85・7%が「心配が残る」と回答した。
 
 安倍政権は海外で原発を新設する「原発輸出」を成長戦略の柱に位置付けてきた。米国、ベトナム、英国などで次々と新設計画は頓挫したが、世耕弘成経済産業相は原発輸出を進める方針に「変更はない」としている。国内でも、福島事故後に設けられた新規制基準に適合し、再稼働したのは計九基。鴨下さんは「福島の廃炉も賠償も終わらないのに、再び原発を動かすなんてありえない」と憤る。
 
 昨年七月に閣議決定したエネルギー基本計画は「再エネの主力電源化」をうたった。だが、三〇年度の数値目標は従来の22~24%に据え置き。原発比率も20~22%と肩を並べ、再エネ普及への本気度は乏しい。
 政府は本年度予算で、新原子炉の技術開発の補助金に六・五億円を充てた。これまで「原発の新増設は国内では必要ない」と説明してきたが、将来の新増設に向け、「原子力ムラ」が実質的に準備を始めた形だ。
 五月現在、福島県から県外への避難者は全国で三万人超。鴨下さんには、来年の東京五輪・パラリンピックが「復興五輪」と位置付けられることに「見せかけの復興をアピールされても」とむなしさを感じる。
 原発を維持・推進するのか、ゼロへとかじを切るのか。参院選では福島の教訓を踏まえたエネルギーの将来像が問われている。 (伊藤弘喜)=おわり