東京新聞の連載記事「参院選 争点」の第3回目は「(3)外交 対米優先か見直しか」です。
トランプ米大統領は大阪での記者会見で「日米安保条約が不公平で改定しなければならないと安倍首相には半年も前から伝えてあり、彼も十分に理解している」ことを明らかにしました。安倍首相はそうした話は出なかったと否定していますが、「日米蜜月をセールスポイントにしている安倍首相にとって、日米同盟の一体化を疑わせるような要求は一番困る(春名幹男)」ので、隠蔽してきたし否定するしかなかったのでしょう。「フェイク」で知られるトランプ氏ですが、この件でウソを吐く必要性は何もありません。
そう言われたから「無用で役に立たない米国兵器を爆買いした」というのは論外で、事実トランプ氏はそんなことでは何も舌鋒を緩めません。
安倍首相はひたすら「すね夫」的に対処するのではなく、米国は世界戦略上の必要性から日本に駐留している筈であり、駐留経費の負担も世界で断トツであることを認識させ、安保条約の破棄も視野に入れた対応をすべきです。
米国従属一辺倒の安倍外交の破綻は明らかで、秋以降は、米軍駐留経費負担の増額や、農産物輸入関税の大幅ダウンや自動車の輸出関税の大幅アップや台数規制などで圧力を掛けてくるでしょう。日米関係の実態がそこで可視化されることになります。
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<参院選>争点(3)外交 対米優先か見直しか
東京新聞 2019年7月2日
「日本が攻撃されたら米国は戦わなくてはならない。米国が攻撃されても日本は戦わなくていい」
トランプ米大統領は六月二十九日、二十カ国・地域首脳会議(G20サミット)終了後の記者会見で、日米安全保障条約について「不公平だ」と公言した。破棄は否定したものの、「この六カ月、安倍晋三首相にも言ってきた」と不満をぶちまけた。
このわずか一時間前、首相はサミット閉幕を受けた記者会見で「世界は結束できる、そう信じて議長役を務めた」と胸を張っていた。トランプ氏の発言は、首相と十二回の会談を重ねても、対等な関係に近づけない日米同盟の本質を世界にさらす結果になった。
安倍政権六年半の外交は軸足を常に日米同盟強化に置いてきた。ちょうど五年前の二〇一四年七月一日には、憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使容認を閣議決定。米国を武力で守れるようにした上で、日米防衛協力指針(ガイドライン)を改定し、自衛隊による米軍支援の範囲を世界規模に拡大。これらを法的に裏付ける安全保障関連法を成立させた。
米国から最新鋭ステルス戦闘機F35や、地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」など高額兵器の購入も決定した。米国が金額や納期を決める「対外有償軍事援助(FMS)」で買うため、米国の「言い値」を受け入れざるを得ず、予算は急増。二〇一九年度はFMSによる購入費用が七千億円強に上り、防衛費五兆二千五百億円とともに過去最多となった。
米国第一主義を掲げ、対日貿易赤字削減に躍起なトランプ氏は、安倍政権が高額兵器を大量購入しても、なお安全保障というカードをちらつかせ、貿易交渉での譲歩を日本に迫る。
令和初の国賓として五月に来日した際の日米首脳会談では、貿易交渉妥結は参院後に先送りされたが、トランプ氏は六月二十八日の大阪での会談でも「貿易、軍事、多くの防衛装備品の購入について話す」と首相を揺さぶった。
環太平洋連携協定(TPP)にも、首相は当時のオバマ米政権の推進姿勢に合わせ、農業団体などの反発を押し切って参加した。だが、トランプ氏はTPPから離脱。首相ははしごを外された形になった。
他の重要な外交案件を巡る停滞も目立つ。
首相は昨年十一月の日ロ首脳会談で、北方四島の一括返還の旗を事実上降ろしたが、プーチン大統領は歯舞(はぼまい)、色丹(しこたん)両島に米軍が駐留する可能性に言及し、二島引き渡しにも難色を示している。
首相が最重要課題に位置付ける北朝鮮による日本人拉致問題も進展しない。首相は今年五月、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長と前提条件なしに会談する考えを明らかにしたが、北朝鮮は「ずうずうしい」と反発。実現の道筋は描けない。
首相が「盤石」と主張するものの実態は米国に揺さぶられる対米優先路線の継続か。その見直しか。参院選は日本外交の立ち位置を考える好機でもある。(上野実輝彦)