2019年10月13日日曜日

13- NHKの自主・自律の放送を守るために 新聞労連が声明

 昨年4月、NHKが「クローズアップ現代+」で「かんぽ生命保険の不正販売問題」を取り上げ、その続編を準備している過程で、郵政側がNHK経営委員会に宛てて「ガバナンス体制の検証」などを求める文書を送り付け、それを受けて経営委がNHK会長を厳重注意したことは、NHK経営委の行為が放送法第32条で禁止している個別の番組編集への関与に抵触しかねないものあり、一方、NHK会長がそれに簡単に屈服し報道の自由を守らなかったという問題でもあります。
 またNHK会長に注意するかどうかについては、経営委内でも意見が分かれたため議決できず委員長の独断で行われ、議事録も作成されていないことが分かりました(放送法第41違反)。
 
 新聞労連が、「NHKの自主・自律の放送を守るために」とする声明を出しました。
 京都新聞社説を併せて紹介します。
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新聞労連 声明
NHKの自主・自律の放送を守るために
 
 かんぽ生命保険の不適切販売を報じたNHKの「クローズアップ現代+」をめぐり、日本郵政グループの抗議を受けて、番組続編の放映が見合わされたり、視聴者にツイッターで情報提供を呼びかけた動画が削除されたりしたことが明らかになりました。この番組は、高齢者を中心に不適切な販売を巡るトラブルに巻き込まれている事態に警鐘を鳴らすものでした。放映内容を受けて、自らの組織で起きている問題を直視するどころか、総務次官経験者の幹部らが抗議や取材拒否に走り、番組に圧力をかけた日本郵政の対応は、「報道の自由」と市民の「知る権利」を著しく侵害するものであり、容認することはできません
 
 一連の問題のなかで、見過ごすことができないのは、NHK経営委員会(石原進・経営委員長)が上田良一NHK会長に厳重注意を行ったことです。放送法第32条で禁止している個別の番組編集への関与に抵触しかねない行為です。経営委員の説明によると、意見が割れて経営委員会としての議決もしなかったにもかかわらず、注意に踏み切っており、放送法第41条で経営委員長に義務づけられている議事録の作成と公表も怠っていました。
 
 石原経営委員長は「視聴者目線に立った」と説明していますが、視聴者を含めた市民に深刻な被害をもたらした事象を報道し、社会と共有する姿勢にこそ、視聴者目線が意識されるべきです。NHKの職員でつくる日本放送労働組合(日放労)が9月27日の中央委員長見解で、「一般の『視聴者目線』からすれば、経営委員会に直接訴える回路を持ち得ていれば、NHKに影響を強く及ぼしうる可能性があるとの疑念を抱かれかねない」と指摘していますが、まさに同感です。
 
 経営委員会は、日本郵政の主張に同調して、NHK執行部のガバナンスを問題視するのではなく、経営委員会自らのガバナンスを改善し、「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」(第1条)などを目指した放送法のルールをしっかり守るよう強く求めます。
 
 また、上田会長をはじめとするNHK執行部には、日本郵政や、放送法を逸脱した経営委員会の要求に対してどのように対応したのかについて、教訓も含めて誠実に語ることが必要です。メディアの自律性に国内外の厳しい視線が注がれるなか、私たち報道機関で働くメンバーは、「報道の自由」を守る不断の努力と、市民に理解を得る取り組みが欠かせません。公共放送を担うNHK職員が不当な圧力に屈することなく、安心して自主・自律の放送に取り組める環境整備を求めます。我々も共に切磋琢磨していきたいと思います。
 
2019年10月10日
日本新聞労働組合連合(新聞労連)
 中央執行委員長 南  彰
 
社説:郵政とNHK 揺らぐ公共放送の信頼
京都新聞 2019年10月11日
 いずれも適正を欠き、公共放送の信頼を揺るがせた責任は重い。
 
 かんぽ生命保険の不正販売問題を報じたNHKの番組を巡り、筋違いの抗議を執拗(しつよう)に重ねた日本郵政グループ、NHK会長を安易に厳重注意した経営委員会、事実上謝罪して「自主自律」を危うくしたNHKの3者だ。
 発端は昨年4月に放送された「クローズアップ現代+(プラス)」。郵便局員らを取材して、保険料の二重徴収など顧客に不利益な契約を強要していた実態を告発した。NHKが続編で追及しようとした矢先、郵政側が抗議。さらにNHK側の不十分な説明につけ込み、「揚げ足」を取るように経営委へも強く迫ったという。
 それぞれ反省すべき点が多いが、とりわけ抗議を繰り返した日本郵政グループは度し難い
 
 告発番組を受け、まず内部調査を徹底すべきだった。社内の問題に目を向ける好機を逸し、不正な保険販売に手を打たず問題を拡大させてしまった。日本郵政社長自ら改めて番組を見直し、「今となっては全くその通り」と悔やんでも遅い。NHKにガバナンス(組織統治)体制の説明を求めたというが、その欠如を責められるべきは郵政側であろう。
 加えて、抗議の主役を務めたとみられる日本郵政副社長は総務省の元事務次官で、かつてNHKを所管する立場だった。今に至ってNHKを「暴力団と一緒」などと批判し、何ら反省していない態度には驚き、あきれる。
 
 片やNHK側にも問題がある。
 放送法は経営委員に個別番組の編集への関与を禁じている。経営委はNHK会長をガバナンス強化の趣旨で厳重注意したというが、郵政側が番組を巡り再三、抗議してきた経緯を踏まえれば、「番組に介入する意図は全くなかった」という言い訳は通用しない。しかも放送法が定める議事録の作成、公表さえ怠っていた。後ろめたかったからではないのか。
 また、公共放送のトップである会長も不正を追及すべき相手に自ら頭を下げた形といえる。報道・制作現場の士気低下は避けられない。言いがかりじみた要求を拒否しなかったのは、政権に近い組織から圧力を受け、忖度(そんたく)して過剰反応したといわれても反論できまい。
 受信料で運営されるNHKは、あらゆる圧力をはねのけ、自主自律を堅持すべき使命がある。大きく傷ついた信頼をいかに回復するのか。時の政権の意向や、外部の圧力に屈するようでは、視聴者の信頼は取り戻せない。