2019年7月18日木曜日

対韓国輸出規制 政府の「北朝鮮に横流し」説はフェイク

 インターネットの普及に伴って「情報リテラシー」という言葉も広がりました。
「デジタル大辞泉」などによるとその意味は「情報を十分に使いこなせる能力。大量の情報の中から必要なものを収集し、分析・活用するための知識や技能のこと」ですが、ネットなどでは「信頼できる情報かどうかを判別する能力」に特化されているように思われます。
 とはいっても実際に厳密に判断するのは当然容易ではなく、日常生活でも、ある情報が真実かどうかについては多くはそれが信頼できる情報源によってもたらされたものかどうかによって判断している筈です。要するに「ウソつき」が言うことは簡単に信用しないということで多くは事なきをえているわけです。
 もしも政府の言うことが信用できないということになればその国の不幸はいうまでもありませんが、そんな政府を選んだのは当の国民ですから、その責めはやはり国民が負うべきでしょう。
 
 いまTVなどでは、「韓国は北朝鮮に禁止されている戦略物質を流している」から、輸出規制をするのは当然であるという論調が支配的になっているということですが、それこそは政府が「ために流したフェイクニュース」だとLITERAが断じました。政府にすれば参院選のさ中にそうしたエサを投げ込めばメディアはすぐに飛びついて、本来追及されるべきテーマなどそっちのけになることを見越しての「情報操作」だという訳です。
 かつての安倍首相による「北朝鮮脅威論」など、国政選挙などの節目節目に政府がこういう「操作」を数限りなく行ってきたことは、その都度LITERAや日刊ゲンダイその他が指摘して来ました。
 残念ながら多くのメディアは常に踊らされ、多くの国民もまた「目くらまし」に遭いました。
 LITERAの説得力のある記事を紹介します。
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対韓国輸出規制でマスコミが報道した「北朝鮮への横流し」疑惑はフェイクだ! 参院選に韓国叩きを利用する安倍政権
LITERA 2019.07.16
 参院選が一向に盛り上がらない。消費税や年金問題が大きな争点になり、マスコミでもこの問題が一斉に取り上げられるかと思いきや、ワイドショーやニュース番組は韓国への輸出規制問題一色、連日のように韓国批判を繰り広げているからだ。
 しかも、ここにきて、マスコミは“韓国は軍事転用できる輸出品を北朝鮮に横流ししていた可能性がある。だから日本は輸出規制に踏みきった”という趣旨の報道を一斉に展開。ワイドショーのコメンテーターたちの「規制は当然だ」「韓国はおかしい」という雄叫びに、一層拍車がかかっている。
 
 しかし、これ、おかしくないか。そもそも、この対韓輸出規制は当初、徴用工問題で対立する韓国への報復措置といわれていたはずだ。官邸担当記者もこう苦笑する。
「政府は今になって、“北朝鮮への横流しの疑い”という情報を流していますが、実際は明らかに、徴用工問題で韓国に報復したことを国民にアピールするため、官邸主導で行ったものです。輸出規制の開始日を参院公示日の4日にぶつけたのも、そうすれば、マスコミがこの問題に飛びつき、参院選で政権に都合の悪い消費税や年金問題などの争点を消せると踏んだから。われわれ新聞・テレビに対しても、当初は、官邸幹部がオフレコで、徴用工問題との関係を示唆し、煽っていましたから」
 実際、対韓輸出規制が発表されたに1日付の新聞各紙は一斉に「徴用工問題の対抗措置として」輸出規制を行うと報道していた。御用新聞の読売にいたっては、〈日本政府は基本的に輸出を許可しない方針で、事実上の禁輸措置となる。〉などと報復姿勢を煽りに煽っていた。
 
 さらに、当の安倍首相も公示日後のテレビ出演で、輸出規制について「国と国との約束を守らないことが明確になった。貿易管理でも恐らくきちんと守れないと思うのは当然だ」などと、徴用工問題が出発点であることを示唆していた。
 それが、いつのまにか、“徴用工の報復措置”という話はほとんど出てこなくなり、かわりに、「北朝鮮への横流し」問題が大きくクローズアップされるようになったのだ。
徴用工は日本の戦争犯罪をめぐる人権問題。それを“経済的報復”によって封じ込める行為は、本来、国際社会ではルール違反なんです。だから、日本政府も表立ってはそう言わず、“貿易管理に不適切な事案があった”などとお茶を濁しながら、国内では、裏で“徴用工問題への対抗措置”という報道を煽っていた。ところが、韓国がWTOに訴える姿勢を示すなど猛反発、国際社会からも批判の声が上がり始めたので、今度は一転して裏でも、“北朝鮮に軍事転用できる輸出品目を横流しした可能性がある”という情報をマスコミにリークし始めたというわけです」(前出・官邸担当記者)
 
 実際、7日には萩生田光一・自民党幹事長代行がBS フジのプライムニュースで、「(軍事転用されうる品目の)行き先が分からないような事案が見つかっている」と発言。それに呼応するように、10日、やはりフジテレビ(FNN)が独自スクープとして、韓国の不正輸出品が「4年で156件」あり、それが北朝鮮に近い関係国に輸出されていたと報道した。
 そして、この情報が一気に拡散し、いま、ほとんどのワイドショーやニュース番組がこの「156件の不正輸出」をもとに、一斉に「北朝鮮に韓国はけしからん」「輸出規制は当然だ」と雄叫びをあげているというわけだ。
 
韓国政府が公表した摘発件数を不正件数と報じたフジテレ
 しかし、この「北朝鮮への横流し」問題は情報の出所だけでなく、その内容もかなり怪しい。
 前述したように、この問題に火をつけたのは、「【独自】韓国から戦略物資の不正輸出 4年で156件 韓国政府資料入手で“実態”判明」と題した、フジ(FNN)の報道だが、この報道自体が意図的なミスリードのにおいがプンプンするのだ。
 FNNは〈韓国から兵器に転用できる戦略物資が不正輸出された案件が、4年間で156件にのぼることが明らかになった〉として、〈北朝鮮の金正男(キム・ジョンナム)氏暗殺の際に使用された神経剤「VX」の原料がマレーシアなどに不正輸出されたほか、今回の日本の輸出優遇撤廃措置に含まれるフッ化水素も、UAE(アラブ首長国連邦)などに不正輸出されていた〉などと報じた。
 
 だが、FNNが言う「兵器に転用できる戦略物資が不正輸出された案件が、4年間で156件」というのは、実際には、2015年から2019年3月までに韓国政府が「摘発」した件数。つまり、未然に防いだり、不正を正したりした数字という解釈もできる数字なのだ。これがなぜ、不正輸出の証拠になるのか。
 また、FNNが報道したのはあくまで摘発した不正輸出の相手国のなかに、北朝鮮と関係している国があったというだけ。その先はまったくわからない。それを、「北朝鮮への横流し」の証拠のように報じるのは、印象操作以外の何物でもないだろう。
 さらに、重要なのは、FNNの報道が韓国政府の隠している数字を暴いたわけではないことだ。この件数は「例年報告書」として韓国政府がまとめて公開しているし、ひとつひとつのケースの内容についても国会議員の求めに応じて情報公開されている。
 つまり、FNNは韓国政府が取り締まった件数とその内容を報じたにすぎないのだ(ちなみに、この「156件」という数字も、保守系の韓国紙・朝鮮日報が今年5月時点で報じており、「独自」でもなんでもない)。
 
経産省は韓国に検証を迫られ「第三国への横流しを意味するものではない」
 当然ながら、これについては、韓国も反論している。産業通商資源省の朴泰晟・貿易投資室長は11日の記者会見で、「韓国の戦略物資が北朝鮮を含む国連安保理決議による制裁対象国に流出した事例はない」として、「米国の摘発件数はさらに多い。摘発件数が多いことを理由に輸出管理制度への疑念を唱えるなら、もっと多い米国も信頼できないということになる」と主張した(毎日新聞7月12日付)。
 たしかに韓国の言う通りだ。不正を「摘発」したことが「輸出規制」の根拠になるというなら、米国はもちろん、日本だって同罪になる。それどころか、韓国政府は現在、対抗措置として日韓両国の輸出管理違反について国際機関による調査を求めているが、そんななか、国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会専門家パネルで、この数年の間に日本が制裁対象や軍事転用可能な品目を複数、北朝鮮に輸出していたことが報告されていることを、韓国の聯合ニュースが報じている。
 
「北朝鮮への横流し」については、輸出規制を打ち出した当の経産省関係者も冷ややかにこう語る。
「“横流し”疑惑は、官邸から“徴用工の報復のために何かいい方法はないのか”といわれて、経産省幹部がずっと前からいわれている問題を無理やり引っ張り出してきただけ。いまさらだし、内部でもけっこう“無理筋”じゃないかという意見が多かった。たしかに、韓国への輸出品が北朝鮮に流れている疑惑はあるが、確たる証拠はないし、他の国でも同様の不正事件は起きている。このままじゃWTOで負ける可能性もある。経産省は官邸に言われてこぶしをふりあげたものの、頭を抱えていて、いま頃になって『証拠を探せ』と関係部署に号令をかけているようだ」
 
 実際、日本政府はいまも「韓国政府の輸出管理に不適切な事案があった」というだけで、いったい何が「不適切な事案」であるかの詳細については公表していない。本当に「北朝鮮への横流し」が問題ならその決定的証拠を公表すればいいだけの話。それができないというのは、いまの段階でもなお、具体的な証拠を全くつかめていないということではないか。
 それどころか、ここにきて経産省自ら韓国に対して「北朝鮮への横流し」を否定する事態に追い込まれている。12日に日本で日韓の実務者会合が行われたが、産経新聞(7月13日)によれば、日本側の経産省担当者が「不適切な事案」について「第三国への横流しを意味するものではない」と説明したという。
 これは、その少し前、韓国サイドから「(北朝鮮への横流しについて)韓国は国際機関の検証を受ける用意がある」という反論を受けたためだ。自分たちで情報を流しながら、韓国に「国際機関で決着をつけよう」と言われため、慌てて火消しに走ったのである。
 世耕弘成経産相も同様で、16日の会見では国際機関を通じた解決について聞かれ、「国際機関のチェックを受けるような性質のものではまったくない」と完全に逃げ腰になっている。
 
「横流し」に勝ち目がないと見るや、枝葉末節の「撤回要請」発言にいちゃもん
 だが、それでも懲りないのが安倍政権だ。「北朝鮮への横流し」では勝ち目がないと見るや、今度は12日に開いた日韓事務レベル会合をめぐって、韓国が「措置の撤回を要請した」と会合後に説明したことにかみついた。経産省の担当者が記者会見し「(韓国から)問題提起は受けたが、撤回要請は受けていない」と反論したのである。
 小学生じゃあるまいし、撤回だろうが、問題提起だろうが、どうでもいい話だろう。しかも、安倍政権はふだん、自分たちが首脳会談や外交交渉などの内容を平気で捻じ曲げてPRしているではないか。
 厚顔無恥とはこのことだが、しかし、この経産省会見が開かれるや、新聞やテレビはその反論の程度の低さを批判するどころか、一斉に「韓国は撤回なんて要請してない」問題を大々的に取り上げ始めた。
 安倍応援番組の『ひるおび』(TBS)などは先週まで、毎日のように「北朝鮮への横流し」疑惑を報道していたのに、今週はそんなことも忘れたように、実務者会合問題を延々議論し元経産省官僚のコメンテーター細川昌彦氏は「韓国側は輸出管理に基本的知識がなく教えてやった」と蔑視目線丸出しの解説。本日の放送でも韓国側の反応を扇情的に取り上げ「自業自得」「韓国政府よ、恥を知れ」などと嫌韓感情を煽っていた。
 
 政府の出す情報に批判的な視点を一切持たないどころか、安倍政権の情報操作に率先して乗っかってしまう−−−−マスコミの軽薄な御用体質には、いまさらながら呆れかえるほかはないが、しかし、問題はいまが参院選のさなかということだ。
 冒頭でも指摘したように、そもそも、安倍政権がこの対韓国輸出規制を打ち出したのは、徴用工問題で対立する韓国に強行姿勢をとることで、参院選で消費税や年金問題をごまかし、国民にアピールすることが目的だった。そのために、わざわざ参院選公示日に、対韓国輸出規制をあててきたのである。
 実際、安倍自民党はこの対韓国輸出制限を、選挙でアピールするよう、各陣営に命じているようだ。毎日新聞も参院選告示直後の各陣営の動向を報じる記事で、〈自民党幹部は、参院選の候補者らに演説などで輸出制限強化に触れるようアドバイスしている。「慰安婦問題を巡る合意を覆したり、日本産水産物の輸入規制を続けたりする韓国への世論は強硬になっており今回の措置は支持される」と見込む〉と、その内情を報じている(7月5日付)。
 そう考えると、いまの状況は、まさに安倍政権の思う壺ということではないか。御用マスコミや軽薄なワイドショーが一斉に中身のない「韓国の不正輸出問題」と「毅然とした対応をする安倍政権」のイメージをふりまき、安倍政権に不利な消費税や年金問題が隠されていく
 いったいこの国の国民はどこまで騙されれば、眼が覚めるのだろうか。(編集部)