2019年10月11日金曜日

消費税「10%」で起こる消費者購買行動の“根本的変化”

 10月1日に発表された日銀短観では、大企業製造業で3期連続で景気判断が悪化になりました。内閣府が、昨日、7日発表した景気動向指数も下方修正され、「悪化」となりました。こんなさなかに10%に増税したのは無謀の極み、失政に失政を重ねる「二重の経済失政」に他なりません
 共産党の志位委員長は代表質問で、5%への減税によって二重の経済失政を正すことが必要」であると強調しました。同党の調査によればこの31年間の消費税収は397兆円ですが、同時期に法人3税の税収の減税分は298兆円所得税・住民税減税分は275兆減でした。消費税の税収が、法人税と所得税の減税額(住民税分は除外)にほぼ匹敵するということはこれまでも言われていましたが、その総額は実に巨大でした。
 
 逆進性を持つ消費税は、「庶民から巻き上げた税金を大会社や高額所得者に回す」という実に不正義な悪法です。
 その増税に何一ついいことなどはありませんが、「消費税10%で起こる消費者購買行動の“根本的変化”」に関する有馬賢治立大教授の分かり易い説明を聞くと、政府が増税により税収アップを狙ったものの それを大きく阻害する要因が備わっていることが理解されます。
 「空前の消費抑制」という大失態によって安倍内閣が退場することなればまだ救いはあるのですが、とてもそんな期待が持てるような内閣ではありません。
 Business Journalの記事を紹介します。
 
 斎藤貴男氏による「この政権の企みは消費税のさらなる大増税か安楽死の推進か」(日刊ゲンダイ)を併せて紹介します。
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消費税「10%」で起こる消費者購買行動の“根本的変化”
 Business Journal 2019.10.09
解説有馬賢治 立教大学経営学部教授
 10月から消費税率が10%へと増税された。軽減税率やポイント還元策があるとはいえ、やはり消費者の“基本は10%”という意識はぬぐえない。
 しかし、これまでも消費税率は3%→5%→8%と変遷しており、増税直後は一時的な消費の冷え込みが起こるが、しばらくするとそれも落ち着く傾向にある。今回もそうなるのかと思いきや、「これまでの消費増税とは決定的に異なる部分がある」と話すのは、立教大学経営学部教授でマーケティングが専門の有馬賢治氏だ。
 
■税率10%で衝動買いがこれまで以上に抑制される可能性も
「これまでとの消費税率の差は2%で、もちろんこれも大きいのですが、それ以上に消費者心理に影響を与えるのは、“消費税額の計算のしやすさ”です。1万円の買い物をすれば消費税が1000円と瞬時に計算できるのは当然のこととして、例えば1万5630円というように売価が細かくなっても、桁を変えればすぐに税額が1563円と計算できてしまいます。スーパーやコンビニエンス・ストアの買い物で食品などの軽減税率のものが含まれる場合は、これまでとの感覚に大きな変化は生じないと思いますが、デパートや専門店での買い物では、いつでも値札を見れば瞬時に税額が想起されることになります。すると、“購買前”に支払い税額を理由とした割高感を覚える消費者が増える可能性があります」(有馬氏)
 単純に製品の価格だけなら納得できないこともないものの、そこに目に見える高額な税金が含まれると、どうにも釈然としないのが庶民の感覚。同じ1万円の買い物でも消費税が800円と1000円では桁が変わるだけに、より“損した気分”になってしまうだろう。
 
 さらに消費者の衝動買いも、これまでよりも少なくなると有馬氏は指摘する。
「買い物には事前に買いたいものを決めてから買い物に出かける“計画購買”と、外出先で気まぐれに任せて買い物をする“非計画購買”があります。店頭のタイムセールなどに釣られて衝動的に不要不急なものを買ってしまう“非計画購買”をすることは誰にでもあると思いますが、消費税率が10%だと衝動買いであっても支払う税額が頭に残りやすく、後で冷静になったときに『無駄使いをした』という後悔にこれまで以上に襲われやすくなるのではないでしょうか。こういった理由から、消費者はより慎重に買い物を考えるようになる可能性が高いと思います」(同)
 
■支出上限を意識する消費者にはキャッチーなだけの商品では太刀打ちできない時代へ
 インターネットの普及で比較購買をする習慣が身についた消費者は多いが、有馬氏はこれに加えて「自分が支出できる範囲を意識して、上限を設定したうえで計画購買をする“総額上限設定型”という、云わば子供が月額のこづかいで出費をやりくりする感覚に近い金銭感覚が多くの消費者の習慣になるのでは」と分析する。つまり、消費者が買い物に出かける時には、常に支出可能な上限予算が意識される時代になるということだ。ということは、消費者の財布の紐はこれまで以上に堅くなるが、そんな“買い渋りの時代”に企業はどう対抗すべきなのだろうか。
 
「長期的に考えた場合、企業側は総支払額に対して割安感を訴える工夫をしないと、買い控えに太刀打ちできません。当面は企業側のプロモーションによって消費マインドの冷え込みを抑える努力をするかと思いますが、一定の期間を過ぎるとこういった“総額上限設定型”の購買習慣が定着した“賢い消費者”が増えて、販売に苦戦することが予想されます。そういう時代になると、小手先で魅力を訴えただけの商品では通用しないので、真に消費者の心をつかむ商品やサービスの提供と、魅力を伝えることを総合的に展開するマーケティングが必要になってくるでしょう」(同)
 
 これまではとりあえずキャッチー(受けの良いもの)でさえあれば買ってもらえた商品も、これからはそうはいかなくなる可能性も。今後は賢くなった消費者を「これなら買ってもいいだろう」と真に納得させなければならないのだから、増税は消費者だけでなく企業にとっても試練となりそうだ。
(解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=武松佑季)
 
 
二極化・格差社会の真相  
この政権の企みは消費税のさらなる大増税か安楽死の推進か
斎藤貴男 日刊ゲンダイ 2019/10/09
 消費税がまた増税された。大義名分だった“社会保障の充実”など真っ赤な嘘。政府は今後も社会的弱者を片っ端から切り捨て、滅ぼしていく
 では先々はどうか。私見だが、ごく近い将来、私たちは消費税のさらなる大増税か、安楽死の推進かの二択を迫られよう
 まず、いわゆる“生活習慣病”の自己責任論が全メディアを埋め尽くす。この際、糖尿病など以前は「成人病」と呼ばれた疾病群には遺伝的要因も強い実態は顧みられない。数年前にアナウンサーの長谷川豊氏が吐いた「自業自得の透析患者なんて全額自己負担にせよ! 無理だと泣くならそのまま殺せ!」みたいな人でなしの独善が、社会全体に刷り込まれていく。
 
 現実の動きも急だ。患者の“意向”だとして透析を中止し、死に至らしめて騒がれた公立福生病院(東京都)の院長は、3月の記者会見で森鴎外の「高瀬舟」を持ち出し、病に苦しむ弟の求めで“とどめ”を刺した兄に自らをなぞらえていた。
 事件を受けてガイドラインの見直しに乗り出した日本透析医学会は、終末期の患者に限定されていた透析中止の検討対象を広げる方針という。とすれば福生病院の行為も追認される可能性が高い。
 背景には国策がある。政府は健康や生命の格差をむしろ歓迎し始めた。糖尿病患者を“金食い虫”呼ばわりしてきた麻生太郎副総理に近い主張で知られる経済産業省の江崎禎英氏(現、商務・サービス政策統括調整官)が、昨年から内閣官房健康・医療戦略室次長と厚労省医政局統括調整官を兼務。新設された「全世代型社会保障検討会議」の委員も、新自由主義の牙城「未来投資会議」や「経済財政諮問会議」で活動する財界人らに占められた。
 
 彼らは通常の社会保障論の枠を超え、“給付と負担のバランス”ではなく、病気や介護の“予防”を高らかに掲げる。予防の強調は自己責任論を絶対の正義に装う。賛否両論があり中断されていたが、自民党が再び法案策定を急いでいる「尊厳死」の議論の本質が、社会保障費の削減に他ならないことに鑑みれば、これらの問題すべてが結びついてくる危険を理解できる。
 健康には個人差があるのに、なぜ「人生100年時代」などと言い切ることができるのか、ずっと不思議だった。が、その真意がわかった気がする。下々の病人など皆殺しにしてしまえば、権力と巨大資本に守られた層だけは財政の不安に苛まれることもなく、存分に長寿を堪能できるという筋書きではないのか。
 
 斎藤貴男 ジャーナリスト
1958年生まれ。早大卒。イギリス・バーミンガム大学で修士号(国際学MA)取得。日本工業新聞、プレジデント、週刊文春の記者などを経てフリーに。「戦争経済大国」(河出書房新社)、「日本が壊れていく」(ちくま新書)、「『明治礼賛』の正体」(岩波ブックレット)など著書多数。