2019年7月28日日曜日

米軍事故対応指針の改善は実体がない 地位協定の抜本改定迫れ

 政府、基地の外で発生した米軍機事故の現場対応に関する「ガイドライン(指針)」において、日本の警察や消防が現場に速やかに立ち入ることができるよう改定することで日米が合意したと発表しました。
 普通に聞けば何か一定の改善が行われたかのような印象を受けますが、立ち入りに米の同意が必要なのは従来と変わりなく、絶対的な主導権を握っているのは依然として米国であって何の前進にもなっていません。
 琉球新報、沖縄タイムスが27日の社説で共に指摘しました。
 
 逆に、民間地であっても米側が日本の「事前の承認なくして」立ち入りを許されることが新たに追加されました。
 いずれにしても同じく米国との間で地位協定を結ぶドイツ・イタリアでは、原則として米軍に国内法が適用されるように既に改善されていることとは雲泥の差です
 
 昨年度全国知事会の全会一致の決定に基づいて日米両政府に日米地位協定の改善の申し入れを行ってから既に1年近くになります。安倍政権は何故その交渉に取り組もうとしないのでしょうか。
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<社説> 米軍事故対応指針 地位協定の抜本改定迫れ
琉球新報 2019年7月27日
 提供施設外で起きた事故の現場に立ち入るのに、どうして米国の同意が必要なのか。主権の行使に消極的な政府の姿勢に、落胆を禁じ得ない。
 日米両政府が、基地の外で発生した米軍機事故の現場対応に関する「ガイドライン(指針)」を巡り、日本の警察や消防が現場に速やかに立ち入ることができるよう改定することで合意した。ただし、立ち入りに日米相互の同意が必要なのは従来と変わりない。絶対的な主導権を握っているのは依然として米国だ。
 
 米国との間で地位協定を結ぶ他国で米軍機事故が起きたときの状況はどうか。県の調査によると、ドイツでは自国が現場の安全を保持し、調査委員会にも入った。イタリアでは現地の検察が証拠品を押収するなど、主体的に捜査している。両国とも、原則として米軍に国内法が適用される。日本では逆に、国内法を適用しないのが原則だ
 第2次大戦の敗戦国という立場は同じだが、戦後の米国との向き合い方には雲泥の差がある。
 
 日米地位協定の合意議事録では、米国軍隊の財産の捜索、差し押さえ、検証を行う権利を日本が行使しない旨を定める。捜索などができるのは米国側の同意があったときだけであり、日本側の主体的な捜査など、望むべくもない
 2017年10月に東村高江の牧草地で起きた米軍CH53ヘリの不時着炎上事故で、日本側が現場に立ち入ることができたのは事故発生から6日もたってからだ。機体はもとより、周辺の土壌まで米軍が持ち去った。捜査当局は手をこまぬいて見ているしかなかった。日本側の反発が強まったことが今回の指針改定の背景にある。
 
 ガイドラインによると、米軍機による事故が起きたときには二つの規制線が設けられる。一つは事故現場至近の「内周規制線」だ。安全性の観点から立ち入るべきではない距離を判断し決定されるという。もう一つは、見物人の安全や円滑な交通を確保するために設ける「外周規制線」だ。
 河野太郎外相は「内周規制線内への立ち入りが迅速かつ早期に行われることが明確になった」と胸を張るが、あくまでも、日米両国の責任を有する職員の相互の同意が前提になる。実際にはケースバイケースの運用になる可能性が大きく、実効性は不透明だ。
 米国の財産である機体の押収を米側が認めるはずもなく、日本側が捜査を尽くせない状況が大きく改善されるとは思えない。
 事故で有害物質が流出したときの日本側への情報提供が明記されたのは評価できるが、これとて、国民の安全を確保する上で当然の措置だ。この間、手付かずだったのは政府の怠慢にほかならない。
 根本にあるのは不平等な日米地位協定の存在である。政府は、弥縫(びほう)策でお茶を濁すのではなく、米国に対し抜本的な改定を迫るべきだ
 
 
社説[米軍機事故新指針]実効性に欠ける内容だ
沖縄タイムス 2019年7月27日
 改定とはいうものの、実効性が担保される形にはなっていない。
 日米両政府は、民間地域での米軍機墜落など基地外で起きた事故への対応を定めるガイドライン(指針)の改定で合意した。
 指針は2004年の沖縄国際大へのヘリ墜落事故で、日本側が現場周辺に立ち入りできなかった問題を機に策定された。しかし17年に東村高江で米軍ヘリが不時着炎上した事故でも、県警の捜査権が著しく制限されるなど状況は変わっていない。
 
 批判の高まりを受け、改定された指針のポイントは三つ。
 (1)現場に近い内周規制線への迅速かつ早期の立ち入り (2)土地への影響が重大な場合、防衛局が土地所有者と調整 (3)事故によって流出する有害物質の情報を速やかに日本側に提供。
 政府は「意義」を強調するが、内周規制線への立ち入りに関する「相互の同意に基づき」との文言は残ったままだ。米側の同意を必要とする点は変わっておらず、米軍は引き続き「NO」と言える権限を持つことになった
 さらに見過ごしにできないのは、民間地であっても米側が日本の「事前の承認なくして」立ち入りを許されるとの内容が追加されたことである。
 沖国大ヘリ墜落事故では、米軍が一方的に規制線を張って現場を封鎖した。県警の現場検証や消防の火災原因調査を拒んだのである。
 立ち入りが現状より後退する不安が拭えない。
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 米軍が日本側の立ち入りを拒否する盾としているのは、地位協定に基づく「日米合意議事録」だ。
 地位協定17条10項(b)は、施設外において米側は日本当局の取り決めに従うと明記する。だが合意議事録は日本当局は米軍の財産を捜索したり、差し押さえたり、検証する権利を「行使しない」とうたう
 つまり地位協定に書き込まれた権利を、国会も通さずに事務方が内々に決めた合意議事録で「放棄」しているのだ。
 
 捜査権は国の主権にかかわる重要な問題だ。日本の主権が制限されることの不利益を集中的に被っているのが沖縄である。
 主権国家として、民間地での事件・事故の捜査権を強く主張すべきだ。
 合意議事録に反するのであれば、議事録そのものを改めるべきである。
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 今回の件に限らず、改善したという体裁を取りながら、米側の同意が必要なため前に進まない話が多すぎる。
 基地周辺の河川から人体への影響が指摘される有機フッ素化合物のPFOS(ピーホス)が高濃度で検出された問題も、基地内への立ち入りがいまだに認められていない。
 調査の円滑化を柱としたはずの日米環境補足協定が、米側の幅広い裁量を認めているからだ
 県民の健康と安全に関わる重大な問題である。日本側が調査できない現状はあまりに理不尽だ。