2019年7月2日火曜日

またも蚊帳の外 安倍外交の“惨めな孤立”(日刊ゲンダイ)

 30に突然行われた第3回目の米朝首脳会談は、両首脳にとってウィンウィンだったことは間違いありません。
 韓国はいうまでもなく、中国やロシアもそれなりの感触は掴んでいたようですが、ひとり安倍首相だけはトランプ氏からの示唆もなく、全くの蚊帳の外でした。
 G20における安倍首相の文大統領に対する目に余る冷遇ぶりも墓穴を掘りました。日刊ゲンダイはこの「愚かな感情的外交の総括が絶対に必要」としています。
 それにしてもこんな幼児性から抜けられない人間を、一体何時までトップの座に置こうというのでしょうか。
 
 日刊ゲンダイが、「米朝の歴史的瞬間にカヤの外 安倍外交の“惨めな孤立”(上)(中)(下)」と題する長文の記事を出しました。(上)はデジタル版で公開されていますが、(中)と(下)は非公開です。
 幸いに(中)については「阿修羅」が「文字起こし」しましたのでそれを転載します。
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米朝の歴史的瞬間にカヤの外 安倍外交の“惨めな孤立”<上>
日刊ゲンダイ  2019/07/01
この会談を専門家はどう見るか 朝鮮半島の非核化は動きだすのか 
 30日行われたトランプ大統領と金正恩委員長との3回目のトップ会談は、なにもかも異例ずくめだった。
 現職のアメリカ大統領が北朝鮮に足を踏み入れたのが初めてなら、米・韓・北のトップ3人が肩を並べて談笑するのも、南北分断後初めてのこと。そもそも、この会談自体、トランプのツイッターによって実現したのだから前代未聞である。
 韓国側から北朝鮮に入ったトランプは「軍事境界線を越え、この場にいるのは大変光栄だ」と語り、金正恩は「トランプ大統領が境界線を越えたのは、良くない過去を清算し、良い未来を開拓しようという勇断だ」と称賛してみせた。
 この会談が、2人にとってウィンウィンだったのは間違いない。
 
「会談終了後、金正恩は満面の笑みを浮かべていました。あの表情がすべてを物語っています。トランプとの1対1の会談時間も過去2回より長かった。ポイントは、2~3週間以内に実務協議をスタートすることで合意したことです。これまで北朝鮮は、協議再開の期限を年内と区切り『時間的余裕はない』とアメリカを揺さぶっていた。米朝協議が動きだせば、経済制裁も緩和されると計算しているのでしょう。一方、大統領選を控えるトランプは、北朝鮮問題が進展していると外交成果を訴えられる。2人が会ったのは、利害が一致したからでしょう」(朝鮮半島問題に詳しいジャーナリスト・太刀川正樹氏)
 
 ただし、北朝鮮の非核化は、そう簡単には動かないとみられている。トランプ本人も「スピードが目的ではない」と、会談後、明言している。
 元韓国国防省北朝鮮情報分析官の高永喆氏(拓大主任研究員)はこう言う。
「脱北した元高官は、北朝鮮外交の3本柱は、①核は放棄しない ②核を保有していればアメリカも軍事攻撃できない ③中国は北朝鮮を見捨てることはできない――だと話しています。実際、北朝鮮にとって核は、体制を維持する虎の子です。最後まで放棄することはないでしょう。リビアが大量破壊兵器計画を放棄した後、欧米から空爆されたことも知っているはずです。
 そもそも、北朝鮮の非核化は簡単じゃない。相当な時間がかかる。なにしろ、核兵器を10個以上も保有し、核の関連施設は300~400に及ぶとみられている。アメリカのハッカー博士は、完全な非核化には15年かかると予測しています」
 仮に非核化に動くとしても、北朝鮮の主張通り、時間をかけ、相応の見返りを与える「段階的核廃絶」になるのではないか
 
会談実現に驚く安倍官邸の情報収集能力 
 大阪G20サミットに参加していたトランプが「金委員長に会って握手、言葉を交わす用意がある」とツイートしてからおよそ1日半。3回目の米朝会談の実現に最も目をパチクリさせたのは安倍首相ではないか。
 そうでなければ、橋渡しをした韓国の文在寅大統領に対する安倍の冷遇はあり得ない。外務省幹部は日本テレビの取材に「米朝面会の準備はまったく進んでいないと思う。あまり気にしなくていい」と前日まで甘い見通しを口にしていたというから、安倍官邸の情報収集能力が知れるというものだ。
 元外務省国際情報局長の孫崎享氏は言う。
「米朝会談実現に向けたシグナルはそこかしこに表れていた。そもそも、トランプ大統領が訪韓中にDMZ(非武装地帯)を視察する可能性は取り沙汰されていましたし、G20では文在寅大統領に対して非常に友好的なジェスチャーを繰り返していました
 
 今月に入り、北朝鮮情勢は目まぐるしく動いていた。トランプと金正恩は「美しい手紙」のやりとりで“信頼関係”を確認。北朝鮮の後見人である中国の習近平国家主席が平壌を訪れ、文在寅は国内外の通信社による書面インタビューで「朝鮮半島平和プロセスはすでにかなり進展した。米朝交渉の再開を通じて次の段階に進むだろう」との見通しを示していた。
 政治ジャーナリストの角谷浩一氏はこう言う。
「G20で注視された米中首脳会談でトランプ大統領が制裁関税の第4弾を先送りしたのは、より見栄えのする米朝会談の見通しが立ったからではないのか。官邸を仕切る経産省も、外務省も情勢を見誤ったとしか言いようがありません」
 きのう開かれた党首討論会に出席した安倍は「最後は、私が金正恩朝鮮労働党委員長と向き合って解決しなければならないと決意している」と、いつものセリフを言うのが精いっぱい。トランプとの「緊密な連携」が聞いて呆れる
 
改めて見せつけられた「外交の安倍」という虚像 
 参院選対策で慣例を破ってG7前に押し込んだG20で各国首脳と肩を並べ、安倍が得意満面の主役気取りだったのも束の間。米朝会談という歴史的瞬間はカヤの外だったのだから赤っ恥だ。
 これでいよいよ鮮明になったのが、「拉致の安倍」「外交の安倍」の惨めな正体である。
 北朝鮮を巡る6カ国協議の当事国のうち、いまだに金正恩と会えていないのは安倍ひとり。5月になって慌てて「日朝首脳会談の無条件実施」に方針を百八十度転換したものの、北朝鮮からは「われわれへの敵視政策は何も変わっていない。安倍一味はずうずうしい」と蹴散らされ、相手にもされない。にもかかわらず、きのうも「トランプ大統領から私の考え方を金正恩氏に伝えてもらい、習近平国家主席も問題解決に大変協力してくれている」と強弁する厚かましさである。
「安倍首相はトランプ大統領とトモダチだとか、ゴルフ仲間だとか誇っていますが、外交に生かせていないことが浮き彫りになった。北朝鮮の友好国である中ロは頻繁に首脳会談を開いていますし、習近平主席もプーチン大統領も米朝会談の実現を把握していて、知らぬは安倍首相だけだったのではないか。地球儀俯瞰外交は、文字通り俯瞰するだけなのがハッキリしました」(角谷浩一氏=前出)
 
 中国包囲網にしろ、北方領土返還にしろ、安倍外交が上げた成果はひとつもない。トランプと金正恩の再会も指をくわえて眺めるだけ。脅威を煽り、吠えるだけで実は何もしてこなかった愚かな感情的外交の総括が絶対に必要である。 
 
 
米朝の歴史的瞬間にカヤの外 安倍外交の“惨めな孤立”<中>
日刊ゲンダイ 2019/07/01
阿修羅文字起こしより転載
会談をお膳立てした韓国文大統領に会おうともしなかった非礼の愚かさ 
 日韓合意に基づく慰安婦財団の解散、元徴用工賠償、レーダー照射問題などを抱える日韓関係は「戦後最悪」といわれる。それにしても、G20に参加した文在寅に対する安倍の非礼は目に余るほどだった。よもやの米朝会談のお膳立てに、安倍はじだんだを踏んでいるのではないか。
 安倍は韓国から要望された首脳会談はおろか、立ち話も拒否。初日の写真撮影で儀礼的な挨拶を交わしただけだった。G20メンバーではイタリアのコンテ首相、カナダのトルドー首相、トルコのエルドアン大統領とも安倍は会談しなかったが、コンテとトルドーとはGWの外遊中にG20成功を根回し。2日まで滞在するエルドアンには天皇会見もセットする厚遇ぶりである。
 
「安倍首相の文在寅大統領に対する意図的な疎外はひどすぎる。立ち話すら応じなかったのは、あまりにも非礼です。韓国を冷遇すれば、タカ派的な支持層から歓迎されるとの計算も働いているのでしょうが、あるべき外交から踏み外している。北朝鮮と米国の対話のきっかけを最初につくったのは文在寅大統領です。拉致問題やミサイル脅威に直面する日本は関係国との緊密な連携、情報共有が欠かせない。しかし、ここまで文在寅大統領を突き放した以上、電話会談を申し入れて北朝鮮情報を探るのは難しいでしょう」(孫崎享氏=前出)
 文在寅は国内外通信社の書面インタビューで「いつでも対話のドアは開かれている。G20の機会を利用するかどうかは日本にかかっている」と秋波を送り、青瓦台も「我々は常に会談の準備ができている」とギリギリまでメッセージを発し続けていた。
 拉致問題解決に向けて「あらゆるチャンスを逃さない」という安倍の決まり文句の薄っぺらさが浮き彫りである。
 
少なくともイージス・アショアは凍結、見直しが当たり前 
「今すぐにでもホワイトハウスに招いてもいい」――。“ラブコール”を送ったトランプに、金正恩も笑顔を浮かべていた。
 もはや、北朝鮮が大陸間弾道ミサイルをぶっ放す状況ではない。
 こうなると、安倍政権が「北のミサイルへの対処」を理由に導入を決定した「イージス・アショア」も、もう不要のはずである。
 そもそも、イージス・アショアは日本防衛のために導入するものではない。北のミサイル発射基地から、配備予定地の秋田市と山口・萩市の延長線上には、それぞれハワイとグアムの米軍関連施設がある。配備計画は、両施設を守るため、という見方がもっぱらだ。
 米政界とつながりが強いシンクタンク「戦略国際問題研究所」が今年5月、公表した論文で〈秋田・萩に配備されるイージス・アショアのレーダーは、米本土を脅かすミサイルをはるか前方で追跡できる能力を持っている〉と“白状”しているのだ。
 
 加えて、無理やり秋田市に配備するために、防衛省がズサンな調査をしていたことも次々と発覚している。こんな“無用の長物”に6000億円もの血税がつぎ込まれる恐れがあるのだから、最低でも見直し、凍結が当然だろう。
「導入を決定した当時と現在の状況は大きく変わっています。なぜ必要なのか、説明責任を果たさないまま計画を進めるのは、一度米国と交わした約束を変更することができないからでしょう。安倍政権の対米追従姿勢を如実に表しています。計画を強行することは許されません」(ジャーナリストの布施祐仁氏)
 醜悪なまでの“アメリカ・ファースト”だ。 
 
「ツイッタ―で会談呼びかけ」の真偽 
 それにしても、ツイッターの呼びかけで、3回目の米朝首脳会談が実現したことには、世界中が腰を抜かしている。
<もし金委員長がこのツイッターを見ていたら、南北軍事境界線の非武装地帯で握手をして挨拶(?)をするだろう>
 G20で大阪滞在中の29日朝8時前、トランプがこうつぶやくと、世界のメディアが一斉に速報。当日午前のG20の会場で、トランプは文在寅に「私のツイッター見ましたか」「一緒に努力しましょう」と声を掛け、親指を立てるポーズを見せた。
 会談は本当にトランプの“思いつき”だったのだろうか?
 トランプと面会した金正恩は、会談冒頭で「ツイートを見て本当に驚きましたし、本当に会いたいということを、29日の午後に初めて聞きました」と話している。
 これが事実だとすれば、会談の正式な打診が北朝鮮側に伝わったのは、ツイートの後ということになる
 
 一方で、トランプがG20閉幕後に訪韓し、文在寅とともに非武装地帯に行くことは事前に決まっていた。万が一として、一定の事前準備がなされていた可能性もある。
「過去にもトランプ政権ではツイッターから物事が始まるケースがありました。つぶやきで側近を動かすのです。2016年の大統領選挙時から、トランプは専属のSNS担当を置いていて、現在は政権内のデジタル上級顧問として重用しています。世論への訴え方も計算されている」(国際ジャーナリスト・堀田佳男氏)
 大統領再選戦略の“博打”が大成功したということではある。