2019年7月11日木曜日

11<参院選 公約点検>(1)、(2)(東京新聞)

 東京新聞が <参院選 公約点検> の連載を開始しました。
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<参院選 公約点検>(1)憲法 自公維、9条で距離感
東京新聞 2019年7月9日
 安倍晋三首相は「憲法を議論する政党か、しない政党かを選ぶ選挙だ」と改憲を主要争点に据える考えを表明している。自民、公明の与党と日本維新の会の「改憲勢力」に対抗し、立憲民主、国民民主、共産、社民の各党が安倍政権下の改憲阻止を訴える-。これが基本的な対決構図だ。
 
 公約をチェックすると、改憲勢力、対抗する野党四党のいずれも、内部に距離感のあることが分かる。自民が自衛隊を九条に書き込む改憲案を掲げたのに対し、公明は「慎重に議論されるべきだ」とあえて明記した。維新も改憲項目に九条を挙げなかった。
 改憲勢力内では自公の隔たりがより大きい。公明は憲法論議に前向きだが、九条に関しては集団的自衛権の行使を認めた安全保障関連法の制定を踏まえ「いま触る必要はない」(山口那津男代表)と主張。維新は九条改憲も「真正面から議論する」(松井一郎代表)と明言している。自らの改憲案に自民から賛同を得られれば、九条改憲も支持する可能性が高い。
 
 野党四党は安倍政権下の改憲に反対という点では一致するが、「改憲阻止」のニュアンスに違いがある。立民、国民は状況と内容によっては将来の改憲を認める姿勢。共産、社民は「護憲」の立場だ。
 旧民主・民進党の出身者が多い立民、国民の憲法を巡る公約はほぼ同じだ。いずれも憲法論議の対象に首相の解散権制約と知る権利を挙げ、九条を議論する前提として安保法廃止を唱える。それでも、両党の憲法を巡るスタンスには開きがある。
 各党の候補者に対する共同通信のアンケートで、立民は全員が九条への自衛隊明記に反対したのに対し、国民は87%にとどまった。だからこそ、首相は改憲発議に必要な三分の二以上の議席確保に向け、与党と維新に加え「国民にも憲法改正に前向きな方々がいる」と名指しした。
 参院選の結果、改憲勢力が非改選も含めて三分の二をわずかに下回った場合、安倍政権にとって改憲に理解を示す野党議員の存在が重要になる。個別に働き掛け、数人を「一本釣り」すれば、選挙を経ずに三分の二を回復できるからだ。自民には、今回の参院選で旧民主の現元国会議員四人を公認した「実績」もある。
 政治団体「れいわ新選組」は公約で憲法に言及していない。 (村上一樹)
 
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<参院選 公約点検>(2)年金 制度持続と救済 隔たり
東京新聞 2019年7月10日 
 老後の夫婦の蓄えに二千万円が必要と指摘した金融庁審議会の報告書をきっかけに、高齢者の生活資金不足や公的年金制度への不安が浮き彫りになった。政府は報告書の受け取り拒否で火消しを急いだが、かえって年金問題を重要争点に押し上げる結果になった。
 
 自民、公明の与党が制度の持続性を重視するのに対し、立憲民主、国民民主、共産、社民の野党四党は給付水準に力点を置く。対立軸は、将来の年金財源を確保するために給付を抑制すべきか、現在の低年金者らの救済を優先すべきか-と言い換えることもできる。
 
 一つのテーマに「是か非か」というシンプルな対立軸ではない。自公政権が二〇〇四年に導入した年金制度改革の根幹部分を立民、国民が否定していないからだ。根幹部分とは、物価や賃金が上昇した場合に支給額の伸びを抑える「マクロ経済スライド」のことだ。
 現に実施されている制度なので、自公両党は公約で直接言及していない。制度の維持を前提に「将来の給付を確保するためには年金額の調整が必要」(安倍晋三首相)と説明する。「調整」は給付抑制を意味する。年金の額面が増えても、それ以上に物価や賃金が上がれば実質減になる。
 首相や麻生太郎副総理兼金融担当相は金融庁審議会報告書を「不適切」と切り捨てた。一方で、自民の公約には個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」といった私的年金の活用促進も記載。老後資金を公的年金以外で確保する必要性を事実上認めている。
 立民、国民も公約でマクロ経済スライドに触れなかった。両党の源流の旧民主党が政権を担った際、制度に手を付けなかった経緯を踏まえた判断だ。立民は年金生活者を含む低所得者対策として、医療や介護、保育などの自己負担額の総額に上限を設ける「総合合算制度」の導入を掲げた。国民は生活資金が不足する低所得の年金生活者に、最低月五千円を加算して給付すると主張する。
 共産、社民の公約は与党との違いが明確だ。共産はマクロ経済スライド廃止による「減らない年金」を提唱。社民党もマクロ経済スライド中止を掲げた。
 持続性を最重視するのが日本維新の会だ。現役世代が払う保険料を高齢者の年金に充てる現在の「賦課方式」から、自分が払った保険料を老後に年金として受け取る「積み立て方式」への移行を唯一、打ち出した。
 政治団体「れいわ新選組」は公約で年金に言及していない。 (中根政人)
 
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