ネット記事「週刊女性PRIME」が、「《参院選の争点》“戦後最悪”の安倍政権が、なぜ一強に見えるのか」と題して、ジャーナリストの青木理さんの解説を報じました。
以下に紹介します。
文中の太字強調部分は原文に拠っています。
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《参院選の争点》“戦後最悪”の安倍政権が、なぜ一強に見えるのか
週刊女性PRIME 2019/7/4
週刊女性2019年7月16日号
先月26日の国会閉会と同時に事実上の選挙戦がスタート。誰に入れても変わらないという声が聞こえてくるけれど、たとえ政治に興味がなくても無関係ではいられないのが現実。そのツケは庶民にこそ降りかかるのだから。まずは、安倍政権の政治と暮らしへの影響を検証していこう。
参院選の争点は“戦後最悪”の安倍政権
7月21日に投開票の参議院選挙が間近に迫っている。2012年12月に安倍晋三氏が内閣総理大臣に返り咲いて以来、3回目の参院選だ。
選挙直前になって、「年金を支給されても老後は2000万円が必要」という金融審議会の報告書をめぐり批判が殺到、終盤国会は紛糾した。
テレビの情報番組でコメンテーターも務めているジャーナリスト・青木理さんは「参院選は、政権の中間評価。争点は安倍政権です」と前置きをしたうえで、こう批判する。
「いまの安倍政権は、戦後最悪の政権だと僕は思う。年金制度ひとつをとってみても、いずれこうなることはわかっていたのに、問題を直視せずにやり過ごそうとしている。無責任です」
年金制度は経済成長を前提にしている。成長が見込めなくなれば当然行き詰まる。
「戦後は右肩上がりの時代が長く続きましたが、バブル経済をピークに、その時代が終わりました。本来は産業構造などの抜本的な改革が必要だったのに、できませんでした。バブル期には、世界の時価総額ランキングのトップ10に日本企業の姿がいくつもありましたが、いまは見る影もない。
アベノミクスなどと言いますが、現実には金融緩和をしただけで、財政や社会保障制度の改革もできていません。そのさわりが年金問題です。このままいけば、貧困で生活できない高齢者が増えていきます。少子化対策もできていませんから、年金制度で老後を維持できず、生活保護世帯が増大しかねません」
公文書の扱いやデータの改竄も問題になった。
「森友学園問題では政権に不利になるからといって、財務省が決裁文書を改竄しました。厚生労働省も、毎月勤労統計のデータがずさんで、働き方改革の法案を通したいから都合のいいデータを集めたりもしました。
防衛省も、(新型ミサイル防衛システムの)イージス・アショアの配備にあたり、調査データの誤りが発覚しましたが、グーグルアースで測定していたことがわかっています。専門家集団として政治に客観的データを示すのが官僚の役目なのに、一強政権の下で官僚組織が腐り始めています。これは極めて深刻な事態です」
こうして問題が噴出しながらも、安倍総理の在職期間は伊藤博文を抜いて歴代3位。参院選を乗り切り、政権を維持できれば、11月には憲政史上最長になる可能性もある。
「いまは選挙で政権にお灸をすえるような流れにはありません。皮肉を込めて言えば、安倍氏の唯一のすごさは運がいいところ。1回目の政権は失敗しましたが、戦後初の本格的政権交代となった民主党政権が自滅し、野党は相変わらずバラバラの状態。自民党内に対抗する派閥もなくなった。周囲が埋没しているので結果的に一強に見えるのです」
バラバラの野党が政権の強行を後押し
他勢力が埋没しているから、というのは、世論調査でもわかる。支持率は高いが、積極的支持ではない。
「内閣支持率を見ると、30〜50%の間ですが、その半分は“ほかにいないから”との理由です。これは選挙制度の問題が大きい。衆議院は小選挙区比例代表制ですが、獲得票が3割もあれば、過半数を超える議席数を占められます。
つまり3割の民意で政治の行方が決められてしまうということ。しかも小選挙区制は政権交代可能な2大政党の存在が前提となる制度ですが、野党がバラバラで、対抗勢力がないのです」
まとまれない野党が政権の強行を後押しする。沖縄では名護市辺野古の新基地建設をめぐり、政府による埋め立て土砂投入が昨年12月から続く。辺野古反対を掲げた故・翁長雄志前知事の遺志を継ぎ、玉城デニー知事が新基地を造らせないとの公約で誕生。今年2月の県民投票でも7割強が反対している。
しかし安倍総理は、6月24日の「慰霊の日」の挨拶で「負担軽減に向けて結果を出す」と言いつつも辺野古への基地建設を強行、普天間飛行場(宜野湾市)の移設にあたって「辺野古ありき」の姿勢を崩さない。
「本当に辺野古に基地を造れるのでしょうか。軟弱地盤の土壌改良工事が必要になりますが、かつて経験のない深さに7・7万本もの杭を打ち込む工事は前代未聞です。工事計画の変更にあたっては知事の許可が欠かせないため、玉城知事の在任期間では埋め立てられないのではないか。
となると(知事の任期である)'22年までは不可能で、そのときに日米の政権がどうなっているのかわからない。それでも推し進めようとするのは、政権による究極の嫌がらせではないでしょうか」
こうした現状に対し、メディアの担う役割は大きい。
「政権に疑問をぶつけていくのはメディアの役割です。地方紙の多くは、安保法制の強行などを批判していましたし、イージス・アショアの問題を最初に指摘したのは秋田魁新聞でした。しかし中央では複数の大手紙が政権の応援団になっていて、系列化されているテレビ局の社員までがそれを忖度しています」
参院選後も与党の勢力が3分の2を維持すれば、安倍首相の悲願である憲法改正の可能性も出てくる。実際、自民党は参院選の公約に「改憲の早期実現」を掲げている。
「実際の改憲はそう簡単ではないでしょう。9条に自衛隊を書き込むといいますが、(改憲に慎重な)公明党をどう説得するか。仮に発議まで持っていっても、国民投票で過半数の賛成が必要です。最近の世論調査では憲法改正に賛成が多数ですが、“現政権下で”との条件をつけると反対が上回ります。現政権の改憲を不安視する人が多く、払拭するのは容易でありません」
対抗勢力となるべき野党には何を求めればいいのか。
「野党がバラバラでは自民党に勝てません。例えば、前川喜平氏のような著名人が新党を作るサプライズか、最低でも立憲民主から共産までひとつにまとまれば可能性が出てくるかもしれませんが現状は難しい。前回の衆院選では、野党の票を全部合わせると自民党よりも得票数が多かった。本当は一強ではないはずです」
(取材・文/渋井哲也)
《PROFILE》
青木理さん ◎ジャーナリスト。長野県生まれ。共同通信を経てフリー。『安倍三代』(朝日新聞出版)、『情報隠蔽国家』(河出書房新社)など著書多数