2019年10月24日木曜日

千曲川の氾濫は「ダム最優先・堤防強化二の次」政策が招いた“人災”

 台風19号が本州に上陸した10月13日、千曲川の堤防が70にわたって決壊し長野市穂保地区を中心に甚大な被害を及ぼしましたそれは、去年7月岡山県倉敷市真備町で起きた堤防決壊瓜二つで、「歴代自民党政権による人災」嘉田由紀子前滋賀県知事 参院議員)が繰り返されたのでした。
 河川政策の専門家でもある嘉田由紀子氏は、知事になった頃から「矢板やコンクリートで周りを囲む鎧型堤防にして補強すべきと国に提案してきたそうですが、歴代の政権は鎧型堤防は当てにならない。堤防補強よりもダム建設だと言って取り合わなかったということです。
 現実に穂保地区の事故は、千曲川の水がまず越水を起こしそれが堤防の裏側の盛り土を抉った結果破堤するに至ったもので、堤防の強度不足によるものでした。
 
 15日昼過ぎから「堤防調査委員会」委員長の大塚悟・長岡技術科学大学教授が現地視察を行い、会見に応じました。
 ジャーナリストの横田一氏が会見の内容をレポートしました。同氏は、地元記者との質疑応答が一回りしたところで鋭い質問を連発しています。
 それに対して大塚教授は、堤防の強度が不十分であったことについては、「一般論として、堤防はもともと土堤ですから、それほど強度は強いものではない」と認めたものの、具体的な強化方法になると、言を左右にして政府の不作為をカバーするかのような発言に終始しました。委員長たるものがそんな姿勢では、堤防の拡充強化は今後もあまり進みません。
 
 堤防工事の範囲は余りにも膨大なので、ダムの効能を謳ってその建設に重点を置くというのは間違いで、倉敷市真備町での堤防決壊もダムの緊急放流が原因でした。たとえ上流にダムがあっったとしても、下流の堤防の拡充強化はなおさら必要であるということの良い例です。
 安倍政権は、これまで60兆円ともいわれる莫大なカネを海外にばら撒いてきたことを反省し、兵器の爆買いも直ちに止めて、喫緊の課題である堤防の拡充強化に全力で取り組むべきです。
 横田一氏の記事を紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
千曲川の台風被害は、「ダム最優先・堤防強化二の次」の治水政策が招いた人災”
横田 一 2019年10月23日
HARBOR BUSINESS Online
千曲川の堤防が約70メートルにわたって決壊した長野市穂保(ほやす)地区。堤防復旧工事が進んでいたが、この先で川幅が狭くなり、水位が上がって堤防決壊のリスクが高いところだった
 
◆ダム建設を最優先し、堤防強化を軽視してきた 
 台風19号が本州に上陸した10月15日、千曲川の堤防が70メートルにわたって決壊した。その現場である長野市穂保地区を訪れると、そこには東日本大震災の被災地と同じような光景が広がっていた。 
 一階部分の壁が抜け去った二階建て家屋が立ち並び、一気に押し寄せたであろう濁流の激しさを物語っていた。庭には車や農機具がガレキに埋もれ、周辺は一面泥でまみれていた。 
 堤防脇の住宅は半壊状態。ようやく晴れ間が見えるようになったためか、長靴をはいた女性が家の周囲を見て回っていた。「ご自宅ですか?」と声をかけると、無言のまま小さく頷いただけで、その場から離れていった。しばらくすると、再び自宅前に戻って損壊状態を確かめていた。
 
 目の前に広がっていたのは、去年7月の西日本豪雨災害で堤防が決壊した岡山県倉敷市真備町と瓜二つの光景でもあった。死者50人以上の被害を出した真備町の堤防決壊について「歴代自民党政権による人災」と指摘したのは、河川政策の専門家で日本初の流域治水条例をつくった前滋賀県知事の嘉田由紀子参院議員だ。 
 筆者が以前リポートした記事「『西日本の豪雨災害は、代々の自民党政権による人災』河川政策の専門家、嘉田由紀子・前滋賀県知事が指摘」で、嘉田議員は次のように語っていた。 
「滋賀県知事になる頃から『矢板やコンクリートで周りを囲む、アーマーレビー工法で鎧型堤防にして補強すべき』と国に提案してきたのですが、歴代の自民党政権は『鎧型堤防は当てにならない。堤防補強よりもダム建設だ』と言ってきた」 
 今回の台風19号被害は「ダム最優先・堤防強化二の次を続けてきた、歴代政権による“人災”が再び繰返されたといえる。西日本豪雨災害の教訓を活かさなかった現政権の職務怠慢の産物と言っても過言ではない。
 
◆強化できたはずの堤防をなぜ放置していたのか 
 千曲川の堤防決壊現場では、15日昼過ぎから「堤防調査委員会」委員長の大塚悟・長岡技術科学大学工学部教授が現地視察を行い、会見に応じた。地元記者との質疑応答が一回りしたところで、筆者は次のように聞いてみた。 
 
――越水で浸食して破堤したということであれば、そもそも堤防の強度が不足しているのではないか。「もっと(堤防を)強化しておくべきだった」という見方はされないのでしょうか。 
大塚委員長:一般論ですが、堤防はもともと土堤ですから、それほど強度は強いものではない。 
――鉄板(矢板)を入れるなどして堤防を強化できるはずです。越水をしても決壊しない工法をやろうとすればできるはずだったのに、なぜ採用されなかったのですか。 
大塚委員長:それはたぶんプラスの面とマイナスの面があるのだろうというふうに思います。確かにシートパイル(鋼矢板)が入っていれば、水に強いということは言えます。ただ、それが土堤とよく馴染んでいなければ、効果を発揮しないのかなと思います。 
   それと、堤防は延長が長いですから。全部にシートパイルを入れるのかと。それは非現実的ですし、現状ではいろいろな判断で入れられていないことになると思います。
 
◆大塚委員長「今後、(堤防強化を)検討していく」 
 とても納得できる発言ではない。堤防が決壊した穂保(ほやす)地区は千曲川の川幅がすぐ先で狭くなっていて、大雨時には水位が上がって堤防が決壊しやすい“危険地域”だったからだ。堤防が決壊した西日本豪雨災害を教訓にして、緊急に堤防強化をすべき高リスク地区であるのは一目瞭然だった。それを怠っていたのだ。筆者は質問を続けた。
 
――(穂保地区の)この部分は、この先が(川幅が)狭くなって特に危険な区域だと指摘されていますが、そういうリスクが高いところの堤防強化を緊急にするべきだったのではないですか。 
大塚委員長:もしそういうご批判があれば、今後、検討していく必要があると思います。 
――去年の西日本豪雨災害の教訓を全然活かしていないのではないか。あの時も破堤して「堤防強化をするべきだ」という専門家の意見が出たにもかかわらず、なぜ、ここは強化されなかったのですか。 
大塚委員長:例えば、堤防強化をするのも一つですし、河道断面を大きく増やすとか、粘り強い堤防を作る。それ以外に拡幅工事、堤防を厚くするとか、いろいろな方法があります。堤防の上を舗装するとか、いろいろな浸食対策が行われていて、全国的に実施されています。
 
◆「堤防は決壊してはいけないが、非常に延長が長く……」 
 
――堤防強化を最優先にせずに、ダムを最優先してきた治水政策が今回の災害を招いたという指摘もありますが、その点はいかがですか。 
大塚委員長:その点については、私にはちょっとまだ分かりません。この場所についてはこういうことが起きてしまいましたので、今後の対策をもっと考える必要があると思います。しかし、そういった施策全般についてここだけを見て言うことはできないと思います。 
――堤防は「決壊してはいけないもの」ではないですか。それが起きたことへの専門家としての意見はどうなのでしょうか。 
大塚委員長:堤防は決壊してはいけないと思っています。誰もがそう思いますが、堤防は非常に延長が長い。全部工事をしていくと、それは莫大な予算と時間がかかってしまう。だから国としてはずっと努力はしていますが、非常に長い時間がかかる中で、どうしても整備率が上がらないという現実もあると思います。 
――特に、ここは緊急にやるべきところだったのではないでしょうか。 
大塚委員長:そこはいろいろなご判断があるのだと思います。
 
◆まず最優先するべきは、危険地域の堤防強化だ 
ダムが国を滅ぼす』などの著者がある今本博健・京大名誉教授(河川工学・防災工学)は大塚委員長の発言について、こう指摘する。 
「鋼矢板補強についての質問に対し、委員長は『周辺地盤と馴染んでいないと効果を発揮しない』と答えていますが、国交省の言い訳をなぞっただけです。地震などによって、鋼矢板と既設堤防との間に空隙ができることを指しているようですが、たとえ空隙ができても鋼矢板は破堤を防ぎます。 
 委員長の発言は、河川工学者ではなく地盤工学者のような発言です。今回の調査委員会も、現地を見るだけで自らは調査をせず、国交省の調査をもとに国交省の見解を結論とすると思われます」 
 千曲川の破堤個所を訪れたことがある今本氏は、堤防決壊の原因についても次のように推定した。 
「下流の河道が狭まっていますので、せき上げにより水位が上昇して越水し、破堤に至った可能性が大です。堤防補強が完了していたようですが、補強のやり方がまずかったのでしょう。堤防の高さについての検討にも問題があったのではないでしょうか」 
 
 千曲川の堤防決壊の原因が浮き彫りになっていく。それは「下流の河道(川幅)が狭まる危険個所であったのに、堤防強化が不十分で決壊に至った」というものだ。 
 今本氏は現役時代の災害調査で、被害者から「原因究明もいいが、二度と同じことが起こらないようにする研究もすべきだ」と言われたことがあるという。「それ以後はこのことを心がけています」(今本氏)。 
 堤防決壊で大きな被害が出た西日本豪雨の教訓を活かさず、安倍政権が再発防止(危険地区の緊急堤防強化)を怠ってきたことは間違いない。今回の台風19号襲来で、堤防決壊続出を招いた主原因といえるのだ。「ダム最優先・堤防強化二の次」の河川政策が今後、どう問いただされるのかが注目される。 
<文・写真/横田一>
 
【横田一】 
ジャーナリスト。小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)に編集協力。その他『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数