2021年1月27日水曜日

27- 新型コロナ法改正ここが論点 ②、③(東京新聞)

 東京新聞のシリーズ「新型コロナ法改正ここが論点」の②と③です

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<新型コロナ法改正ここが論点②>
感染症法「患者に罰則」正当か
                         東京新聞 2021年1月25日
 感染症法改正案には、新型コロナウイルス感染者への刑事罰の新設が盛り込まれた。憲法が保障する「移動の自由」の制約につながるだけでなく、患者が「犯罪者」になりかねない。かつて感染症患者への人権侵害や差別が行われた歴史もあり、懸念は根強い

◆入院措置の拒否や入院先から逃げ出すと刑事罰
 刑事罰が適用されるのは、都道府県知事による入院措置の拒否や、入院先から逃げ出した場合で、1年以下の懲役か100万円以下の罰金だ。政府は与野党協議で、患者が入院先から無断外出して温泉施設を利用したり、宿泊療養中に出歩いたりした事例を紹介。行動の制約には罰則による強制力という「最終的な手段」(厚生労働省幹部)が不可欠と訴える。
 だが、政府の説明には異論も多い。入院勧告に従わなかった患者が感染を広げたという科学的な根拠を示していないからだ。厚労省は刑事罰の対象になるような事例が全国で何件あったかを調査、集計していないことも認めており、人権団体などは「強力な人権制約を正当化する事実は存在しない」と指摘する。

◆ハンセン病政策での苦い教訓
 反発が広がる背景には、感染症を巡る過去の苦い教訓がある。日本では戦前からハンセン病患者の強制隔離政策を実施し、治療が可能になった戦後も人権侵害や差別が横行した。
 日本医学会連合は声明で、らい予防法廃止後の1998年に制定された感染症法が「歴史的反省のうえに成立した経緯を深く認識」するよう求めているとして「感染者個人に責任を負わせることは倫理的に受け入れがたい」と再考を迫っている。与野党の修正協議では懲役刑の部分の削除が検討される。
 改正案には、患者が感染経路の追跡調査を拒んだり、虚偽の回答をしたりした場合にも50万円以下の罰金を科すと規定する。罰則を導入すれば、検査そのものを避けることにつながり、対策の実効性を高める狙いに逆行するとの指摘もある。(坂田奈央)


<新型コロナ法改正ここが論点③>
懲罰的な店名公表、拡大のおそれ
                         東京新聞 2021年1月26日
 新型コロナウイルス感染拡大の「第1波」に襲われた昨年春、休業要請に応じないパチンコ店などへ抗議が殺到し、営業継続を断念する店舗が相次いだ。きっかけは都道府県知事による店名公表だったが、懲罰的な対応は新型コロナ特別措置法の趣旨に反するとの指摘もあった。今回の特措法改正案では、緊急事態宣言前の「まん延防止等重点措置」でも公表できる規定となり、同じような問題が起きる可能性がある。
 現行の特措法は宣言の発令時、感染拡大を防ぐため、知事が事業者に休業や営業時間短縮を要請・指示でき、その内容を遅滞なく公表するよう定める。生活に必要な情報を提供し、行政権の乱用で過度な権利の制限につながっていないかを国民がチェックできるようにする仕組みだ。
 ところが、知事が要請に応じない店名だけをまとめて公表し、記者会見で苦言を呈するなど懲罰的な運用も横行した。強制力のない「お願い」をされただけの事業者が営業を続けて批判されたり、嫌がらせを受けたりする問題が相次いだ。
 改正案は、知事に事業者への休業などの命令(現行法では指示)を認め、宣言前の「まん延防止等重点措置」でも同様の対応を取れるようにする。行政の権限が強化され、法の趣旨に反した店名公表が広がることを不安視する声もある。
 また、感染症法の改正案は、政府が医療機関に病床確保などの協力を「勧告」できるとし、正当な理由なく応じない場合は公表も可能とする。制裁的な公表と受け取れる規定で、日本医師会の中川俊男会長は「懸命に地域医療を守っている医療機関にいきなり勧告がなされ、従わない場合は公表する仕組みの導入は容認できない」と反発する。
 田村憲久厚生労働相は「大前提は(医療機関との)信頼関係」と説明するが、新型コロナ対策の実効性を確保するために政府などの権限強化は欠かせないとも訴える。(市川千晴)