2019年10月18日金曜日

緊急放流の6ダムで事前放流せず 国に重大責任

 ダムの緊急放流は12日夜から13日未明にかけ、国や県が管理する6カ所で実施されましたが、それらのダムではいずれも事前放流を行っていませんでした。。
 近年は豪雨続きで緊急放流が頻繁に実施されていますが、必然的に下流の河川での堤防破壊や溢水を引き起こし、甚大な水害につながっています。
 建前的には下流の河川は緊急放流に耐える構造になっていなくてはならない筈ですが、残念ながらそうはなっていません。そんな中で唯一取り得る緩和策が事前放流で、国交省が2004年に作成した「豪雨災害対策緊急アクションプラン」ではそれを行うべきであるとしています。しかし現実に行われていません。
 その理由は明瞭でダムの事前放流には様々な制約があるからです。
 
 事前放流は「事前放流要領を作成し関係利水者の同意と所轄官庁の承認を受けた後予め通知してから行う」のですが、ダムの建設に当たって、国(乃至自治体)が当該河川の利水権者たちとの間に結んだ協定によって、ダム管理者には、「事前放流によって失った利水容量が回復しなかった場合,利水事業者がそれによって受けた損害を賠償する」義務が負わされています。
    ⇒ この件に関しては、「東海アマブログ」10月15日付の
      に詳しく載っていますので、興味のある方はお読みください)
 
 ダム管理者にすれば、臨時放流によって下流に甚大な被害が生じても「ダムの決壊を防ぐためにやむを得ない」という口実で損害賠償は求められないが、もしも放流後に水位が回復しなければ、利水事業者への賠償が生じるから、実際には事前放流はしにくいという事情があります。
 緊急放流の事態に至れば、何よりも人命に関わり、加えて家財、道路、電気・通信設備等々に莫大な損害を与えることになるにもかかわらず、事前放流を選択せずにそちらを選択せざるを得ないというのは実に不健全で不当で、正に「公共の福祉」に反するものです。国家の観点に立てばどちらの損害が大きいかは余りにも明らかです。
 役に立たない一片の通達で済ますのではなく、ダム管理者が公正な立場で事前放流を判断できるような方策を具体的に考えてそれを制度化する責任が政府にはあります。一貫して治水を軽視してきた安倍政権の責任も重大です。
 
 日刊ゲンダイの記事を紹介します。
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緊急放流の6ダムで事前放流せず 国交省・自治体に重大責任
日刊ゲンダイ 2019/10/16
 「人災ではないのか」――。台風19号の豪雨で水位が上がったダムの「緊急放流」を巡り、こんな声が出始めている。国交省によると、全国52河川73カ所で堤防が決壊。神奈川県の相模川の支流では、親子が増水した川に流され死亡する事故が発生した。被害拡大の背景には、治水事業に関する“行政の怠慢”が透けて見える
 
 緊急放流は異常洪水時防災操作と呼ばれ、ダムの貯水量が豪雨などの影響で満杯になった場合に、流入量と同じ量の水を放出する措置のこと。要するに、ダムの決壊を防ぐため、ダムからあふれた水を川に流し込む操作だ。
 国交省によると、今回、緊急放流は12日夜から13日未明にかけ、国が管理する美和ダム(長野)や県が管理する城山ダム(神奈川)など計6カ所で実施された。相模川上流の城山ダムでは12日午後9時半から緊急放流が行われたために水位が上昇。相模川支流の串川では同日午後10時半ごろ、家族4人が乗った車が転落し、全員が遺体となって発見される事故が起きた。
 
■西日本豪雨の教訓を生かせず
 緊急放流と死亡事故との因果関係は不明だが、昨年7月の西日本豪雨でも同様の事故が発生している。愛媛県のダムを緊急放流した後、河川が氾濫し、浸水被害が拡大。9人の犠牲者が出たのだ。
 この被害を受け、国交省は昨年12月、「異常豪雨の頻発化に備えたダムの洪水調節機能に関する検討会」の提言を公表。有識者が<直ちに対応すべきこと>として、次のように指摘している。
 <あらかじめ利水者の理解や協力等を得て、洪水貯留準備操作(事前放流)の充実を図り、より多くの容量を確保すること
 
 これはダムが満杯になってから慌てて放流するのではなく、事前に余裕を持って放流して備えておくことを勧めている。ところが、国交省によると、「緊急放流した6ダムでは事前の水位調節(事前放流)はしていなかった」(水管理・国土保全局河川環境課)というのだ。
「事前放流は、発電や工業、農業などの目的で河川水を利用する利水者との協議が必要です。事前放流後に水位が回復しなければ、利水者との権利問題が発生してしまうからです。なぜ、6ダムで事前放流が実施されなかったのかは不明です」(前出の河川環境課)
 
■ダムに依存した治水事業
 国交省はあくまで、事前放流できる環境を整えてきたと説明するが、西日本豪雨災害の教訓を生かせず、今回も緊急放流に踏み切ったとすれば「人災」と批判の声が出るのも当然だ。ダム建設などに反対している水源開発問題全国連絡会の遠藤保男共同代表もこう指摘する。
 「緊急放流はダムで抑え切れなくなった水があふれ出ることと同じなので、本来なら、ダムの水が流入する河川の治水整備を優先しなければならない。そもそも、国がダムに依存した治水事業を進めてきたのが間違いなのです。川の容量の限界にダムからあふれた水が加われば、決壊するに決まっています。ダム優先の治水計画の“しっぺ返し”ですよ」
 国や自治体の怠慢によって、犠牲を強いられるのは国民だ。