2021年1月20日水曜日

施政方針演説 高まる批判に全く反省がない

 18日、菅首相が施政方針演説を行いました。しかし新型コロナ感染の急拡大の中で、それをもたらしたことへの反省もなければ、感染拡大を抑制する具体策もありませんでした。

 それなのに「安心と希望に満ちた社会」の実現に向け自らコロナ禍との「闘いの最前線に立つ」と述べてみても、ただ空虚に響くだけです。
 しんぶん赤旗は「2度目の緊急事態宣言を出す状況に至っても、首相に根本的な反省はない」とし、「国民の命と健康を守り抜くというのなら、全額国費での社会的検査と医療体制の本格的支援や自粛要請に対する補償を実行すべきである」としました
 東京新聞は「危機克服の決意が見えない」とし、「必要なのは、危機を乗り越えるために国民から理解と共感が得られるような誠実な態度と言葉だ」と述べました
 神戸新聞は、「疑惑や批判に向き合わず、強権的にものごとを進める姿勢が、国民のさらなる不信を招いている。それが政府のコロナ対応にも影を落としていると首相は自戒すべきだ」と指摘しました
 他紙の社説のタイトルを見てもほぼ同様の論調です。
 しんぶん赤旗、東京新聞、神戸新聞の社説を紹介します。
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主張 首相施政方針演説 高まる批判に全く反省がない
                       しんぶん赤旗 2021年1月19日
 菅義偉首相が就任後初となる施政方針演説を行いました。演説はその年の政府の基本方針を明らかにするものです。新型コロナウイルス感染の急拡大の中で、首相の発する言葉に注目しましたが、心に全く響きません。かつてない苦難に直面している国民に努力を求めるばかりで、政府自らが真剣に取り組む姿勢がないからです。4カ月前の就任以来強権ぶりを見せつけてきた日本学術会議への人事介入や、続発する「政治とカネ」問題への反省もありません。菅首相に政治のかじ取りを任せることはできません。

急落する内閣支持率
 施政方針演説の当日、「読売」は内閣支持率が39%に急落し、不支持率が49%と政権発足以来初めて支持と不支持が逆転した世論調査結果を報じました。「毎日」調査(17日付)も支持率が33%に下落し、不支持率が57%と大きく広がりました。
 国民の厳しい批判が集中しているのは菅政権の無為無策のコロナ対策です。深刻化する感染拡大にまともな手を打とうとせず、むしろ「Go Toキャンペーン」に固執し続けることで、危機的事態を引き起こしてきました。2度目の緊急事態宣言を出す状況に至っても、首相に根本的な反省はありません
 施政方針演説ではPCR検査の抜本的拡充には全く触れず、医療機関への減収補填(ほてん)や時短要請に応じた飲食業への十分な補償にも踏み込もうとはしません。それどころか、要請にこたえない業者に罰金を科す罰則規定の導入などを打ち出しました。国民の不安にこたえ、理解と納得を得るのではなく、力ずくで進めることは感染抑止への逆行以外の何物でもありません。「国民の命と健康を守り抜く」というのなら、態度を改め、全額国費での「社会的検査」と医療体制の本格的支援や自粛要請に対する補償を実行すべきです。
 すぐに審議に入る2020年度第3次補正予算案は、「Go To」事業の期間延長や大型公共事業に多額の予算を投じるもので、感染急拡大と緊急事態宣言再発令という事態に全く対応していません。作り直しが不可欠です。
 菅首相が繰り返してきた「自助・共助」「まずは自分でやってみる」の言葉は施政方針演説では消えました。「自己責任」を迫る姿勢への国民の批判を意識したものですが、75歳以上の医療費の窓口負担の引き上げは明言し、冷たい政治を変える立場ではありません。「グリーン」をうたい文句にした原発推進や、沖縄での米軍新基地建設の推進を表明したのは民意無視の極みです。菅政権を国民の声で追い詰めることがますます必要です。

「国民の信頼」得られぬ
 菅首相は、安倍晋三前首相の「桜を見る会」前夜祭問題をめぐる自らの過去の国会答弁について「おわび」したものの、おざなりです。在宅起訴された吉川貴盛元農林水産相らの「卵」汚職について触れなかったのは言語道断です。これで「政治家にとって何よりも国民の信頼が不可欠だ」といってみせても空疎なだけです。
 菅首相が改憲議論を改めて呼びかけたのも、この政権の危険性を浮き彫りにするものです。野党と国民のたたかいで強権的で冷たい菅政権を倒し、政権交代を実現することがいよいよ急務です。


社説 首相施政方針 危機克服の決意見えぬ
                         東京新聞 2021年1月19日
 通常国会が召集された。新型コロナウイルスの感染拡大が止まらず、緊急事態宣言の最中である。喫緊の課題は感染抑止だが、菅義偉首相の施政方針演説から危機克服の決意を感じ取るのは難しい
 昨年九月に就任した菅首相には初の施政方針演説だ。内政、外交全般にわたる政策の方向性を国民を代表する国会に説明する機会だが、国民の関心がこの危機をどう克服するかに集まるのはやむを得まい。しかし、演説はどれだけ国民の胸に響いただろうか。
 首相は演説冒頭、新型コロナ感染症が「わが国でも深刻な状況にある」として「一日も早く収束させる」との決意を述べ、午後八時以降の外出自粛要請など、緊急事態宣言に伴う対策に言及した。
 首相が今、国民に問われているのは、感染を抑える自身の決意と具体策のはずだが、演説からは、そのいずれも読み取れなかった。
 共同通信世論調査では政府のコロナ対応を「評価しない」は68・3%に上る。評価が低い従来の取り組みを並べ立てても、国民に安心感を与えることはできない。
 そもそも首相が政府のコロナ対応について、国民に説明を尽くそうとしているのか、甚だ疑問だ。
 政府が緊急事態宣言の発令方針を報告した衆参両院の議院運営委員会には、野党側の求めにもかかわらず、首相は出席しなかった。記者会見は何度かしたものの、出席できる記者や質問数は限られ、事務方が「次の日程がある」として途中で打ち切るのが常だ。
 危機に際し、国民の負託を受けた指導者が対応の陣頭に立つべきは当然だが、強気で臨み、強い言葉を語ればいいわけではない。必要なのは、危機を乗り越えるために国民から理解と共感が得られるような誠実な態度と言葉だ。
 演説から首相の持論である「自助」を強調する文言が消え、「互いに支え、助け合える『安心』と『希望』に満ちた社会の実現を目指す」としたことは評価したい。
 そうした社会の実現には首相自身が指摘するように政治への国民の信頼が不可欠だ。
 首相は演説で安倍晋三前首相を擁護した「桜を見る会」前日夕食会を巡る自身の虚偽答弁は謝罪したが、元農相、吉川貴盛被告の収賄事件や河井克行、案里両被告の選挙違反事件などへの言及はなかった。
 コロナ対策の実を挙げるためにも政治への信頼回復は引き続き重要な課題だ。「政治とカネ」を巡る一連の事件の真相解明と再発防止にも力を注ぐべきである。


社説 施政方針演説/空虚に響く「安心と希望」
                            神戸新聞 2021/01/19
 新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言が再発令される中、通常国会がきのう召集され、菅義偉首相が初の施政方針演説に臨んだ。
 首相は、国民に再び制約のある生活を求めることを「大変申し訳ない」と謝罪したものの、政府のコロナ対策への反省はなかった。
 「安心と希望に満ちた社会」の実現に向け、自らコロナ禍との「闘いの最前線に立つ」とも表明した。だが、感染拡大が勢いを増す現状では空虚に響くばかりだ。
 飲食店に的を絞った対策は適切か、医療体制の確保や困窮者への手当は十分か。政権の対応を厳しく検証し、誤りがあれば軌道修正を求める、国会の責任は重大である。
 焦点は、営業時間短縮の要請に従わない事業者や、入院を拒否した感染者に罰則を科す関連法の改正である。緊急事態とはいえ、私権制限につながる法改正を拙速な審議で決めることは許されない
 現行法の見直しは全国知事会などが早くから指摘していた。だが政府、与党は野党の会期延長要求に応じず、臨時国会を早々に閉じた。国会が約1カ月半も休んでいる間に感染は拡大し、議論は進まなかった。
 事業者への補償や病床の確保が不十分なまま国や自治体の権限だけが強化されれば、国民の反発を招き感染者が潜在化するとの指摘もある。首相は国会軽視の姿勢を改め、丁寧な説明を尽くすべきだ。
 2020年度第3次補正予算案と過去最大となる21年度予算案の精査は欠かせない。停止された「GoToトラベル」の延長経費をそのまま計上したり、敵基地攻撃への転用が懸念されるミサイル開発で防衛予算が膨らんだりと問題が多い。コロナ禍に苦しむ国民への支援策との優先順位をどう考えるのかも論点だ。
 「桜を見る会」を巡って首相は、官房長官として安倍晋三前首相を擁護し事実と異なる答弁をした点は謝罪したが、政権内で相次ぐ「政治とカネ」の問題には触れなかった。「困難な課題にも答えを出す」と言うなら、前政権の「負の遺産」の清算にも取り組むべきだ。
 日本学術会議会員の任命拒否問題にも言及しなかった。任命拒否の理由という問題の核心は曖昧なまま、政権が人事に介入できるという既成事実だけが残る恐れがある
 疑惑や批判に向き合わず、強権的にものごとを進める姿勢が、国民のさらなる不信を招いている。それが政府のコロナ対応にも影を落としていると首相は自戒すべきだ。
 内閣支持率の下落は政治不信の深刻さを示している。国民の不安や懸案への「答え」を迫る真剣勝負の論戦を、与野党に期待したい。