2021年1月30日土曜日

30- 新型コロナ法改正ここが論点 ④ ~ ⑤(最終回)

 東京新聞のシリーズ「新型コロナ法改正ここが論点」の  ④ ~ ⑤ です。
 今回が最終回です。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
<新型コロナ法改正ここが論点 ④>
行政側の求め拒否…「正当な理由」線引きは
                         東京新聞 2021年1月27日
 新型コロナウイルス対策の関連法改正案に盛り込まれた罰則の多くは、行政側の求めを「正当な理由なく」拒むことで科される。国民の権利を不当に制限しないよう弁明などの手続きができる見通しだが、どんな事情なら「正当」と認められるか線引きは難しく、基準がはっきりしない
 感染症法改正案では「正当な理由なく」入院措置を拒否した患者に刑事罰を科す。新型コロナ特別措置法改正案では、新設する「まん延防止等重点措置」や緊急事態宣言の下で「正当な理由なく」休業・営業時間短縮の要請に応じない場合に行政罰の対象となる。
 だが、患者が誰かを感染させるために出歩いたり、事業者がクラスター(感染者集団)を発生させても営業を続けたりするなど例外的な事案でない限り、それぞれ個別の事情がある。基準が曖昧なままでは、子育てや介護で自宅を離れられない人、倒産の瀬戸際で店を開けざるを得ない事業者まで違法とされ、罰則を科される恐れも指摘される。
 西村康稔経済再生担当相は26日の衆院予算委員会で、正当な理由が認められる事例に関して「個別の事由はこの段階ではお答えできない。かなり限定的に考えていかなければならない」と述べた。甲南大法科大学院の園田寿教授(刑法)は「『正当な理由』の解釈や判断は難しく、行政側の恣意的な運用への歯止めが必要だ」と語る。
 これまで新型コロナ対策で行政側による法的根拠の乏しい「お願い」が多用され、従わない事業者は非難された。「正当な理由」を判断する際、弁明の機会や不服申し立ての手続きが設けられるとみられ、人権保障にプラスという見方もあるが、行政手続法は意見聴取を「公益上、緊急に不利益処分をする必要がある」場合なら省略できると規定する。
 迅速な対応を求められるコロナ禍は「緊急時」とみなされる可能性がある。日本弁護士連合会は改正案で「適切な手続きが保障されるか不明だ」と懸念する。(山口哲人)


<新型コロナ法改正ここが論点 ⑤>
休業や時短への財政支援 十分に保障されるのか
                         東京新聞 2021年1月28日
 新型コロナウイルス特別措置法改正案は、国と地方自治体に対し、休業や営業時間短縮の要請に応じた事業者への財政支援を義務付けた。だが、憲法29条の財産権に基づく損失補償とは位置付けられず、具体的な金額などは行政の裁量に委ねられる。従わない場合の罰則が導入されるのに、協力への見返りがちゃんと保障されないのはバランスを欠くとの指摘もある。
 憲法29条3項は「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる」と「正当な補償」を明記する。休業要請などは私有財産の制約に当たる可能性があるが、現行の特措法では、都道府県知事が休業などを要請、指示しても財政支援の規定がない。社会全体の利益となる公衆衛生のためには、経済活動のある程度の制約が認められると解釈されているからだ。
 政府は当初、財政支援を努力規定とする方針だったが、与野党からの批判が相次ぎ、義務規定に切り替えた。それでも、財政支出が拡大することを恐れ、条文では「必要な財政上の措置を効果的に講ずる」と曖昧な規定にとどめる。
 明治大学の木村俊介教授(行政法)は特措法改正案に財政支援の義務規定が盛り込まれたことについて、公衆衛生のための規制なら損失補償しないという従来の政府見解から一歩踏み込んだ「異例の対応」と前向きに評価。一方で「肝心なのは実際の支援の内容だ」として、予算にどう反映されるかが重要と話す。
 野党は「影響に応じた」補償の規定を設けるよう訴えるなど、事業規模や損失に応じた補償を求める意見は根強いが、政府は「規模に応じて支援する補償的なことをやると、時間がかかる」(西村康稔経済再生担当相)と否定的だ。政府は雇用調整助成金を含め、他の制度の活用も呼び掛けるが、十分な補償とセットでなければ、事業者によっては生活のために営業を続けざるを得なくなり、対策の実効性が上がらない懸念もある。(川田篤志)=おわり