台風19号に引き続いて、25日に千葉県を襲った大雨は19の河川で越水するなどの氾濫を起こし、土砂災害も相次ぎました。千葉県では9人、福島県では1人の合わせて10人が亡くなり、2人が行方不明になっています。
一夜明けた26日、千葉県の森田知事は被災地を視察したあと、「土地のぜい弱さを目の当たりにした。国には根本的な対策を考えてもらいたい」と述べました。
県にもやるべきことはいろいろあるでしょうが、国土の強靭化は国がやるべきものです。治水工事には莫大な費用が掛かるものの、国がやるべきことは勿論それだけではありません。
ジャーナリストの高野孟氏は、安倍首相は軍備拡張路線を貫くには外敵の脅威を強調するにしくはないとばかり、北朝鮮の脅威を盛んに言い立てていますが、それは「危機がどこに迫っているかの認識を完全に誤っている」ものだと述べています。
北朝鮮が脅威でないことは、日本を射程に収めるノドンを数百基所有してから既に20年あまりが経過しているのに、何ごとも起きていないことが証明しています。
高野氏は、日本国民の安全保障上の危機は「内からすでに切迫」しており、今回の台風で送電線の鉄塔が多数倒れたことなどは、それを露わにしたものだとしています。
それは、戦後復興期から高度成長時代に一挙に建設したインフラが40年から50年を経て一斉に耐用年限を迎えたり、それに近づきつつあるということを意味し、いま政治が最優先で行うべきことは、『戦後インフラ』の危機的状況を認識してそれに総力を挙げて取り組むことであると述べています。
まことに、安倍首相が「戦後日本の総決算が改憲」などと ものに憑りつかれたかのように言い立てているのは、余りにも的外れで冗談にもなりません。
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永田町の裏を読む
安全保障上の危機は外よりも先に内側から迫り来ている
高野孟 日刊ゲンダイ 2019/10/24
旧知の都市工学の教授と語る機会があった。安倍晋三首相ほど無知蒙昧、一知半解にまみれた指導者も珍しいが、その中でも彼の最大の勘違いは「日本の安全保障上の危機はどこから迫り来るか」についての認識ではないかということで、大いに意見が一致した。
私自身が房総半島の鴨川市の山中に居住し、台風15号と19号で計13日間の停電と断水、計9日間の電話・携帯・無線ネットの断絶など散々な目に遭った。その体験から、「もちろん気候変動による災害の激甚化で今までの想定を超えたことが次々に起きるのだけれども、それよりも日本の社会生活を支える基本的なインフラがすべて劣化しつつあるために、それに耐えられなくなっていることが問題なのではないか」という感想を述べた。
教授は「その通りだ」と言い、さらにこう指摘した。
「安倍さんは、北朝鮮のミサイルが飛んでくるとか言って、小学生に机の下に潜る訓練をさせたり、バカ高い値段のステルス戦闘機やイージス・アショアを米国から買い付けたりしているが、とんでもない。日本国民の安全保障上の危機は外から来るより先に内からすでに切迫していて、それが今回の台風被害であらわになった。戦後復興期から高度成長時代に一挙に建設したインフラが、40年から50年を経て一斉に耐用年限を迎えたり、それに近づきつつあって、いま政治が総力を挙げて取り組むべきは『戦後インフラの総決算』だ。戦後日本の総決算で『改憲』だなんて冗談を言っている場合じゃない」と。
例えば、我が家の停電は山中の送電線の鉄塔や街道沿いの電柱がバタバタと倒れたことによるが、それらは1970年代に一斉に建設されたものが多く、その技術的基準は「風速40メートルに耐える」と経産省令で定められている。その初期のものはすでに50年を経て弱ってきているのに、9月12日付の日経によると、「東京電力は原発事故で経営が厳しくなり、1991年に送配電設備に9000億円を投じていたのに最近は8割減の2000億円」に減らしている。だから50メートルを超える風には耐えられなかった。
このように、電気だけでなく浄水場や水道管も、道路や橋やトンネルや堤防も、放置された杉林も、何もかもがその上に成り立っている戦後の社会的遺産が失われつつあるということの自覚が求められるのである。
高野孟 ジャーナリスト
1944年生まれ。「インサイダー」編集長、「ザ・ジャーナル」主幹。02年より早稲田大学客員教授。主な著書に「ジャーナリスティックな地図」(池上彰らと共著)、「沖縄に海兵隊は要らない!」、「いま、なぜ東アジア共同体なのか」(孫崎享らと共著」など。メルマガ「高野孟のザ・ジャーナル」を配信中。