2019年10月30日水曜日

「表現の自由」危惧 海外の日本研究者ら170人が声明に賛同

 海外の日本研究者たちが、「あいちトリエンナーレ」での企画展「表現の不自由展・その後」の中止や文化庁の支援撤回などの動きを懸念して、このほど「日本の芸術家、ジャーナリスト、学者を支持する声明」を発表しました。声明は日本政府が憲法に基づき芸術家、ジャーナリスト、学者の権利を保護するよう求めるもので、賛同者は約170人(28日現在)に上っています。
 しんぶん赤旗に声明の全文が載りました。
 併せてNHKと毎日新聞の記事を紹介します。
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「表現の自由」危惧
海外の日本研究者ら170人 声明に賛同
 しんぶん赤旗 2019年10月29日
【ベルリン=伊藤寿庸】国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」での企画展「表現の不自由展・その後」の中止や文化庁の支援撤回などの動きを懸念する、欧米などの日本研究者がこのほど共同声明を発表し、日本政府が憲法に基づき芸術家、ジャーナリスト、学者の権利を保護するよう求めました。28日までに賛同者は約170人に上っています。
 
 この「日本の芸術家、ジャーナリスト、学者を支持する声明」は、日本で「表現の自由が脅かされている現状に深い懸念を表明」。文化庁に「あいちトリエンナーレ」への支援中止の撤回を要請しています。
 
 また「政治と行政が表現の自由に敵対する勢力から芸術と学問を守らずに、ポピュリストの要求を受け入れ、テロリストの恫喝(どうかつ)に屈する」のは「到底受け入れられるものではありません」と指摘。日本政府、日本の政治指導者に対し、「ヘイトスピーチその他のあらゆる言語的・非言語的な脅しに立ち向かいたたかうという法的義務を果たす」よう求めています。
 
 声明には、米、英、独、仏、オーストリア、豪、韓国などの日本研究者や美術研究者が名前を連ねています。
 
日本の芸術家、ジャーナリスト、学者を支持する声明(全文)
 
 署名者は、日本において表現の自由が脅かされている現状に深い懸念を表明し、日本政府とそのすべての機関に対して日本の憲法に明記されている芸術家、ジャーナリスト、学者の権利を保護するために必要な措置を講じるよう求めます。特に、文化庁に対して国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」への支援中止の決定を撤回するよう要請します。
 
 民主的かつ多元的な社会において、政治と行政が表現の自由に敵対する勢力から芸術と学問を守らずに、ポピュリストの要求を唯々諾々と受け入れ、あまつさえテロリストの恫喝(どうかつ)に屈するなどということは到底受け入れられるものではありません。
 
 私たちは、海外の芸術家や学術関係者および諸機関と日本の政府機関との間の協力関係に支障が生じかねないほどに、日本の公的機関に対する信頼が甚だしく損なわれてしまったことを深く憂慮しています。
 
 私たちはまた、日本政府ならびに日本の政治指導者が、国際協力、和解、平和の精神に敵対するヘイトスピーチその他のあらゆる言語的・非言語的な脅しに立ち向かいたたかうという法的義務を果たすよう切願します。
 
 最後に、私たちは、日本政府とすべての責任ある政治家に対して、表現と意見の自由を追求する日本のすべての芸術家、学者、ジャーナリストに心からの、かつ公的な支援を提供するよう、また平和と国際理解に関する政治問題の自由かつオープンな議論を促し、それによって人間の成長と発展の真の源である自由、多様性、創造性の安全な港としての日本の名声を回復するように強く訴えます。
 (ベルリン=伊藤寿庸)
主な賛同者
 この声明への賛同者には以下の各氏が含まれています。(敬称略)
 米国=アレクシス・ダデン、シェルドン・ガロン、アンドルー・ゴードン、ジェフリー・キングストン、ビクター・コシュマン(いずれも日本史研究者)、ルイーズ・アリソン・コート(スミソニアン博物館、東洋美術史) 英国=ジーナ・バーンズ(考古学)、スティーブン・ドッド(ロンドン大学東洋アフリカ学院、日本文学) ドイツ=イルメラ・日地谷・キルシュネライト(日本文学)、アデーレ・シュウロンブス(ケルン東洋美術館長)、メラニー・トレーデ(日本美術史) オーストラリア=テッサ・モリス=スズキ(日本史)
オーストリア=セップ・リンハルト(日本社会学) フランス=セシール・坂井(日本文学) 韓国=林志弦(イム・ジヒョン、歴史学)
 
 
トリエンナーレ補助金不交付 文化庁内部だけで決定 手続き批判高まる
毎日新聞 2019年10月3日
 愛知県で開催中の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」への補助金7820万円を文化庁が交付しないと決めたことに、公的な補助事業の審査に携わってきた専門家らから強い批判が起きている。文化庁が、国際芸術祭を補助事業に採択した外部審査員の意見を聞かず、内部で不交付を決定したためだ。専門家らは不透明な手続きに抗議する声明を発表、2日時点で研究者ら約1000人が署名・賛同したほか、外部審査員の野田邦弘・鳥取大特命教授(文化政策)が文化庁に辞任を申し出る事態に発展した。【大場伸也/統合デジタル取材センター、水戸健一/社会部】 
.(以下は有料記事のため非公開)
 
 
補助金不交付に抗議 文化庁事業の委員 辞任相次ぐ
NHK NEWS WEB 2019年10月18日
愛知県の国際芸術祭への補助金の交付を文化庁が取りやめたことに抗議し、これまで文化庁の事業に関わってきた専門家が、委員のポストを相次いで辞任する事態となっています。辞めた委員の1人は「不交付決定は納得いかず、文化庁の姿勢を問いたい」と話しています。
 
慰安婦を象徴する少女像や、天皇をコラージュした作品などに脅迫や抗議が集まり、一部の展示が中止された愛知県の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」について、文化庁は先月26日、申請の手続きなどが不適切だったとして、すでに採択を決めていたおよそ7800万円の補助金を交付しないことを明らかにしました。
この問題について、文化庁の事業の委員を務める大学教授などの専門家3人が、抗議の意志を示すとして相次いで辞任する事態となっています。
金沢21世紀美術館の元学芸員で今回の国際芸術祭の企画に関わった、鷲田めるろさんもその1人です。
NHKの取材に対して鷲田さんは「文化庁の決定は手続き上の不備を指摘しているが、納得できるような理由は示されておらず、展示の内容に問題があると判断したのではないかという疑念は晴れていない。今回の決定は、美術館で企画をする際に作品の展示などに関して政府の意向を気遣わないといけないような萎縮効果を生むと懸念していて、そうした中で文化庁の仕事はできないと考えた」と話しました。
そのうえで「これまで委員として関わった事業自体はすばらしいもので、辞任は本意ではない。ただし、それ以上に今回の決定には承服できず、文化庁として芸術や文化行政に取り組む姿勢を問いたいと考えている」と訴えました。
 
この問題については、これまでにも芸術家や大学教授などが抗議声明を出すなど、文化庁のとった対応への批判が相次いでいます。