安倍首相は参院選の応援演説で、トランプ大統領と親密であることを誇示し「シンゾウ、分かった。その通りにするよ」と耳を傾けてくれると吹聴しているということです。いくらウソつきとはいえ、そんなメッキの剥げてしまった話がよくも堂々と出来るものです。
参院選が終われば、日米通商交渉で日本が農産品の輸入と自動車の輸出に関して大幅に譲歩したことが明らかにされるとは、当のトランプ氏が公言しているところです。
かつて安倍首相は日米2国間の交渉はしないと述べ、その次には関税交渉でTPP11よりも不利になることはないと公言しましたが、結果的にそれらは根も葉もない空言ということになりました。
安倍首相は親密な筈のトランプ氏に一体何を訴え、その結果トランプ氏は、何が「分かり」何を「その通りにする」と言ったというのでしょうか。詮索するまでもないことです。
しんぶん赤旗が「失うだけの日米貿易交渉 安倍首相 参院選後へひた隠す」と題した記事を出しました。これが真実です。
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失うだけの日米貿易交渉 安倍首相 参院選後へひた隠す
しんぶん赤旗 2019年7月14日
安倍晋三首相は参院選の応援演説で、トランプ米大統領との親密さを誇示し、。しかし、この2人が日米貿易交渉で何を話し合っているかは、全く明らかにされていません。参院選での争点隠しの意図は明らかです。国民に隠して交渉を進め、合意を国民に押し付けることは許されません。(北川俊文)
「日本は農産物を大量に買う」
トランプ大統領、米国内でPR
日米貿易交渉の見通しについて、トランプ大統領は5月末の訪日の際、「8月に良い発表ができると思う」と語りました。同時に、ツイッターに「日本との交渉で大きな進展。特に、農業や牛肉で。大部分は7月の日本の選挙の後まで待つ。大きな数字を期待している」と書きました。
「参院選後」で一致
安倍首相の4月末の訪米の際、トランプ大統領は、5月末の訪日前か訪日中の合意を示唆していました。しかし、参院選への影響を恐れる安倍首相の意向で、参院選後とすることに同意したとされます。交渉を直接担当する茂木敏充経済再生相も、「参院選後に早期の成果を目指すことではもともと一致している」と認めています。
とはいえ、トランプ大統領は、国内世論に向けては“実績”を誇示しようとします。5月末の訪日から帰国して間もない6月11日、農業州であるアイオワ州で演説しました。
「日本は先日、『米国の農家から大量の農産物を買う』と言った」
「ごく最近、規制を撤廃し、米国産牛肉の日本輸出を年2億ドル増やすという合意に達した」
日本との交渉で、米国は自動車と農産物を優先しています。
貿易赤字を嫌悪するトランプ大統領は、対日赤字の8割を自動車分野が占めていることを重視。安全保障に影響があるとし、追加関税を脅しに使い、目に見える“成果”を上げようとしています。
日本側の説明否定
農産物分野では、米国が環太平洋連携協定(TPP)から離脱し、米国を除く11カ国のTPP11が発効したため、米国産農産物の対日輸出条件が不利になっています。農業関連業界の不満が噴出しており、トランプ政権は不利な条件の早期挽回を迫られています。
安倍政権は、農産物で譲歩できる限度はTPP水準であり、米国もそれに同意していると説明してきました。しかし、トランプ大統領は4月の首脳会談では、「日本は非常に巨額の関税を農産品に課している」と述べ、「その関税を撤廃したい」とTPPを超える農産物関税撤廃を求めました。また、5月の首脳会談の後の共同記者会見でも、日米貿易協定交渉で「TPPには縛られない」と断言。TPP水準が限度だとする日本政府の説明をいとも簡単に否定しました。
安倍首相とトランプ大統領が進める日米貿易交渉は、TPP水準をも超えて、日本の農産物市場を米国に差し出す危険なものです。
日米貿易協定交渉の経緯
●2018年
9月26日 首脳会談
(貿易協定交渉開始で合意)
11月30日 首脳会談
●2019年
4月15~16日 交渉開始・閣僚協議
4月26日 首脳会談
(トランプ大統領「5月署名」)
5月25日 閣僚協議
5月27日 首脳会談
(トランプ大統領「8月発表」)
6月10~11日 局長協議
6月13日 閣僚協議
6月28日 首脳会談
7月21日 参院選投開票
(「参院選後に早期の成果」)
●2020年
11月(?) 米大統領選挙一般投票
関税削減「TPP超え」確実
東京大学大学院教授 鈴木宣弘さん
日本政府は7月の選挙が終わるまで、国内向けには「譲らない」といっておこうともくろんでいました。しかし、「7月の選挙が終われば、8月にいい話が出てくる」と、トランプ大統領にツイッターで「密約」をばらされてしまいました。
大統領選前に米国議会が手続きを完了するには、スケジュール的に8月がリミットだといわれています。米国が8月にこだわるのには理由があります。
そもそも、「TPP水準堅持」の日米FTA(自由貿易協定)はあり得ません。米国の「失地回復」のためには、TPP11諸国と同じスピードの農産物関税削減では、遅れが取り戻せません。日米FTAでは、発効時点で少なくともTPP11諸国との差がなくなるように、関税削減スケジュールが前倒しされる「TPP超え」は間違いありません。
TPPで米国を含めて設定したバター・脱脂粉乳の輸入枠7万トン(生乳換算)を、TPP11で米国が抜けてもそのまま適用したため、オーストラリアやニュージーランドは大喜びです。これに、日米FTAで米国分が「二重」に加われば、全体としてTPP水準を超えることも初めから明らかです。TPP11合意に含めた米国分を削除するなど不可能に近いのですから、日米FTAで米国になにがしかの乳製品枠を設定した時点で、「TPP水準にとどまる」ことはあり得ないのです。
自動車の追加関税、輸出数量制限、「為替条項」で脅される中、自動車を所管する官庁は、何を犠牲にしてでも業界(天下り先)の利益を守ろうとします。自動車を「人質」にとられて、国民の命を守るための食料が格好の「いけにえ」にされようとしています。
しかも、農や食を差し出しても、自動車への配慮につながることはありません。米国はTPPで約束した、普通自動車関税2・5%の撤廃(25年後)、大型車の25%の撤廃(30年後)も「なかったことにする」と通告してきています。
今回の日米FTAほど、あからさまな「失うだけの交渉」もめずらしい。