第3回目の米朝首脳会談は両国間で周到に準備されたのでしょうが、日本をはじめ世界にとっては降って湧いたような出来事でした。
韓国側の施設で両首脳会談は50分余り行われ、トランプ大統領は板門店の南北境界を歩いて越えた最初の米大統領となりました。
日米首脳会談直後の「日米は北朝鮮に対する見方で完全に一致した」というあの首相の常套句は一体何だったのでしょうか。
突然の米中首脳会談は、少なくともG20会合の議長を務めたという自己満足の余韻に浸っていたかった安倍首相の心緒を大いに乱したことでしょう。参院選に向けての効果も殆ど無にしました。
G20では文大統領のテーブルを別にし日韓首脳会談も行わないなどの子供じみた仕打ちをしましたが、結局は米朝首脳会談の舞台を提供した文大統領の方が脚光を浴びることになりました。
政権内にボルトン、ポンペオ、ペンスらを擁している米国との交渉が今後順調に進む保証は何もありませんが、トランプ氏にとってはそれなりに面目をほどこし、来年の大統領選に向けてプラスになった可能性はあります。
その一方で、前提条件なしに金正恩委員長との会談を目指すとした安倍首相に対し、北朝鮮が「わが国に天下の悪事を働いておきながら、面の皮がクマの足の裏のように厚い。執拗に平壌の扉をたたくが、わが国への敵視政策は何も変わっていない」と批判した事情に変化はありません。さすがに拉致被害者家族からも「安倍首相ではダメだ」という声が上がっていると報じられるようになりました。
NHKの記事と櫻井ジャーナルの辛口の記事を紹介します。
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トランプ大統領とキム委員長 3回目会談 韓国大統領も加わり
NHK NEWS WEB 2019年6月30日 17時13分
南北の軍事境界線にあるパンムンジョム(板門店)の韓国側の施設で行われていたトランプ大統領と北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長による3回目の首脳会談は終了しました。会談は50分余り行われました。
韓国メディアは、最初にトランプ大統領とキム委員長の会談が行われたあと、ムン・ジェイン(文在寅)大統領が合流し、史上初めて、アメリカ、韓国、北朝鮮の3か国の首脳が同じ場で面会したと伝えました。
米朝で交渉チーム設置 合意
トランプ大統領は、キム委員長と3度目の首脳会談のあと、韓国のムン大統領とともに報道陣の取材に応じ、「とてもいい会談だった。両国で交渉のチームを設置することで合意した。このチームが交渉の詳細を詰めていく。早く交渉をまとめることよりも包括的でよい合意を達成できるかどうかだ」と述べました。
そして「交渉チームは、これからの2~3週間で何ができるか、またはできないのか見極めることになる。チームはこれから数週間で会合を開き、動き出すだろう。」と話しました。
トランプ大統領「この2年半 とても平和だった」
(省 略)
ムン大統領「よい成果が目前に迫っている」
韓国のムン大統領は、トランプ大統領とキム委員長との会談のあと「トランプ大統領の大胆な提案で歴史的な出会いが成り立った。きょうの出会いを通じ、朝鮮半島の完全な非核化と恒久的な平和を構築するためのプロセスが大きなヤマ場を越えたと考える。全世界と南北の民族に大きな希望を与えた」と述べました。
そのうえで「早い時期に実務交渉に入ることに合意しただけでも、よい成果が目前に迫っていると考える」と述べ、今後に期待を示しました。
軍事境界線でキム委員長を見送る
(省 略)
韓国大統領府「戦争ない世の中のため 全力を結集」
韓国大統領府は、トランプ大統領とキム委員長との3回目の首脳会談に関連して声明を発表し、「きょうの南北米3首脳の出会いは歴史となった。立ち止まっていた米朝交渉にも弾みがつくと期待する。トランプ大統領とキム委員長の真摯(しんし)な努力を評価する」としています。(後 略)
韓国市民 期待も心配も
(省 略)
トランプ大統領 帰国の途に
トランプ大統領は午後7時ごろ、大統領専用機で首都ソウル近郊の空軍基地を出発し、帰国の途に着きました。
朝鮮を恫喝で屈服させることに失敗した米大統領が韓国で巻き返しを図る
櫻井ジャーナル 2019.06.30
ドナルド・トランプ大統領が6月29日にソウル郊外のアメリカ軍基地に到着、韓国大統領府で文在寅大統領の出迎えを受けた。トランプは韓国滞在中に朝鮮の金正恩労働党委員長と「会うかもしれない」と述べている。文大統領は朝鮮とアメリカが首脳会談の実現に向けて水面下で話し合っているといくつかのメディアに語っていたが、これを朝鮮が否定していた。
朝鮮にしろイランにしろ、アメリカ政府は脅して屈服させるという従来に手法を踏襲したが失敗している。その手法を推進しているのはマイク・ペンス副大統領、マイク・ポンペオ国務長官、ジョン・ボルトン国家安全保障補佐官。最近ではCIAのジーナ・ハスペル長官の名前も挙がっている。
今年2月27日と28日にかけて朝鮮とアメリカはベトナムのハノイで首脳会談を実施しているが、合意に至らなかった。その理由について両国の主張は違った。アメリカ側は、金正恩が核施設を廃棄する見返りに経済制裁の全面解除を求めたことが原因だとしていたが、朝鮮側は制裁を部分解除する条件として核施設の廃棄を提示したところ、アメリカ側は拒否、核プログラムの完全的な廃棄を要求し、さらに生物化学兵器も含めるように求めたとしている。さまざまな情報を勘案すると朝鮮側の説明が正しいようだ。
米朝の首脳会談が決裂してから2カ月後に金正恩委員長は列車でウラジオストックを訪れてウラジミル・プーチン大統領と会談。その際にプーチン大統領は金委員長によるアメリカとの「関係正常化の努力」と韓国との対話を歓迎したという。さらに、中国の習近平国家主席が6月20日から21日にかけて朝鮮を訪問、金正恩委員長と会談している。朝鮮とアメリカが水面下で話し合いを進めていたのかどうか不明だが、それが事実であっても事実でなくても、朝鮮は中国やロシアと連絡を取り合っているだろう。
日本では今でも世界情勢をアメリカ中心に語ろうとする人が多いようだが、そうした時代はすでに過去のものだ。