2019年10月20日日曜日

20- 愚かな指導者が国を崩壊させる(孫崎享氏)/政策が生活を狂わせている(浜矩子氏)

 国のリーダーがやるべきことをやらずに、その反対のことをやれば国はつぶれます。トップが「やってる感」を示すことが最高の処世術と考えて、無用にして有害な改憲と軍備の拡張それにトランプ氏への迎合などで頭の中を満たしていれば、国が立ちゆく筈がありません。
 まして「点数稼ぎ」を目指して次々と支離滅裂な政策を打ち出しているのであれば尚更です。
 
 「いまは消費を増やすための政策を考える必要があるが、安倍政権が進めている政策は真逆で消費が冷え込む中で消費税率を引き上げたもはや政府は国全体を考える機能を失ったと言っていい。国が崩壊に向かう時、そこには愚かな指導者が必ずいる。それが今の日本の姿である
 評論家の孫崎 氏はそう述べています。
 
 浜矩子同志社大教授は、安倍政権の政策は支離滅裂だとして、“点数稼ぎ”くさい政策、訳の分からない政策、無責任な政策、生活を狂わせている政策、間違った政策、ロクでもない政策などと、酷評しています。
 
 日刊ゲンダイの二つの記事を紹介します。
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日本外交と政治の正体
国が崩壊に向かう時、そこには必ず愚かな指導者がいる 
孫崎 享 日刊ゲンダイ 2019/10/18
 日本経済が揺らぎ始めた現象が次々に起きている。「セブン&アイ・ホールディングス」は不採算店の閉鎖や移転を決め、「イトーヨーカ堂」や「そごう・西武」は約3000人の削減に乗り出す。「高島屋」も横浜市の港南台店を来年8月に閉めると発表したほか、米子市の米子店は来年3月に地元企業へ譲渡する。高島屋の村田善郎社長は会見で、ほかの地方店の撤退や縮小にも言及し、岐阜市の岐阜店や岡山市の岡山店、堺市の堺店、泉北店の4店舗を挙げた。
 
 国民の消費に関係する企業不振が顕著なのは、経営手腕がおかしいからではない。日本全体の消費が冷え込んでいるからだ
 日本では、65歳以上の高齢者人口は3575万2000人で、総人口の約28%にあたるが、彼らの老後は決して明るいとは言えない。
 安定的な老後生活を送るためには年金のほかに約2000万円の貯蓄が必要と言われているが、そんな余裕はない。いかに消費を抑えて生きていくかに頭を悩ませている。
 さらに労働者にも暗いニュースが流れている。
 8月の労働者1人当たりの平均賃金を示す現金給与総額は前年同月比0・2%減の27万6296円で、2カ月連続でマイナスとなった。
 
 こういう時こそ、政府は消費を増やすための政策を考える必要があるが、今の政権が進めている政策は真逆である。消費が冷え込む中で、消費税率を引き上げたのである。もはや政府は国全体を考える機能を失ったと言っていい。
 週刊朝日(10月4日号)は〈企業は天国、庶民は地獄、税金逃れ大国ニッポン〉という特集記事を掲載。日本企業の“税金逃れ”を問題視している。
 それによると、企業別の税負担率は次の通りだ。
 ソフトバンクG=マイナス30%、本田技研=20%、住友商事=17%、東京電力=8%、アステラス製薬=19%、丸紅=18%、日本製鉄=16%、日本航空=17%、武田薬品=10%、関西電力=12%。そして今や、大企業の内部留保は463兆円にものぼる。
 
 グローバリズムが進む中、世界の工場は、米国から日本、西欧先進国から韓国、台湾から中国、ベトナム、インドネシアなどに移行した。経済運営には、かつてない英知が必要となる。しかし、今の政府が行っているのは、労働者の賃金を下げ、消費税率を引き上げ、消費を減らしている。そして教育費の比率も下げた結果、GDPに占める公的な教育支出の割合はOECD加盟34カ国中で日本は最下位である。
 国が崩壊に向かう時、そこには愚かな指導者が必ずいる。それが今の日本の姿である。 
 
 孫崎 享 外交評論家
1943年、旧満州生まれ。東大法学部在学中に外務公務員上級職甲種試験(外交官採用試験)に合格。66年外務省入省。英国や米国、ソ連、イラク勤務などを経て、国際情報局長、駐イラン大使、防衛大教授を歴任。93年、「日本外交 現場からの証言――握手と微笑とイエスでいいか」で山本七平賞を受賞。「日米同盟の正体」「戦後史の正体」「小説外務省―尖閣問題の正体」など著書多数。 
 
 
支離滅裂の消費増税 「政策」が人々の生活を狂わせている
 矩子 日刊ゲンダイ 2019/10/19
 消費税2ケタ時代が始まり、つくづく思ったのは、責任感や国民への奉仕の精神を持たない人たちが政策を担当すると、おかしなものが出来上がってしまうということです。
 消費税は本来、財政再建のために導入され、順次、税率が引き上げられるのも財政健全化のためだったはずです。しかし今や、安倍政権は自分たちのやりたいことのために増税している。突然、持ち出してきたのが、「幼児教育・保育の無償化」です。今回の増税分の半分を、このいかにも子育て世代向けの“点数稼ぎ”くさい政策に充てることになってしまいました。しかも、当事者たちが本当に欲しい制度ではないから、実は点数稼ぎにさえなっていない。支離滅裂です。
 さらには、増税による消費落ち込み対策として、ポイント還元を導入し、ついでにキャッシュレス化も推進してしまえ、みたいな、訳の分からないことも起きている。
 
 世のため、人のため、という本気の問題意識が欠如しているので、増税効果を自ら相殺するようなことになってしまうのです。
 食品を軽減税率にして8%に据え置いたのも、一体、誰のための政策なのか。突き詰めて検討されたわけではないでしょう。「軽減税率なら食品」と短絡的に決めただろうにおいがプンプンする。食品は多様で、高額なものもあり、購入者は金持ちだったりする。逆進性の排除には全く役に立たない可能性があります。
 そう考えると、消費増税直前の9月末に、トイレットペーパーをいくつも買い込むという消費行動に追い込まれた私たちは、本当に哀れだと思います。無責任な政策が人々を不自然な行動に追い込んでいく
 
 本来、政策は、不自然なことやつじつまの合わないことを修正し、自然でバランスの取れた状態に戻すために存在している。経済・社会に対する「外付け装置」として均衡の保持と回復に努める。それが政策の役割です。ところが、そういう役割のはずの政策が、逆に人々の生活を狂わせているのが現状。これは酷く恐ろしいことです。
 コトは消費増税の問題に限りません。金融政策の失敗もそうです。直近では、関西電力の金品受領という驚くべき事案も明らかになりました。これも日本の原子力政策の怪しい体制に絡んで噴出した問題だといっていいでしょう。
 
 そして、もうひとつ。老後に2000万円不足するという問題です。政府の意図するところではないと金融庁の報告書は撤回されましたが、「貯蓄から投資へ」という方針は、人々を危ない橋へ追いやる間違った政策です。普通の人たちは、健全な貯蓄によって生活を維持できることを望んでいる。それが可能な状況をつくっていくことが、本来の政策の役割のはずです。
 政策が人々の生活をよりよくするものになっていない。むしろ私たちは政策の餌食になってしまっている。
 
 ロクでもない政策とその背後にある安倍政権の下心から、日本の経済・社会を救出しなければいけない状況になってきました。「日本経済救出大作戦」に踏み切る必要が出てきたと思います。
 
 浜矩子 同志社大学教授
1952年、東京生まれ。一橋大経済学部卒業後、三菱総研に入社し英国駐在員事務所長、主席研究員を経て、2002年から現職。「2015年日本経済景気大失速の年になる!」(東洋経済新報社、共著)、「国民なき経済成長」(角川新書)など著書多数。