炎暑の時期に開催される東京五輪のマラソンと競歩を、東京ではなく涼しい札幌で行うようにというIOCの提案を日本は受け入れました。
この夏、炎熱の中東カタールで開かれた世界選手権大会で、マラソンと競歩は深夜に開催されたにもかかわらず、途中でレースをやめる選手が続出した例を見ても、やむを得ない、しかも合理的な会場の変更でした。
17日、18日の段階で、IOC会長から2時間以内に結論を出すように迫られたとTVは報道していましたが、その提起はもっと以前に行われていたのに無回答で推移したため、最後の段階でせかされたのでした。
この段階になってからの会場の変更はいろいろ大変なのかもしれませんが、アスリートの生命の問題には代えられません。遅きに失したとはいえ、森・大会委員会長があるいは日本サイドが決断できなかったことが、IOCの外圧によって正解に導かれたのはありがたいことと思うべきでしょう。
そもそもこの段階で醜態を演じることになった大もとは、五輪誘致に伴う利権や政権浮揚に目がくらんだと思われる安倍政権による大ウソで塗り固めた誘致活動にありました。
LITERAがその概要を報じました。
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東京五輪マラソンの札幌変更をIOCから提案されても東京開催を言い張る人々
招致でも「アスリートに理想的な気候」と大嘘
LITERA 2019.10.17
2020年東京五輪のマラソンと競歩について、国際オリンピック委員会(IOC)がコースを東京から札幌に移すことを提案すると発表した。非常に妥当な判断だ。東京のあの猛暑のなか、マラソンを強行すれば、棄権者が続出。最悪、死亡者が出た可能性もある。
ところが、この期に及んでも、大会組織委員会、日本陸連関係者などは「いまさら変更は不可能」「調整が難しい」などと反対意見を口にしているらしい。東京都の小池百合子知事も16日夜の会見で「計画が唐突な形で発表された」「このような進め方については、多くの課題を残すものであります」とIOCに噛み付いた。しかも、日刊スポーツによると、「五輪の花形競技であるマラソンを東京でやらないのは、あり得ない」と発言する東京都幹部もいたという。
出場選手の生命の危機さえ指摘されている状況で、こいつらはいったい何を言っているのか。きょうの『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)で玉川徹氏が「たぶん日本て1回こうやると決めちゃうと、あとで不都合が生じても目をつぶっちゃうところがある。これもう戦争で負けたときとまったく一緒」と語っていたが、本当にその通りだろう。
というか、そもそも、こんな事態になったのは、東京五輪招致委員会が招致の際に嘘をついたせいなのだ。オリンピック招致の際に作成した「立候補ファイル(日本語版)」にはこんな記述があった。
〈この時期の天候は晴れる日が多く、且つ温暖であるため、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候である〉
あの猛暑のなかで開催するというのに、「温暖」「理想的」とは信じられないが、大会組織委や東京都は招致決定後も、危険性を散々指摘されながら、この嘘を貫き通し、根本的な解決策も、まったく講じなかった。その結果、上部団体のIOCに札幌開催を提案されてしまったのである。
本サイトはかなり早い段階から、この酷暑問題を取り上げ、招致委員会がついた様々な嘘を指摘してきた。そして、「打ち水で酷暑対策」などと非科学的な安全神話を吐く政府、「五輪の酷暑を心配する人は反安倍」などとレッテル貼りをして批判を封じ込めようとする元陸上日本代表・為末大氏ら五輪応援団のおかしさを指摘してきた。
ここにその記事の一つ(※)を再録するので、ぜひ読んでほしい。そもそも、五輪招致自体が嘘で塗り固められたものだったことがよくわかるはずだ。(編集部)
(※ 以下は原文 LITERA 2018年8月23日付記事「東京五輪"酷暑"問題の元凶は招致委員会の嘘だった!「温暖で理想的な気候」とプレゼン、今だに「打ち水で対策」と妄言」の再掲です)
東京五輪“酷暑”問題で政府は「打ち水で対策」、為末大は「苦情はNBCに」
日本列島は連日猛暑に見舞われている。18日に総務省消防庁が発表した速報値によると、7月9日から15日まで間に、熱中症で救急搬送された人数は全国で9956人にのぼり、搬送された患者のうち12人が死亡したという。この暑さはこれからもまだまだ続く予報で、引き続き熱中症への警戒が呼びかけられている。
この暑さを受けて思いを馳せずにはいられないのが、2020年東京オリンピックのことだ。東京オリンピックは20年の7月24日から8月9日にかけて行われる予定であり(パラリンピックは8月25日から9月6日まで)、命の危険すらある酷暑のなかで開かれるからだ。1964年に行われた前回の東京オリンピックは10月10日から10月24日にかけて行われたもので、今回の大会とは状況がまったく違う。
当然、巷間やSNSには酷暑開催となる2年後のオリンピック開催を憂う声が溢れているわけだが、そんななか、暑さや熱中症対策として国が出している対策はあまりにもこころもとない。
国土交通省は2015年から複数回にわたり有識者会議を開き、オリンピック期間中の暑さ対策について話し合ってきたが、その結果として導き出された答えは、〈有識者会議は、打ち水のほか、浴衣、よしずの活用など日本ならではの対策を盛り込み、観光PRにも生かしたい考えだ〉(15年4月17日付ニュースサイトYOMIURI ONLINE)だったのである。
21世紀に導き出された結論とは到底思えぬ、戦時中の竹槍訓練を彷彿とさせる冗談のような熱中症対策には、もはやため息も出ない。そんななか、日増しに高まる世間からの熱中症への危惧に対して、陸上の元日本代表選手である為末大氏はこのようにツイートした。
〈みんなこんなに暑くて大変なこの時期にオリンピックをやるなんてオリパラ委員会は何をやってるんだと言うけれど、アメリカのプロスポーツの間を縫うためにあそこしかできないのが本当のところだと思うので、苦情はNBCとかIOCに伝えた方がいいと思う〉
NBCはアメリカの3大ネットワークのひとつ。確かに、為末氏が指摘する通り、夏期オリンピックがこの時期に開催されるのは、アメリカのテレビ局の「夏枯れ」対策によるものである。
しかし、だからといって〈苦情はNBCとかIOCに伝えた方がいいと思う〉というのはまったく正しくない。というのも、日本側は、7月から8月の間に開催する日程でないと東京にオリンピックは呼べないと認識したうえでオリンピック招致を進め、しかも、この時期の東京が野外で激しい運動をできるような気候でないことを隠して招致を強引に押し進めたからである。
五輪招致は嘘だらけ! 酷暑を「温暖で理想的な気候」、原発は「アンダーコントロール」
オリンピック招致の際につくられた「立候補ファイル(日本語版)」のなかにある「2020年東京大会の理想的な日程」という項目にはこのように記されている。
〈この時期の天候は晴れる日が多く、且つ温暖であるため、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候である〉
ここ数日の東京は、最高気温35℃前後を推移し、最低気温も25℃を下回らない熱帯夜が続いている。年によって多少の差はあるにせよ、こうした猛暑は今年の夏だけに限ったことではない。これを〈温暖〉と言い切るのはどう考えても無理があるだろう。〈アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候〉というのも噴飯ものだ。どう考えても〈最高の状態〉になどならないだろう。
このオリンピックの招致にはとにかく嘘が多い。2013年、ブエノスアイレスで行われたIOC 総会の最終プレゼンで福島原発事故問題について安倍首相が放った「アンダー・コントロール」なる言葉がその象徴なわけだが、こんなところまで嘘で塗り固められていたというわけだ。
そして、この嘘は現在指摘されているような問題が起きると認識したうえで吐かれた確信犯だった。
キャスターの久米宏氏はかねてより東京オリンピックの招致や開催に否定的な意見を語っている。その理由のひとつに、暑い夏での開催がアスリートの健康を無視しているという理由があるわけだが、各所で批判を繰り返している久米氏のもとに、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会から一通の手紙が届いたという。
その手紙には、酷暑となる夏の東京での開催を否定する久米氏への反論が記されていたわけだが、そこにはこのように書かれていたという。17年8月12日『久米宏 ラジオなんですけど』(TBSラジオ)のなかで久米氏は組織委員会から届いた手紙の内容をこのように朗読している。
「第32回オリンピック競技大会においては招致の段階で、開催時期は2020年7月15日から8月31日の期間から選択するものと定められていました。この期間外の開催日程を提案した招致都市は、IOC理事会で正式に候補都市としてすら、認められていませんでした」
組織委員会が主張する「この期間外の開催日程を提案した招致都市は、IOC理事会で正式に候補都市としてすら、認められていませんでした」という認識は正しい。
新自由主義ハードラー・為末大は、酷暑を心配する人は反安倍と意味不明なレッテル貼り
東京オリンピック開催の問題点を指摘し続けている著述家の本間龍氏が著した『ブラックボランティア』(KADOKAWA)によると、カタールのドーハは気温が45℃にまで上昇する夏場の開催は避けて10月開催を主張したところ、2016年および2020年と最終選考にすら残れずに落選しているという。
つまり、夏期オリンピックを開催したければ、この真夏の時期以外に選択肢はないというわけだ。だから、招致する日本側は〈この時期の天候は晴れる日が多く、且つ温暖であるため、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候である〉などという嘘を吐いたのである。
仮に、真夏の開催を強行したことが原因で、選手なり、観客なり、スタッフなりが熱中症で倒れたとする。この事故の根本的な原因をつくりだしたのは誰か? 為末氏が名指ししたNBCやIOCか? いや、違う。嘘をついてまで強引にオリンピックの招致を行った日本側だろう。
ちなみに、為末氏は先ほど引いたツイートの後、こんなつぶやきもツイッターに投稿していた。
〈ところで大会期間中の気温を心配する人たちと、現政権に反対の人たちが妙に重なっているのが偶然だろうか〉
現実に死者も出ている酷暑のなか五輪を心配するのはごくふつうの感覚で反安倍も親安倍もないと思うが、こんなことにまで“反安倍”とレッテル貼りするとは。両者が符合しているという具体的なデータがないので何とも言えないが、もし仮に両者が重なり合うのだとしたら、それは、「おかしいことに『おかしい』と言う人たち」というだけのことだろう。
熱中症でバタバタ人が倒れ、亡くなる人まで出るような気温のなかでオリンピックが開かれるのは「おかしい」し、豪雨被害が報告されている最中でも総裁選対策のための酒盛りをやっている首相も「おかしい」からだ。 (編集部)