2019年7月17日水曜日

自民党の改憲案 ステルス性「緊急事態条項」の危険性は不変

 憲法にいわゆる「緊急事態条項」(国家緊急権)を盛り込むのは9条の改悪よりも危険と言われます。9条の制約を外して、国が戦争出来るようになり、米国が起こした戦争に加担することは大変な悲劇ですが、政権が事実上の立法権までを握ることになれば、あらゆる圧政を「合法的」に行うことができるので、その悲劇ははかり知れません。制定当時最新の民主的憲法と評されたワイマール憲法下で、あのヒトラーの独裁政権が生まれたのがそのよい実例です。
 
 ところで12年に自民党が公表した改憲案では「緊急事態条項」を導入するとしていましたが、批判が激しかったので昨年3月に提示した4項目の「条文イメージ」では、緊急事態条項を新設するのではなく、「憲法73条」ならびに「憲法64条」に付け加える案に変更しています。ステルスタイプ? にしたわけです。
 イメージ的には大いに変わったかに見えますが、実態は「『災害』発生時には内閣は、法律で定めるところにより、~ 政令を制定することができる」(73条)とすることと、「『災害』により通常の選挙が出来なくなった時には、国会は、法律で定めるところにより、各議院の出席議員の三分の二以上の多数で、その任期の特例を定めることができる」(63条)とするもので、災害時には政権が事実上の立法権を持ち、その任期も国会で決められる点で、12年時点の改憲案と何も変わっていません。
 
 この問題について15日放送『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)が取り上げ、ゲストの憲法学者・木村草太氏とコメンテータの玉川徹氏が非常に分かりやすく解説しました。
 
 16日のLITERAがその内容をかなり詳しく報じましたので紹介します。
 (原記事は約5950字の長いものなので当方で約800字ほど削りました。原文をご覧になりたい方は下記にアクセスしてください)
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『モーニングショー』が自民党の改憲案「緊急事態条項」の危険性を検証! 
 田崎史郎の代弁解説に羽鳥慎一まで鋭いツッコミ
LITERA 2019.07.16
 (前 略)もし今回の選挙で自民党が圧勝するようなことになれば、安倍首相は「国民の信任を得た」などと言い、「ワイルドな憲法審査」(萩生田光一・自民党幹事長代行)を強引に進めていくことは必至だろう。(中 略)
 15日に放送された『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)では、あらためて憲法改正の問題点を検証する特集を組み、解説者として登場した安倍御用ジャーナリストの田崎史郎氏の解説に対して、玉川徹氏やゲストの憲法学者・木村草太氏、さらには司会の羽鳥慎一までがその詐術を暴く鋭いツッコミを連発した。
 
 今回、『モーニングショー』が取り上げたのは、自民党の改憲4項目で「憲法9条への自衛隊明記」の陰に隠れてしまっている、「緊急事態対応」だった。
 まず簡単におさらいすると、自民党は2012年に公表した憲法改正草案において「緊急事態条項の創設」を提案。その条文では、《我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態》時に緊急事態宣言が出されると《内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定すること》や《内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすること》を可能にし、その上、《何人も(中略)国その他公の機関の指示に従わなければならない》《基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない》などと規定。総理大臣に権限を集中させ、国会議員の任期延長を可能とし、与党は政令を出し放題、すべての人が否応なく国に従うことを余儀なくされ、法の下の平等や思想・信条・表現・言論の自由などといった権利を「制限」してしまう……というとんでもない内容だった。
 
 このことから、「緊急事態条項」に危機感をもっている国民は多く、じつは『モーニングショー』でも「憲法9条への自衛隊明記」問題を取り上げたあと、視聴者から寄せられた意見で多かったのが「緊急事態条項を取り上げてほしい」という声だったという。
 そして番組では、田崎史郎氏でさえ、こう述べたのだった。
(中 略)自民党は、もともとは緊急事態条項がいちばん大事だってことだったんですよ。それが(中 略)自衛隊明記のほうがグッと前に出てきているんですけども、僕から見ても本当に大事なのは、この緊急事態条項だと思います」
 つまり、御用ジャーナリストも認めるように緊急事態条項は“改憲の本丸”であるわけだ
 
木村草太が「災害対策基本法で十分なのになぜ改憲?」と疑問を突きつける
 では、今回、自民党がやろうとしている「緊急事態対応」改憲とはどんなものなのか。
 自民党が昨年3月に提示した4項目の「条文イメージ」(たたき台素案)では、国民の抵抗を抑えるために改憲草案から条文をソフト化。緊急事態条項を新設するのではなく、「憲法73条」ならびに「憲法64条」に付け加える案に変更している。以下がその「条文イメージ」だ。
 
第七十三条の二 大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるときは、内閣は法律で定めるところにより、国民の生命、身体及び財産を保護するため、政令を制定することができる。
② 内閣は、前項の政令を制定したときは、法律で定めるところにより、速やかに国会の承認を求めなければならない。》
第六十四条の二 大地震その他の異常かつ大規模な災害により、衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の適正な実施が困難であると認めるときは、国会は、法律で定めるところにより、各議院の出席議員の三分の二以上の多数で、その任期の特例を定めることができる。》
 
 ぱっと見だと、2012年の憲法改正草案にあった総理への権限の集中や国民の権利制限といった独裁を可能にする条文が消えており、「これなら問題ないのでは」と思う人もいるかもしれない。
 しかし、番組にゲストとして登場した憲法学者の木村草太氏は、この自民党による「条文イメージ」について、こう指摘したのだ。
「いまの法律でも、現在の憲法73条に基づいて、たとえば災害対策基本法で、災害時の物価の統制とか物流の統制について政令を定めてもいいですよ、もし本当に時間が無い場合には、というような条文がすでにあったりします。なので、この条文、正直いまの政令の制度と何が違うのか、よくわからないところがあります」
 
 大地震や大規模災害の際の対応は、すでに災害対策基本法などに規定があるのに、なぜ憲法を改正する必要があるのか──。そもそも、2015年に日本弁護士連合会が東日本大震災の被災3県の市町村におこなったアンケートでは、「災害対策、災害対応について、憲法は障害になりましたか」という質問に「憲法が障害にならなかった」と回答したのは23自治体96%にものぼり、対して「障害になった」と回答したのはわずか1自治体4%にすぎなかった。また、2016年3月15日付けの東京新聞記事では、菅原茂・気仙沼市長は災害発生によって道路を塞いだ車両撤去などが災害対策基本法の改正によって可能になった点を挙げた上で、緊急事態条項があれば、人の命が救えたのか。災害対策基本法の中にある災害緊急事態条項で十分」と発言。奥山恵美子・仙台市長(当時)も「自治体の権限強化が大事」、戸羽太・陸前高田市長は「震災時は、国に権力を集中しても何にもならない」とまで述べている。
 
 64条にしても同様だ。衆院が解散していても緊急時には内閣は参院の緊急集会を求めることができ、緊急集会が国会の代わりを果たすことができる。このことにより予算や法律の対応も可能になるのだからわざわざ憲法改正する必要はないはずなのだ。
 また、木村氏は、64条の2への文言追加についても、このように疑義を呈した。
「この条文(64条の2)、ちょっと問題なのは、自分で自分の任期を決められるって書いてありますよね。これは非常に問題があって、たとえば取締役が自分の任期を自分で決められますとか、あるいは大学の学部長が自分の任期を自分で決められますっていうのは、それはおかしいでしょうって普通はなるわけでして、今回の場合のような条文をつくるのであれば、たとえば憲法裁判所や最高裁が、延長した任期が妥当な範囲で収まっているかということを管理・監督するというような条文が入っていないと、やっぱりどんどん不要に延ばしていっちゃう危険があということで、ここはもう少し考えなければいけないことが残っていますよね」
 
自民党の「緊急事態」規定を変えた理由、「法律の定めるところにより」にも危険な意図
 さらに、番組は、自民党の「条文イメージ」の最大の問題点についても取り上げた。
 まず、自民党は今回、緊急事態を《大地震その他の異常かつ大規模な災害》と規定しているのだが、番組は、小林節・慶應義塾大学名誉教授が「『自然災害』ではなく『災害』。自然災害に限定していない。他国の武力攻撃や内乱で発動できる可能性(がある)」と指摘していることを紹介。一方で日本会議政策委員である百地章・国士舘大学特任教授が「草案で『武力攻撃』と明記していたのを新たな案では削除。自然災害を前提にしている」と主張していることも取り上げ、木村氏に意見を求める。
 すると、木村氏は「両方の解釈ができる」としながらも、「権力者は当然、広いほうの解釈を採用するので、小林先生の仰っている懸念は懸念としてきちんと受け止めたほうがいいと思います」と見解を示した。
 
 その上、木村氏は「条文イメージ」のなかに隠された危険性を、こう指摘した。
(73条の2に)《法律で定めるところにより》って書いてあるので、その法律の定め方によっては、見ようによっては何でもできてしまうという条文になっていて、これまでに加えて新しい条文を付け加えたので、この条文は『これまでできなかったことを何でもできるようにした条文ですよ』と解釈できる、そういう可能性を秘めた条文ではあるということですね」
 さらに、木村氏につづき、玉川徹氏は非常にわかりやすくこう述べた。
(中 略)法律って、衆議院・参議院の過半数があったらできちゃうんですよ。(中 略)つまり、どの時点でも、与党は法律を定めることができるんですよ。だから、《法律で定めるところにより》なんでもできるということになっちゃう(中 略)
 ようするに、2012年の憲法改正草案にあった危険極まりない文言は消えているように見えるものの、実際には大地震などの災害以外でも適用できる余地があり、さらには与党の独断で政令で好き勝手にでき、議員の任期も延長できるというフリーハンドを可能にする条文になっているのだ。
 当然の話だろう。そもそも憲法をわざわざ改正しなくても対応できるものを、あえて安倍自民党が改正しようとしている、その理由は、2012年の改憲草案のときから変わっていないはずだからだ。
 
焦る田崎史郎に羽鳥慎一までが詰め寄る!「なんで《自然》という文言を抜いたんですか?」
 (中 略)羽鳥氏とこんなやりとりを繰り広げたのだ。
田崎「たとえば《大規模な“自然”災害》って入れればね、おそらく問題ない文章になるんですよ」
羽鳥「なんで(《自然》という文言を)抜いたんですか?」
 (中 略)
羽鳥「解釈広げるために?」
田崎「いやっ、僕はやっぱりこの《大地震》と書いたことで、自然災害を前提としたと思ったんじゃないかと思いますね」
 
 御用ジャーナリストでさえ《自然災害》と書けばいいと思うほどなのに、それを敢えて書かないというところに、安倍自民党の目的が透けて見えるだろう。だが、田崎氏はその後も必死になり、野党批判に矛先を向けたのだ。(中 略)
 
 しかし、ここで見事に木村氏はこう斬り返した。
「自然災害の場合には災害対策基本法で、すでに緊急政令の制度ができていますから、憲法審査会の前に、まず災害対策基本法に不備がないかということを、災害関係の委員会で話し合うのが先だと思います」
 まさにぐうの音も出ない正論。木村氏はほかにも「病院の緊急電源があるのかとか、避難所にちゃんと毛布が用意されているのかっていうようなことのほうがむしろ私は大事だと思うので、災害対策をするのであれば、こうした条文よりもまず、ハードの面はちゃんと整っているか、避難訓練できているか、ソフトの面から見直そう、そういったところからやったほうがいいと思います」と述べたのだが、この意見こそ、多くの国民が賛同するところではないだろうか。
 
玉川徹は「田崎さんは自民党に対してすごい性善説」「自民党が本当にやりたいのは…」
 さらに、玉川氏もこう畳みかけた。
「田崎さんが言っているのは、すごい性善説。(中 略)僕も取材しましたよ、これ(2012年の憲法改正草案)が出たとき(中 略)自民党が野党だったときなんです。だから、ある種、責任がないときなんで、本当に自分たちのやりたいことを書いたっていう話、取材で出てました。だからこっちが本音、2012年のほうが。(中 略)
 現在の改憲「条文イメージ」でソフトに見せかけても、本音は2012年憲法改正草案にある──。(中 略)ようするに、安倍自民党の狙いの本質は何も変わっておらず、「緊急事態対応」の改憲案も危険なものであることに違いはないのだ
 
 参院選投票日を間近に控えているというのに、年金問題をはじめ、これまでの政策の検証さえタブーであるかのように扱おうとしない番組が多いなか、しっかりと改憲の問題点を浮き彫りにした『モーニングショー』には拍手を送りたいが、しかし、冒頭にも書いたように、恐ろしいのは、このまま憲法改正の議論を進める妥当性はあるのかという問いかけがおこなわれることもなく自民党が選挙で勝利することだろう。
 そもそも、安倍首相は「憲法審査会で議論を」という前に、まずはその改憲4項目がどんな目的で、何のために改正しようと考えているのかを公約でしっかり示し、説明すべきだ。だが、公約集を見ても、具体的な内容にはまったく触れておらず、憲法改正についての記述もたったの270文字だ。
 
 これで選挙の争点にしてしまおうというのだから無責任すぎるが、もし選挙で安倍自民党が勝利すれば一方的に憲法審査会の開催が強行されることは間違いない。そうなれば、安倍自民党があっさりと発議まで持っていくのは目に見えている。今回の参院選は、この国の憲法が壊されるカウントダウンがはじまる選挙だということを、肝に銘じなくてはならないだろう。 (編集部)