日本の「有志連合」参加の問題を法体系的にどう考えるべきかについて、小林節教授が日刊ゲンダイ紙上で述べていますので紹介します。
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ここがおかしい 小林節が斬る!
米国が参加要請 ホルムズ海峡「有志連合」をどう考えるか
日刊ゲンダイ 2019/07/30
参院選挙前にトランプ米大統領が「自国のタンカーは自国で防衛すべきだ」と発言し、米国は、中東ホルムズ海峡等の「航行の自由と安全」を確保するための「有志連合(軍)」に日本も参加することを求めている。
確かに、日本の会社が運航し日本向けの原油を運んでいる船舶が公海上で攻撃を受けた場合に日本がそれを防御すべきは当然で、それを他国に頼るようでは独立主権国家とは言えない。
しかし、日本には周知のように主権者国民の歴史的な最高意思としての憲法上の制約があり、その結果、国家機関としてできることと、できないことがある。
まず、第2次世界大戦の反省として、9条2項が「軍隊」の保持と「交戦権」の行使を禁じており、その結果として、わが国は海外へ国際法上の「戦争」をしに行くことはできない。
しかし、わが国にも、独立主権国家が当然に保有している「行政権」(65条)の一環としての「警察権」があり、わが国の領域(領土、領海、領空)とそれに接続する公海と公空において、国民の生命と財産に対する危険を除去する責任がある。
その手続きを定めた規定が自衛隊法82条の「海上警備行動」である。
これは、相手方の武装が海上保安庁(海の警察)の武器を著しく超えており、性質上、海上保安庁では対応が困難で、自衛隊(重装備の第二警察)が行くしかない場合である。
もちろん、それにも憲法に由来する制約があり、それは、「法の支配」を尊重する「法治国家」として、順守するしかない。
まず、自衛隊は、日本に関係する船舶しか護衛できない。また、他国の領域内で武力行使はできない。もちろん、他に手段がない場合に限り、その事態に対応して合理的に必要と判断される限度内でしか武器を使用できない。
だから、米国が期待するように同盟軍として無条件に参戦することはできない。しかし、この非常に困難な作業は、文明国日本の優秀な自衛隊だからこそできる任務で、それを守ってあげることが政治の任務であろう。
小林節 慶応大名誉教授
1949年生まれ。都立新宿高を経て慶大法学部卒。法学博士、弁護士。米ハーバード大法科大学院のロ客員研究員などを経て慶大教授。現在は名誉教授。「朝まで生テレビ!」などに出演。憲法、英米法の論客として知られる。14年の安保関連法制の国会審議の際、衆院憲法調査査会で「集団的自衛権の行使は違憲」と発言し、その後の国民的な反対運動の象徴的存在となる。「白熱講義! 日本国憲法改正」など著書多数。新著は竹田恒泰氏との共著「憲法の真髄」(ベスト新著)